鰭脚類(ひれあしるい)(読み)ひれあしるい(英語表記)pinniped

翻訳|pinniped

日本大百科全書(ニッポニカ) 「鰭脚類(ひれあしるい)」の意味・わかりやすい解説

鰭脚類(ひれあしるい)
ひれあしるい
pinniped
seal
sea lions
walrus

哺乳(ほにゅう)綱鰭脚目Pinnipediaに属する海産動物の総称。「ききゃくるい」とも読む。鰭脚類は海獣類のなかで、鯨類、海牛類と異なって四肢を有するが、それらは歩行よりも遊泳に適するようにひれ状をしている。分類学者のなかにはこの目を食肉目Carnivoraの亜目としてしか位置を与えない人もいる。鰭脚目はアザラシ科、アシカ科、セイウチ科の3科に分かれる。アシカ科とセイウチ科とは近縁で、クマの祖先種から進化したと考えられ、一方アザラシ科はカワウソの祖先種から進化したと考えられている。現在、アシカ科14種、セイウチ科1種、アザラシ科19種が存在する。

西脇昌治

形態

鰭脚類は、しなやかな流線形をし、セイウチを除いて全身に体毛が密に生え、種によって粗毛(あらげ)(刺毛)と綿毛(わたげ)(下毛)の割合が異なる。アシカ科には耳介があるが、セイウチ科とアザラシ科にはそれがない。四肢の骨は短いが、指の骨は比較的長く、ひれ状になっている。

[西脇昌治]

生活

鰭脚類は大部分の生活を水中で過ごすが、セイウチとアシカ類は前鰭(ぜんき)をオールのように使い、後鰭は舵(かじ)の役目をするのに対して、アザラシ類は後鰭を櫓(ろ)のように使って泳ぎ、前鰭はほとんど使わない。陸上での歩き方も両類で異なり、アシカ類は四肢歩行ができるが、アザラシ類は後肢前方に曲げることができないので、イモムシ状に歩行する。鰭脚類は水中での体温の放失を防ぐために脂皮(しひ)を発達させている。体毛は陸上での断熱に役だつ。鰭脚類は数十メートルから数百メートルの深さまで数十分間も潜水できる種がいる。鰭脚類は水中で魚類、軟体類、甲殻類などを餌(えさ)とする雑食性の種が多い。一方、陸上または氷上で繁殖期を過ごす。

[西脇昌治]

分布と利用

アザラシ類は、高緯度の海氷域や淡水域にまで広く分布する。しかし、アシカ類の分布は狭く、北大西洋には分布せず、海氷域にも存在しない。

 鰭脚類は毛皮油脂、食料として太古から人類に利用され、19世紀からは商業猟獲により大きな打撃を与えられた種が多い。また、漁業と競合関係も大きく、ほかの人間活動によっても被害を受ける。しかし、今日では鰭脚類の保護に大きな関心と努力が払われている。

[西脇昌治]

生息数

鰭脚類は、同じ種のなかでいくつかの個体群に分かれている例が多い。たとえばオットセイ北太平洋のみに分布し、五つの個体群が存在する。オットセイは現在177万頭が生息しているが、その頭数と動向は個体群によって異なる。セイウチは北半球の高緯度沿岸海域に分布し、約15万頭が存在する。鰭脚類のなかでもっとも生息数の多い種はカニクイアザラシで、南極大陸の周囲の氷域に生活し、少なくとも1500万頭が生息すると推定されている。鰭脚類のなかでもっとも大形のミナミゾウアザラシは南半球の亜南極の島で繁殖する。現在の生息数は全域で60万頭と推定され、資源は回復しつつある。

[西脇昌治]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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