自治体の借入金。債券を発行し、国や金融機関など外部から資金を調達する。2023年度の地方財政計画では、全自治体の歳入総額は92兆円で、うち地方債は6兆8千億円。原則として、公共施設の建設事業や災害復旧事業など、投資的経費に充てる。返済は複数年度にわたるため、財政のやりくりがしやすくなる。財政状況が基準を超えて悪化すると、発行が制限される。
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地方公共団体の債務で、債券を発行するものだけでなく証書方式のものを含み、償還までが一会計年度を超えるものをさす。そのため地方債では、債券を発行するものに限らず、証書方式によるものであっても、新たに債務を負うことを発行もしくは起債という。国債や社債の場合、債券を発行するもののみをさし、証書方式による借入れは借入金として峻別(しゅんべつ)される。一方、一会計年度内に償還される一時借入金は、債券発行を伴うものでも、制度上、地方債からは除かれる。また、第三セクターや公社など地方公共団体ではない組織の債務や地方公共団体による債務保証などは、地方債に含まれない。
地方債の役割は、財政支出と財政収入の年度間調整、公共事業等に関する住民負担の世代間調整、一般財源の補完、国の経済政策との調整である。
[浅羽隆史 2023年4月20日]
各地方公共団体は、地方債を自由に発行することができるわけではない。国が定めた一定の枠組みのなかで起債することになる。地方債の発行対象は、原則として公共事業などに限定されている。そのため、これを建設公債の原則とよび、公共事業などの財源として発行される地方債を、建設公債あるいは建設地方債という。
地方債の発行根拠は、おもに地方財政法による。そのうち、建設公債の原則に関連するのは、第5条である。国債と同様、原則は公債不発行で、但書において、公営企業(交通事業、水道事業など)、出資金および貸付金、地方債の借換え、災害関連、公共事業(文教施設、厚生施設、公共用地などの適債事業)について起債が認められている。このように地方財政法第5条は、災害関連の存在や公共事業における範囲の限定を除けば、国でいう建設国債と財投債(財政投融資特別会計国債)、そして借換(かりかえ)債を網羅したものといえる。
経常経費に充当するための地方債は、赤字公債または赤字地方債という。その発行根拠は、おもに地方財政法の附則で定められている。これらは、基本的に単年度あるいは短期間限定のものとされているが、地方交付税の財源不足を補う臨時財政対策債のように更新を繰り返しているものや、地方公務員の退職手当に充当する退職手当債のように有期であるが20年という長期間のものもある。
地方財政法以外でも、過疎地域自立促進特別措置法など多くの法律がおもに建設公債に関して、発行対象を拡大している。また、赤字公債に関しても、災害対策基本法や地方財政健全化法に基づくものなどがある。
起債は、原則として事前協議制となっている。起債にあたり、都道府県および政令指定都市は総務大臣に、政令指定都市を除く市区町村は都道府県知事に、事前の協議をするのが原則である。事前協議の結果、総務大臣や都道府県知事の同意が得られた場合、起債にあたり財政融資資金や地方公共団体金融機構資金など一般的に地方公共団体にとって条件が有利となる公的資金の利用や、元利償還にあたり地方交付税による財源措置の対象となる場合がある。総務省は毎年度、地方債の同意基準(地方債同意等基準)を作成し、地方債計画、地方債充当率とともに事業別起債予定額や資金などを明示する。なお、総務大臣や都道府県知事が不同意であっても、地方財政法第5条の対象事業であれば、あらかじめ議会に報告することで、地方公共団体が独自に起債することも可能である。
ただし、事前協議制を原則としながら、財政状況などに応じて、健全性などが一定以上確保されている地方公共団体は簡便な事前届出制ですむ一方、財政指標などで問題があったり標準税率未満で課税したりしている地方公共団体は、起債にあたり総務大臣または都道府県知事の許可が必要とされている。
地方債の償還に関して、海外で発行した外債を除いて国による債務保証はつかない。しかし、一部許可制を残す事前協議制、公的資金の利用、元利償還における地方交付税措置、地方財政計画、地方債計画、地方財政健全化法などの存在から、実質的に国の債務保証がついている状態に近いと評する向きもある。
