《古事記》《日本書紀》崇神天皇の条にみえる伝説。《古事記》によると,陶津耳(すえつみみ)命の娘活玉依毘売(いくたまよりびめ)には夜な夜な通う男があってついに身ごもる。父母が怪しんで男の正体をつきとめるために,糸巻きに巻いた糸を針に通して男の衣の裾に刺すように娘に教えた。翌朝見ると糸は戸のかぎ穴から抜け出ており,糸巻きには3巻きだけ残っていた。そこで糸をたよりに訪ねて行くと美和(みわ)山の神の社にたどりついた。かくて男は美和山の神であり,生まれた子はその神の子であることがわかった。そして残った三勾(みわ)(3巻き)の糸にちなんでその地を〈ミワ〉と名づけた。この子が三輪氏の祖の意富多多泥古(おおたたねこ)(大田田根子)であり,三輪山の神大物主神を斎(いつ)き祭ったという。この説話は《日本書紀》では箸墓(はしはか)伝説(倭迹迹日百襲姫(やまとととびももそひめ)命)として記され,男の正体は三輪山の蛇とされるが,夜な夜な通う男の正体や生まれた子の父が問題となる伝承は,《常陸国風土記》の晡時臥(くれふし)山伝説や《山城国風土記》逸文に記す賀茂伝説など広く分布するものである。多くの氏族は祖神との関係を系譜的に物語る伝承を多少なりとももっていたはずで,それには父なる神が処女のもとに寄り来て聖なる子が誕生するという型が一般的であった。その処女の名がしばしば玉依姫(たまよりひめ)といわれるのも,それが神霊のよりつく巫女を意味したからである。神と巫女との結婚や神の子の誕生は奇跡的なものでなければならず,一種の処女懐胎神話や異類婚姻譚として定型化され,生まれた子の父がだれであるかが問題とされたのである。この三輪山伝説も,そうした氏族伝承をミワの地名にかこつけた地名起源説話として語ったものである。自然や氏族の〈起源〉は一回的な特別のときであり,その〈いわれ〉は繰り返し語られ絶えず想起されたのであった。〈物語〉の根本は聖なる〈いわれ〉を〈もの〉という不思議な霊威をもった鬼神や魔物のしわざとして語ることであり,三輪山伝説はそうした物語の典型である。
→蛇婿入り
執筆者:武藤 武美
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…記紀神話においては大国主(おおくにぬし)神の子として国譲りの誓約を行い,その後は大和の宇奈提(うなで)に〈皇孫命(すめみまのみこと)の近き守り神〉として祭られた(《出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)》)。また,この神が八尋(やひろ)ワニとなって三嶋溝樴(みぞくい)姫と結婚し神武天皇の后となる姫を生んだという三輪山(みわやま)型説話(三輪山伝説)も伝えられている(《日本書紀》)。コトシロヌシは本来は祈年祭の祝詞にいう大和六県の一つ,高市県(たけちのあがた)で祭られていた飛鳥地方の土着の国津神(くにつかみ)であった。…
※「三輪山伝説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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