polluter pays principleの頭文字をとったもので,汚染原因者負担の原則,汚染者費用負担の原則などと訳されている。
1960年代末から70年代初めにかけて,公害問題は日本において大きな社会問題になったが,同時に,国際的な広がりも示すに至った。実際,72年6月には,スウェーデンのストックホルムで国連人間環境会議が開催され,地球的レベルで汚染が進行していることに対する警告が発せられ,また汚染の未然防止の重要性が指摘された。これに先だって,先進工業諸国は,OECD(経済協力開発機構)の中に環境委員会を設け,72年5月には,〈環境政策の国際貿易面に関するガイディング・プリンシプル〉として,PPPを加盟各国が採用するよう勧告を出している。OECDのPPPの内容を要約すると,現在,大気,水などの環境資源は生産,消費の経済活動によってきわめて悪化しており,したがって,ますます希少化しつつある清浄な環境資源を合理的に利用していくためには,環境汚染を未然に防止するための費用や環境制御措置に伴う費用を汚染者が負担し,それを市場価格の中に適切に織り込むことが必要であり,そうすることによって,国際貿易や投資の歪みを回避することが可能であるということになる。
こうしてOECDが加盟各国に採択を勧告したPPPは,公正な国際貿易取引という国際経済上の視点から提起されたこと,公害被害者を救済するための費用やへどろなどの蓄積公害を除去するための費用を問題にしたのではなく,事前の汚染防止費用の負担を問題にしたこと,また,防止費用を汚染者に負担させるために,課徴金という経済的刺激をもたらす政策手段を重視したことなどの点に特徴がある。このPPPからすると,公害防止設備に対する減免税措置や,公的資金の低利融資は,補助金政策の一種であって望ましくないものとされたのである。
OECDがPPPの採択を勧告したころの日本では,たとえば,1970年の公害防止事業費事業者負担法では,緩衝緑地やしゅんせつなどの公害防止事業において,汚染者の費用負担が明記されていたように,汚染者は事後的なストック公害除去費用を負担する責務があるという負担原則が議論されていた。また,72年には四日市公害裁判の判決が出され,コンビナート企業の共同的な不法行為に対する民事上の損害賠償が認められ,それを受けて,公害健康被害補償法が整備された(同法は,74年9月から実施された。88年3月,全面改訂されて,新規患者の認定が行われないことになった)のである。このように,1960年代に,水俣病や四日市喘息などの健康被害にかかわる激しい公害に直面した日本では,汚染者の責任を明確にして,健康被害者の救済費用などを汚染者に適切に負担させることが,汚染者費用負担の原則とされていた。この潮流と72年のOECDのPPPとが合流し,事前防止の費用(経済的刺激よりは排出基準などの法的規制によって汚染者負担が促進された)と,事後的な費用を汚染者に適切に負担させるというPPPが,70年代に定着したのである。
執筆者:永井 進
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【Ⅰ】Pariser-Parr-Popleの略称.[別用語参照]分子軌道法【Ⅱ】polluter pays principle(汚染者負担の原則)の略称.環境を汚染したものが汚染の防除に要する費用(汚染防除費用)を負担すべきであるという基本原則.1972年,OECDで提唱され,国際的にも確立されている.わが国の汚染者負担の原則は,上記の汚染防除費用だけでなく,環境復元費用,被害者救済費なども汚染者が負担すべきであるという点で上記と異なる.
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…経済的刺激策では,補助金,財政投融資,減免税,課徴金などの手段があるが,課徴金がもっとも有効であるといわれる。課徴金を汚染者に負担させる方法をPPP(汚染原因者負担の原則)という。この方法では,結局のところ,汚染者はその負担を経済的弱者に転嫁し,多くは消費者負担となる。…
※「PPP」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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