地方債の償還までの期間についても、国によって定められたルールがある。公共事業の場合、建設した公共施設等の税法上の耐用年数が上限となる。そのため、起債から現金償還までの期間が、起債対象事業によって異なる。地方債の満期期間が耐用年数を下回る場合、地方債の発行で償還財源をまかなう借換償還は可能であるが、その場合にも、借換期間の限度は新規発行時点から耐用年数までとなる。
[浅羽隆史 2023年4月20日]
地方債は、会計や借入先によって区分できる。また、2012年度(平成24)地方債計画からは、通常収支分と東日本大震災分(それぞれ名称は年度により若干異なる)という区分もある。
会計による区分では、地方税や地方交付税といった一般財源での償還を予定する一般会計債と、原則として事業収入などで償還が予定されている公営企業債、そしてその他に分けられる。なお、地方税などでの償還を予定していても、赤字地方債など特殊なものがその他になる。また、地方財政を統一的にみる会計区分でいえば、普通会計と地方公営事業会計に分けられる。一般会計債とその他の多くが普通会計に該当し、公営企業債の多くは地方公営事業会計に該当することが多い。
一般会計債、公営企業債、その他ともに対象事業を冠する名称がつけられている。たとえば一般会計債でいえば、公営住宅建設事業債、学校教育施設等整備事業債、地方道路等整備事業債などであり、公営企業債であれば、水道事業債、下水道事業債、地域開発事業債などとなっている。その他では、臨時財政対策債や減収補填(ほてん)債などである。多くは恒常的に設定されているものであるが、なかには、その時々の政策を色濃く映し出すものもある。2017年度に創設された公共施設等適正管理推進事業債は、2021年度(令和3)までの期限を切り(のちに2026年度まで延長)、公共施設等の老朽化対策などを推進する費用に充当する地方債である。2023年度期首において、集約化・複合化事業、長寿命化事業、転用事業、立地適正化事業、ユニバーサルデザイン化事業、脱炭素化事業(2025年度まで)、除却事業に分けられている。
金融市場への影響を考える場合、借入先の資金による区分が重要である。借入先による区分では、まず資金の源泉が国内か海外かに分けられる。このうち海外のものは、外貨建て資金と円建て資金に分けられるが、ともに例年地方債全体に占める比率はゼロもしくはわずかである。国内資金は、公的資金と民間等資金、そして交付公債からなる。このうち交付公債は、当面の資金移動がなく後年度に支払いを約束した証券を債権者に交付する特殊な地方債である。
地方債を資金区分別でみると、かつては公的資金が過半を占めていたものの、2001年度の財政投融資改革を境に割合が下がった。ただし、市場公募などの少ない一般の市や町村では、その後も公的資金の割合が過半を占めることが多い。公的資金は、財政融資資金、地方公共団体金融機構資金、国の予算等貸付金からなる。公的資金のなかで最大の財政融資資金は、国の財政投融資の一環として、国の政策への誘導や、資金調達力の劣る地方公共団体への安定的資金供給などの観点から、地方債を引き受けている。地方公共団体金融機構資金は、2008年に全地方公共団体の出資により設立された地方公共団体金融機構が、債券を発行して資本市場から調達した資金に、公営企業から得た収益金の一部の運用益などを加え、地方公共団体に長期で低利の資金を供給するものである。公的資金の多くは財政融資資金と地方公共団体金融機構資金であり、国の予算等貸付金は、災害援護資金貸付金などが財源であり、例外的な扱いのものである。
民間等資金は、大きく市場公募資金と銀行等引受資金に分けられる。市場公募資金は、債券を発行して市場から資金を調達するもので、全国型(個別発行と共同発行)と住民公募型に細分化される。全国型のうち個別発行は、個別の地方公共団体が単独で発行するもので、比較的財政規模の大きい都道府県や政令指定都市によるものが多い。共同発行は、複数の地方公共団体が規模の大型化などのメリットを生かし費用を低下させるなどの目的で発行する。市場公募資金は、全国型の発行が都道府県と政令指定都市に限られることから、市町村の発行実績は都道府県に比べ少ない。住民公募型は、住民参加型ともよばれるもので、各地方公共団体が当該地域居住者向けに発行する。一般的に利回りがよく、購入者に特典がつくものもある。
銀行等引受資金は、民間の金融機関や各種共済組合等から借り入れるものである。一部、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、保険会社等の資金もあるが、多くは市中銀行である。市中銀行の多くは、各地方公共団体の指定金融機関など一定のつながりをもっていることが多い。
