昭和初年のプロレタリア文学の代表的な雑誌の一つ。1928年(昭和3)5月創刊,31年12月廃刊。全41冊。28年3月の三・一五事件に抗するため,蔵原惟人らの前衛芸術家同盟と中野重治らのプロレタリア芸術連盟がその月のうちに合同し,結成したナップ(全日本無産者芸術連盟)の機関誌。それまでの蔵原らの機関誌《前衛》と中野らの機関誌《プロレタリア芸術》との合体であり,《文芸戦線》の社会民主主義的傾向に対して,共産主義芸術運動の展開をめざした。上げ潮だった革命運動に芸術面から進んで呼応し,理論上でも作品上でも運動組織上でも独自な展開と高揚をつくりだして,プロレタリア芸術運動の中心となった。評論では蔵原の《プロレタリア・リアリズムへの道》など,小説では小林多喜二《一九二八年三月十五日》《蟹工船》,徳永直《太陽のない街》などが掲載された。合法的な宣伝啓蒙の場をもたなかった共産党のためにその場を提供する形になっていたため,発行部数もはじめの7000から2年後には一時2万6000に達した。やがて政治的宣伝,啓蒙を主とするようになり,ナップは芸術運動機関誌として別に《ナップ》を30年9月に創刊した。末期にはナップから《戦旗》を切り離し,革命運動内の一グループが握るなどのことがあった。
執筆者:小田切 秀雄
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文芸雑誌。1928年(昭和3)3月日本共産党支持の日本プロレタリア芸術連盟と前衛芸術家同盟が合同し結成した全日本無産者芸術連盟(略称ナップ)の機関誌として5月創刊。12月連盟が全日本無産者芸術団体協議会(ナップ)に改組され、新設の戦旗社が刊行。しだいにナップ機関誌から政治的啓蒙(けいもう)雑誌へと性格を変え、30年9月戦旗社はナップより独立。31年11月ナップが日本プロレタリア文化連盟(略称コップ)に発展的に解消するのに応じ、12月号で終刊。発禁処分などによる改訂版を除き全43冊。ほかに別冊付録『少年戦旗』『婦人戦旗』など。厳しい弾圧に抗し最盛期には2万3000部発行。小林多喜二(たきじ)『一九二八年三月十五日』、徳永直(すなお)『太陽のない街』をはじめ、中野重治(しげはる)、村山知義(ともよし)、蔵原惟人(これひと)らのナップを代表する作品や評論を掲載し、対抗した労農芸術家連盟の活動を圧倒し、この期のプロレタリア文学運動の活動を最大に反映した。復刻版(1976~77・戦旗復刻版刊行会)がある。
[祖父江昭二]
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1928年(昭和3)5月創刊のプロレタリア文学雑誌。同年の日本共産党への弾圧(3・15事件)の直後に結成された全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関誌となる。小林多喜二「蟹工船」,徳永直(すなお)「太陽のない街」などの小説のほか,宮本百合子・鹿地亘(かじわたる)・壺井繁治らの詩や戯曲・評論が掲載され,プロレタリア芸術運動の中心になった。あいつぐ発禁処分の後,日本プロレタリア文化連盟(コップ)の結成で31年12月終刊。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…1920年代後半からの日本の労農少年団(ピオネール)運動のなかで,子どもを〈プロレタリア意識〉で教化し,組織していくために発刊された。29年2月日本プロレタリア作家同盟創立総会での猪野省三の提案が直接の契機となり,同年5月,全日本無産者芸術連盟と作家同盟の共同機関誌《戦旗》の付録のかたちで創刊号が出された。内容は,プロレタリア童話・童謡のほか,科学読物,時事物,子どもの投書などもみられる。…
※「戦旗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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