如来蔵(読み)にょらいぞう

精選版 日本国語大辞典 「如来蔵」の意味・読み・例文・類語

にょらい‐ぞう ‥ザウ【如来蔵】

〘名〙 仏語
① (tathāgatagarbha の意訳) 凡夫(ぼんぶ)の心の中にある如来(仏)となりうる可能性。それは煩悩におおわれているが、本来清浄で永遠に変わらないさとりの本性であるとされる。
勝鬘経義疏(611)如来蔵章「如来蔵者。是如来境界」 〔釈摩訶衍論‐二〕
② 如来の説かれた教法。〔増一阿含経‐一〕
③ 一切経の経蔵。〔元亨釈書(1322)〕

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デジタル大辞泉 「如来蔵」の意味・読み・例文・類語

にょらい‐ぞう〔‐ザウ〕【如来蔵】

凡夫の心のうちに存在している、如来(仏)になりうる可能性。煩悩に覆い隠されている、本来清浄な悟りの本性。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「如来蔵」の意味・わかりやすい解説

如来蔵
にょらいぞう

サンスクリット語タターガタガルバtathāgatagarbhaの漢訳。衆生(しゅじょう)に本来備わっている仏(如来)と同じ本性をいう。「仏性(ぶっしょう)」と同じ。元来『如来蔵経』において、すべての衆生に、煩悩(ぼんのう)にまとわれているにかかわらず、如来の智慧(ちえ)が行き渡っていることを比喩(ひゆ)して、衆生を「その胎に如来を宿すもの」とよんだのに始まる。原語は「如来の胎、あるいは胎児」を意味するが、『宝性論(ほうしょうろん)』は、この合成語の解釈によって、〔1〕如来の法身(ほっしん)が衆生に遍満(へんまん)する、〔2〕衆生は如来と同じく、真如(しんにょ)を本性とする、〔3〕衆生は将来、如来たるべき因(如来の種姓(しゅしょう))を有している、の三義をたてた。また『仏性論』では漢訳の「蔵」の意味に応じて、〔1〕所摂蔵(しょしょうぞう)(衆生が如来に摂(つかま)せられる)、〔2〕隠伏蔵(おんぶくぞう)(如来=真如が衆生のうちに隠れている)、〔3〕能摂蔵(のうしょうぞう)(衆生が如来〈の種〉を宿す)、の三義をあげる。如来蔵はもと「自性清浄心(じしょうしょうじょうしん)・客塵煩悩染(きゃくじんぼんのうぜん)」(心は本来清浄だが、一時的な煩悩の付着によって汚れている)の説から展開した思想で、『如来蔵経』に始まり、『不増不減(ふぞうふげん)経』『勝鬘経(しょうまんぎょう)』『涅槃経(ねはんぎょう)』などに受け継がれて発展し、『宝性論』によって学説として組織化された。中国・日本では『法華経(ほけきょう)』の一乗思想とあわせて、おおかたの仏教諸派の基本説となっている。

[高崎直道]

『高崎直道著『如来蔵思想の形成』(1974・春秋社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「如来蔵」の意味・わかりやすい解説

如来蔵
にょらいぞう
tathāgatagarbha

仏教用語。すべての人間の内面に存在する仏陀になりうる可能性。如来蔵自体は本質的に清浄で,あらゆるけがれに染まらないものではあるが,迷いの存在にあっては,この如来蔵が多くの煩悩によっておおわれていると説かれる。この思想は,すでに大乗仏教の初期の経典『如来蔵経』『勝鬘経 (しょうまんぎょう) 』などにみえ,それが発展して唯識説の阿頼耶識思想との融和を経過,大乗仏教の重要な思想上の流れとなった。 (→仏性 )

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「如来蔵」の解説

如来蔵(にょらいぞう)
tathāgata-garbha

「如来の胎(たい)」という意味で,すべての衆生(しゅじょう)が仏となる可能性を本来的に具えているとする大乗仏教思想。『涅槃経』(ねはんぎょう)では,「一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょうしつうぶっしょう)」と表現され,人間の本性は本質的に清浄で仏と変わりないが,外からの煩悩(ぼんのう)にたまたま汚されたのだと説く。マイトレーヤ(弥勒(みろく))の『究竟一乗宝性論』(くきょういちじょうほうしょうろん)が重要で,中国では『大乗起信論』が典拠とされる。

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百科事典マイペディア 「如来蔵」の意味・わかりやすい解説

如来蔵【にょらいぞう】

真如(しんにょ)・仏性(ぶっしょう)とも。凡夫の心の中にある如来(仏)になり得る可能性をいう。如来蔵を基礎に,人間の迷いと悟り,汚れと清浄の現象を説明するのが如来蔵縁起で,《勝鬘経》《大乗起信論》がある。
→関連項目仏性

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世界大百科事典(旧版)内の如来蔵の言及

【如来蔵説】より

…竜樹を祖とする〈中観(ちゆうがん)派〉と弥勒(みろく)を祖とする〈唯識(ゆいしき)派〉とである。後者と深いかかわりをもち,おもに彼らによって継承された思想に,如来蔵説がある。学派としての形成はついになされることはなかったが,その思想は,密教の成立に大いに寄与し,また中国,日本の仏教に深い影響を与えた。…

※「如来蔵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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