[浅羽隆史 2023年4月20日]
『中央文化社著・刊『市町村議員のためのよくわかる地方債』(月刊『地方議会人』別冊・2017)』▽『持田信樹・林正義編『地方債の経済分析』(2018・有斐閣)』▽『地方債制度研究会編『令和4年度 地方債の手引』(2022・地方財務協会)』
地方公共団体が歳入の不足を補うための資金の借入れによって負担する債務であり,その履行が1会計年度をこえて行われるものを地方債という。その発行は通常,証書借入れまたは証券発行の形をとる。地方財政の運営に関しては,地方財政法5条の規定により,原則として地方債による財源調達が禁止され,次の5項目についてのみ例外的に起債が認められている。(1)交通・ガス事業など地方公共団体の公営企業の財源に充てる場合,(2)出資金および貸付金の財源に充てる場合,(3)地方債の借換えの財源に充てる場合,(4)災害関係事業の財源に充てる場合,(5)普通税の税率がいずれも標準税率以上である地方公共団体において,公共・公用施設の建設および用地取得の財源に充てる場合。ただし,地方財政再建促進特別措置法23条の規定により,前年度の赤字額が標準的一般財源額の5%以上である都道府県および20%以上である市町村は,財政再建団体の指定を受けないかぎり,(5)の目的での起債を禁じられている。なお,このほかにも特例法によって発行を認められている地方債があり,地方財政再建促進特別措置法に基づく退職手当債や災害対策基本法に基づく歳入欠陥等債などがその例である。さらに,地方債は,地方自治法250条の規定によって,その発行が目下のところ国の許可制度のもとに置かれており,都道府県の起債には自治大臣の,一般市町村の起債には都道府県知事の許可を必要とする。そして,起債許可を与えるうえでの基準となるのが,大蔵省との協議を踏まえて自治省によって作成される地方債計画と地方債許可方針である。地方債計画は財政投融資資金計画の一環として策定される地方債の年度計画であり,これによって,当該年度に許可される地方債の事業別予定額とその裏づけとなる資金の枠がまず決定される。次いで,この計画に基づいて地方債許可方針が決定され,当該年度の起債許可の基本方針をはじめ,優先的に起債を許可される事業,起債を制限される団体および事業別許可方針等がきめ細かく定められる。その結果,このような起債許可制度の運用を通じて,国は地方公共団体の行う事業の種類や規模にまで強い影響力を及ぼしている。
地方債を引受資金の面からみると,まず国内資金と国外資金に大別され,国内資金はさらに政府資金,公庫資金,民間等資金に分けられる。政府資金の中心を成すのは,資金運用部資金と簡易保険資金である。資金運用部資金は,郵便貯金,厚生年金保険・国民年金保険の保険料からの預託金を原資とし,また簡易保険資金は,簡易生命保険と郵便年金の積立金を原資としている。公庫資金は,公営企業金融公庫により主として地方公共団体の公営企業に貸し付けられる資金であり,その原資の大半は政府保証付きの公営企業債券の発行によって賄われる。民間資金には,市場公募資金と縁故資金がある。市場公募資金は,起債市場における地方債の発行によって調達される資金である。ただし,そのような市場公募債の発行は,東京都・大阪府・神戸市など一部の大都市や都道府県にのみ認められている。縁故資金は,銀行,保険会社,地方公務員等共済組合など当該地方公共団体と縁故関係の深い機関からの借入資金をいい,民間等資金の大部分を占めている。なお,国外資金による地方債の引受けは例外的なものであり,わずかな事例しかない。
地方債は,第2次大戦前においては,地方財政の主要財源の一つとして相当な額が発行されていたが,戦後においても,歳入に占める比率は低下したものの,引き続き恒常的な財源として利用されてきている。とくに,石油危機による経済の混乱から,戦後初めて国民経済の実質成長率がマイナスとなった1974年度から後は,巨額の税収低下を補うため地方債の大量発行が行われ,普通会計ベースでの地方債依存度も数年にわたり12%台を示しつづけた。その結果,普通会計ベースでの一般財源に対する公債費の割合も97年度には11%台にまで上昇し,地方債の累積が,今や,地方財政の硬直化の一因になっている。
執筆者:大川 政三
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(北山俊哉 関西学院大学教授 / 笠京子 明治大学大学院教授 / 2007年)
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