日本大百科全書(ニッポニカ) 「おでん」の意味・わかりやすい解説
おでん
鍋(なべ)料理の一種。おでんの名称は「おでんがく」の略語で、その語源は田楽(でんがく)である。田植どきに豊作を祈念して白い袴(はかま)に赤、黄、青など色変わりの上衣を着用し、足先に鷺(さぎ)足と称する棒をつけて田楽舞を行った。このときの白袴に色変わりの上衣、鷺足の姿が、白い豆腐に色変わりのみそをつけた料理に似ているので、田楽のようだといったのがこの料理の名称となり、本来の舞のほうは忘れ去られた。
古いころの田楽は焼き豆腐にみそをつけるものもあった。こんにゃくが豆腐のかわりに使われる場合はゆでて用いていた。江戸中期から、野外宴会などに豆腐田楽が用いられたが、これに適するため滋賀県栗東(りっとう)市目川(めがわ)の崩れにくい田楽が導入された。当時の田楽串(くし)は先が3本に分かれていた。いまは全国的に2本串になっているが、名古屋、岐阜の一部に3本串が残っている。おでんの呼称は、田楽におの字をつけて「お田楽」となり、楽がとれて「おでん」となったものである。みそを用いての煮込みおでんは江戸後期にみられるが、しょうゆ味のだし汁で煮込んだおでんは明治の産物である。
おでん種(だね)は、豆腐、がんもどき、こんにゃく、はんぺん、イモ、ダイコンなどであったのが、いまは動物性材料が多くなっている。大正の中ごろ、関西で「関東煮(だき)」の名で紹介されたものは、鶏のだし汁に下煮をした種を加えるのできれいな料理になって、関東に逆移入され、全国的にこの形態になった。郷土色のあるものでは、徳島の「でこまわすで」とよばれる、串刺しのサトイモにみそをつけて焼く田楽がある。熱いので息をかけながら串を回して食べるようすが、阿波(あわ)人形を操るのに似ているのでこの名がある。
[多田鉄之助]