多くの植物の光合成における炭酸固定経路がカルビン回路(還元型ペントース回路)であることは1946年以来,M.カルビンらの研究によって確認された。ところが65年にコーチャックH.P.Kortschakはサトウキビでは炭酸固定がC4ジカルボン酸回路(ハッチ=スラック回路)によって行われることを明らかにし,その後,このほかにも200種ほどの草本でこの回路による炭酸固定を行うものがあることを確かめられた。C4ジカルボン酸回路によって炭酸固定を行う植物は,その初期産物がリンゴ酸,アスパラギン酸であり,これらの炭素数から,C4植物と呼ばれている。これに対して,カルビン回路による炭酸固定を行う植物をC3植物という。なお炭酸固定の方式にはこれらのほかに,還元型カルボン酸回路によるものが光合成細菌などにみられる。
C4植物は樹木や藻類にはまだ見つかっておらず,イヌビエ,キビ類などのイネ科,ハマスゲなどのカヤツリグサ科等の単子葉類,ヒユ科,スベリビユ科,ハマビシ科,アカザ科,オシロイバナ科,タカトウダイ科,キク科などの双子葉類に属するものなど,系統的には関係のない約200種の草本に知られている。
C4植物では,柵状組織や海綿状組織の細胞のほか,維管束鞘(しよう)の細胞にも葉緑体が含まれており,炭酸固定によって生じたジカルボン酸が維管束鞘の葉緑体中で脱炭酸をうけ,生じた二酸化炭素がカルビン回路によって糖に還元される。すなわち,C4植物では固定と還元の作業が別々に行われる。
C4植物の光合成速度は光の強さに対して直線的に増し,飽和現象がみられない。C4植物の最大光合成速度はC3植物の約2倍である。C4植物でも光呼吸(光照射時の呼吸)は行われるが,光合成の二酸化炭素による補償点は0に近く,光呼吸はその速度が測れないほど低い。これらの現象は炭酸固定を行う回路の差に直接関係するものではなく,むしろC4植物の環境への特殊化と関連があるものかもしれない。しかし,C4植物とC3植物との分化が,いつごろどのような過程を経て行われたかは知られていない。
C3植物とC4植物の差をまとめてみると,C3植物では維管束鞘が発達しないのに対して,C4植物ではグラナ構造のはっきりしない葉緑素をもった維管束鞘が発達する。光飽和点がC3植物では25~50klxと低いのに対して,C4植物では80klx以上と高い。光合成速度は光の強さに関係なくC4植物のほうが大きく,光合成の最適温度はC3植物で15~25℃であるのに対して,C4植物では30~40℃である。空気中の酸素濃度を増すとC3植物では光合成が阻害されるのに対して,C4植物では酸素濃度は光合成速度に影響を及ぼさないなどの現象のほか,酸素活性もいろいろ差のあることが示されている。
C4植物の光合成についてはまだよくわかっていないこともあるが,C4植物は熱帯域で分化して光合成能も高く,生産性が大きいことが期待されるので,将来の食糧・エネルギーの確保のために有用な資源となりうるものであり,その面からの研究も期待されている。
→光合成
執筆者:岩槻 邦男
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…光(ひかり)合成ともいう。植物が光のエネルギーを利用して二酸化炭素CO2と水H2Oから有機化合物を合成する過程。その反応は炭酸固定の代表的な例で,より一般的には,光のエネルギーを利用してCO2を還元する過程をいう。ファン・ニールvan NielはCO2+2H2A―→(CH2O)+2A+H2Oを光合成の一般式として提唱している(1929)。光合成細菌(緑色硫黄細菌,紅色硫黄細菌などの硫黄細菌,紅色無硫黄細菌)は,水素供与体として水ではなくH2S,H2S2O3,H2,有機化合物などを用いる。…
※「C4植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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