翻訳|Zarathustra
ドイツの哲学者ニーチェの主著《ツァラトゥストラはこう言ったAlso sprach Zarathustra》(1883-85)の略称。全4部から成る。主人公ツァラトゥストラの名称は,古代ペルシアのゾロアスター教の予言者ゾロアスターのドイツ語での慣用発音である。こうした東洋風の名が採られたのは,プラトン主義やキリスト教というヨーロッパ的理想主義--それは潜在的には〈無の上に立てられており〉,ニヒリズムと等価である--を批判するニーチェの脱ヨーロッパ志向に基づいている。描かれているのは,人間の超人への変貌を希求するツァラトゥストラの種々の説教,さまざまな経験を経たのちの永劫回帰の思想の覚知,その思想に耐えられる存在への自己変革の過程である。説教は〈世界の背後を説く者〉〈聖職者たち〉〈学者〉等々と題され,主としてキリスト教的道徳および,ニーチェによればその末裔である近代の科学的思考や民主主義等が手厳しく批判されている。その文体は多くの点で新約聖書におけるイエス・キリストの説教への揶揄(やゆ)となっている。そして永劫回帰の思想は単なる客観的認識ではなく,それを説きうる存在への自己変革こそ重要であるため,それへの熟成の過程が,ときには無気味な幻影やなぞによって,ときには海原を前にしての自然経験を通じて描かれる。その散文の美しさは,全編の背景をなす地中海的風景とあいまって,他に類を見ない。だが,この作品はニーチェの晩年まではほとんど顧みられず(当時ドイツにいた敏感な森鷗外も気がつかなかった),特に第4部などは自費出版でわずか45部印刷されたのみであったが,1890年代の半ば以降にドイツの文学・思想界に爆発的な影響を与え,20世紀思想の先駆的作品となった。なお,本書の邦訳は生田長江訳《ツァラトゥストラ》(1911)が最初で,その後も登張竹風訳《如是経》(1921)など多くの翻訳が出,邦題も《ツァラトゥストラかく語りき》ほかさまざまである。
執筆者:三島 憲一
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…ドイツの哲学者ニーチェの著作《ツァラトゥストラ》(1883‐85)の中で,人間にとっての新たな指針(和辻哲郎の用語では〈方向価値〉)として情熱的に説かれた言葉。その熱っぽさが,19世紀末の微温的市民社会と精神的閉塞状況からの脱出を願う青年知識層に広く迎えられた。…
…また森鷗外によるゲーテの《ファウスト》の完訳(1913)は,日本の読者にドイツ文学の代表作を提供するものとなった。生田長江の《ツァラトゥストラ》訳(1911)をはじめとするニーチェの翻訳紹介も大きな反響をよびおこし,とりわけ萩原朔太郎にその影響が認められる。茅野蕭々(1883‐1946)の《リルケ詩抄》(1927)は名訳の評判が高く,堀辰雄や立原道造をリルケの世界に近づけた。…
…この時期の81年,ニーチェはスイス・アルプスのシルバプラナ湖畔で永劫回帰の覚知に達し,いっさいが〈力への意志〉である以上,宇宙と歴史の変動は永遠に自己回帰を続ける瞬間からなっているとの思想を得ている。
[《ツァラトゥストラ》とそれ以後]
翌1882年にはザロメとの不幸な恋愛があったが,翌年初頭,ジェノバ郊外のポルトフィノで《ツァラトゥストラ》の着想を抱き,彼の言によれば,“嵐のような”筆の運びでまたたくまに第1部が完成した。この作品は第4部(1885)まで書かれるが,第4部になると出版者がつかず私家版で出さざるをえないほどに世間からは無視されていた。…
※「ツァラトゥストラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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