東アジアの仏教法具あるいは打楽器。古くは木製の魚状の板である魚板(ぎよばん)をいう。ふつう読経用に用いられるいわゆる木魚は,魚板が変形して,中空で口が開いた木製の鈴のような形になったもので,頭部に扁平な柄がある。クスノキまたはクワなどの木材を響孔から刀を入れて空洞に彫る。木地のままのものと,表面を朱漆塗して魚鱗などを彫って金箔をおしたものとがある。双魚が珠を争う形や,1尾の魚が屈曲して頭尾を接した形のものや,竜を図案化したものがある。直径6cmくらいの小型のものから,1mに及ぶ大きなものまで種々ある。桴(ばち)(棓)は,大型の木魚には棒の頭部を革または布で包んで球状にしたものを用い,小型のものは短い棒で直接たたく。ふつう座布団状の台に置き,読経のリズムをとるために用いる。日本には中世以降中国から伝来し,長い読経に活を入れるために,禅宗をはじめ天台宗,浄土宗などで用いられてきた。魚は昼夜目を閉じないので,修行者に精進の意を教えたものといわれる。禅宗では本山寺院の法会にも大鏧(だいきん)/(たいけい)と対になるような大型のものが用いられる。明治時代まで阿呆陀羅経(あほだらきよう)の大道芸人が,2~3個の調子の異なる小型の木魚を左手にもって,右手の桴で打ちながら経文風の軽口を唱えた。歌舞伎の下座音楽でも用いられる。仏教圏の東アジア各地にもみられるが,ベトナムのモーも小型の木魚で打拍用に用いられている。近年はテンプル・ブロック,チャイニーズ・ブロックなどと呼ばれて,ウッド・ブロック(木鐘)の一種としてジャズなどに取り入れられている。
執筆者:三谷 陽子+木下 密運
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
読経(どきょう)や唱題(しょうだい)などの調子をとるために用いる仏具。一般にクスノキなどの木を材料とし、球形の内を空洞にして表面の一部に魚鱗(ぎょりん)の彫刻をしてある。小蒲団(ふとん)の上に置き、先端に布を巻いた棒で打ち鳴らす。もともと禅院で大衆を集める合図として打ち鳴らした魚鼓(ぎょく)(魚板(ぎょばん))から発展し、団扇(うちわ)形に変化し、さらに二頭一身の竜が向き合って一つの珠(たま)を含む形となり、木魚とよばれるようになった。中国では明(みん)代ころに現在みられるような形となり、日本では室町時代の遺品もあり、当時から使われていたようであるが、江戸時代の初めに渡来した隠元隆琦(いんげんりゅうき)が請来したともいわれている。おもに禅宗、天台宗、浄土宗などで使用する。浄土宗では一時、宗義に反するとして使用が禁じられたが、現在は念仏を唱えるときに重用されている。
木魚は楽器としても多く用いられた。中国では清(しん)代乾隆(けんりゅう)帝(在位1735~95)のころ民俗楽器として用いられ、日本では江戸時代、「木魚入合方(いりあいかた)」として歌舞伎下座(かぶきげざ)音楽に取り入れられた。第二次世界大戦後にはアメリカのジャズ・ドラマーによって、小形の木魚がそのままドラム・セットに加えられ、近年は形を変えてウッド・ブロックとしてドラム・セットに編入されている。
[中尾良信]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…一種の割れ目太鼓で,長い柄のついた木槌で打ち鳴らす。古くは木魚(もくぎよ)と同一異名であり,木魚は魚板から変形してできたと考えられている。魚板は昼夜不眠とされた魚にたとえ,修行僧の怠惰をいましめるために作られたものである。…
※「木魚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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