古墳の埋葬施設の形式の一つで、石室の一方の壁面に外部に通じる出入口が設けられているものをいう。形態、構造には種々の変化があるが、遺体を安置する主室である玄室は広く高い空間をもち、外部から玄室への通路である羨道(せんどう)をもつのが普通である。羨道入口である羨門封鎖設備の外部に墓道(ぼどう)があり、墓前祭祀(さいし)の遺物が残される。
横穴式石室の内部には家形石棺、箱式石棺、陶棺、木棺などの棺が置かれる。横穴式石室はもともと追葬可能の構造であるから、玄室内に複数の棺が安置されることが多いが、なかには玄室だけでなく羨道にも棺が置かれ九棺24体の埋葬例もある。奥壁近くまたは玄室中央の棺が入念につくられ、もっとも豊富多量の遺物が副葬される。
玄室と羨道の平面形から、玄室が羨道幅より両側に広い両袖(りょうそで)式、片側のみ広い片袖式、羨道と玄室の幅がほとんど変わらない袖無式の形態があり、玄室が前室と後室に分けられた複室構造をとるものや、末期には玄室が丸みをもつ胴張ものもある。
石室の構築手法には、扁平割石小口積(へんぺいわりいしこぐちづみ)、持長石持送積(もちおくりづみ)、巨石野積、切石積(きりいしづみ)のほか、石材の乏しい地方では礫(れき)積などがある。巨大石室の場合には床面の下に排水施設をもつものもある。石室の壁面に朱、緑などの彩色で文様を描いたり、線刻を施した装飾古墳とよばれるものが、九州のほか各地に群をなして散在する。
横穴式石室の葬法は、朝鮮を経て渡来した大陸系の墓制であるが、日本列島では竪穴(たてあな)系横口式とよばれる福岡県老司(ろうじ)古墳など5世紀初頭ないし前半のものを先駆的形態とし、九州のほか近畿、吉備(きび)では5世紀代に出現し、6世紀中葉には北陸、関東まで大形墳を主体に普及した。さらに6世紀後半には群小墳にまで採用された。巨石を用いた長大な横穴式石室は巨石墳とよばれ、6世紀中葉には出現するが、6世紀後半から6世紀末に極に達する。7世紀には、切石積石室が出現し、石室を巨大にすることから、石室内部を美しくする方向に変わる。
[今井 尭]
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古墳の埋葬施設の一つ。竪穴(たてあな)式石室の対照語。4世紀末に朝鮮半島から九州北部に伝えられ,古墳中期には近畿・東海地方にまで広がったが,竪穴式石室にかわって全国的に普及するのは後期からである。棺を安置する玄室(げんしつ),その入口の玄門,その前につく羨道(えんどう),入口の羨門などを板状の平石や川原石・塊石・切石などで構築。墳丘の横に設けた羨門は,大きな板石や塊石などで閉塞。埋葬に先行して石室が構築され,埋葬や追葬は羨門から行われる。合葬・追葬を意図した埋葬施設で,その伝来には合葬思想をともなっており,以後日本でも合葬が盛んに行われた。
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… さらに,従来よりも広い範囲の人びとが古墳を作るには,古墳自身もまた,それに適したものに変化してくる必要があった。それを促したものは,横穴式石室という新しい墓室の構造の採用である。この大陸系統の墓室の形式は,すでに中期に北九州地方に伝来していたが,それが全国的な流行をみるためには,新しい土木技術の普及をまたねばならなかった。…
…中期後半以後の例には,同じく竪穴式石室が盛行した朝鮮南部の影響が認められるものがある。長さ2m前後,幅1m足らずの小型のものは後期に多く,新しい例では退化した横穴式石室との区別が困難なものもある。また,九州を中心に,箱式石棺との折衷型式をとるものが見られるが,その場合は棺を用いないことが考えられる。…
…しかし,後期に入ると前方後円墳は全般的に小型化するとともに,後円部が縮小し,前方部は幅においても高さにおいても後円部を凌駕するようになる。その理由の一端としては,埋葬施設として横穴式石室が採用されたことが指摘され,玄室を後円部の中央に築き,羨道入口を後円部側面に設けなければならない横穴式石室の構造上の特質が,後円部の規模を規定したと説明されている。ただし,以上の変遷観は畿内の大型例を基礎としたものであり,地域によるずれや地方色も少なからず認められる。…
…壁画または浮彫,線刻などの装飾をもつ古墳の総称として用いる語。日本の古墳のうち,(1)浮彫または線刻で飾った石棺,(2)浮彫または線刻で飾った石障(せきしよう)をもつ横穴式石室,(3)壁面に彩色文様ないし壁画を描いた横穴式石室,(4)墓室の内壁または外壁に浮彫,線刻,彩色画などのある横穴,以上の4種をふくむ。しかし,日本以外の地域では,石棺に彫刻があっても装飾古墳ということはなく,墓室に壁画や浮彫があるものも,壁画墓,画像石墓などとはいうが,装飾古墳とはいわない。…
※「横穴式石室」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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