(佐藤道信)
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幕末・明治初期の日本画家。下関に生まれ,幼名幸太郎。父は長府藩御用絵師狩野家の四代董信(ただのぶ)(松隣,晴皐)。父に師事し,13歳ごろより松隣,松林と号したが,19歳で江戸へ出,木挽町狩野家の勝川院雅信(ただのぶ)の門に入る。3年後には勝海雅道(ただみち)の称を許され,同年入門の橋本雅邦とともに竜虎とうたわれた。30歳で郷里へ帰り,雪舟,雪村らの作品に傾倒,そのころから芳崖を名乗るようになったが,明治維新後の社会的混乱,ことに廃藩置県後は禄を離れたことなどのため,生活に困窮し他業に転じるなど辛酸をなめた。1877年上京,路頭に迷うような生活のなかで84年第2回全国絵画共進会に出品した《桜下勇駒図》《雪景山水図》がフェノロサに認められ,やがて岡倉天心とも知った。狩野派の懸腕直筆の描線と雪舟画のもつ古典的な気魄のこもった空間表現の上に合理的な写実性を加えた《谿間雄飛》(ボストン美術館)を発表,ついで色彩に開眼し,パリから取り寄せたカーマイン系の赤やコバルト,ピンク等を使用した《仁王捉鬼》が第2回鑑画会一等賞を得,フェノロサらの新日本画創造の道を開く鑑画会の先頭に立つに至った。ついで洋風の陰影法や空気遠近法的手法をとり入れた《不動明王》を経て,近代日本画の原点となる《悲母観音像》の制作に取り組んだ。画題,構図は中国の仏画に拠ったものの,解剖学的人体の研究をもとに,描線に柔軟性と写実性を加え,彩色に胡粉(白色)を混ぜることによって中間色的色相を豊かにし,外光派的感覚をとり入れるなど,多くの試みを残したが,〈後3日あれば〉の言葉をのこして他界した。またこのとき,東京美術学校初代日本画主任教授に予定されていたが,その遺志は橋本雅邦らの新日本画運動にうけつがれた。(図)
執筆者:佐々木 直比古
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日本画家。文政(ぶんせい)11年1月13日、長門(ながと)国(山口県)長府藩の御用絵師狩野晴皐の長男として生まれる。幼名幸太郎。1846年(弘化3)江戸に出て狩野勝川院雅信に入門、たちまち頭角を現した。橋本雅邦(がほう)は同門。佐久間象山(しょうざん)にも学んで進取の気性に富み、狩野派の粉本主義に疑問を抱いて独創を試み、危うく破門されるということもあった。1855年(安政2)に帰郷、このころから芳崖と号した。1860年にふたたび江戸に出るが、やがて江戸払いとなって郷里に戻り、1871年(明治4)廃藩置県で禄(ろく)を失った。1877年に上京、陶器や漆器の下絵描(か)きなどに従事したが、貧窮を極めた。1884年、第2回内国絵画共進会に出品した『桜下勇駒図』『雪山暮渓』がフェノロサに認められ、フェノロサを介して岡倉天心とも親交を結び、鑑画会に加わって新しい日本画の創出に力を注ぐことになった。1886年の第2回鑑画会大会で一等賞を受賞した『不動明王図』(重要文化財)は、西洋の絵の具を用いた色調が鮮やかで、構図の斬新(ざんしん)さとともに、新しい表現を切り開く強い意志をうかがわせる。1885年に文部省図画取調掛雇となり、フェノロサや天心と力をあわせて東京美術学校の創設に努めた。1888年には同校の日本画科主任教授に内定したが、翌年の開校を待たず明治21年11月5日没した。死の直前に完成した『悲母観音』(重要文化財)は、近代日本画の代表作の一つとして名高い。
[原田 実]
『河北倫明・高階秀爾他編『日本の名画1 狩野芳崖』(1976・中央公論社)』
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1828.1.13~88.11.5
明治期の日本画家。幼名幸太郎,元服して延信。号は松隣・勝海。長門国長府藩の御用絵師狩野晴皐(せいこう)の子。江戸木挽(こびき)町の狩野勝川院雅信(ただのぶ)に師事。雪舟を中心に諸派絵画の研究に努める。明治10年代半ばにフェノロサと出会い,以後フェノロサとともに新日本画創造に情熱を傾けた。狩野派の伝統画法に西洋絵画の構図や色彩,空間表現をとりいれた「不動明王」や「悲母観音」(ともに重文)などを描いた。東京美術学校の創立に尽力したが,開校を前に死去。
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