類人猿(読み)ルイジンエン

デジタル大辞泉 「類人猿」の意味・読み・例文・類語

るいじん‐えん〔‐ヱン〕【類人猿】

霊長目ヒト上科に属するサル通称ヒトに最も近縁で、腕が長く、尾をもたない。現生種ではゴリラチンパンジーボノボオランウータンおよびテナガザル類がこれにあたる。人似猿ひとにざる
[類語]ゴリラチンパンジーオランウータン猩猩

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精選版 日本国語大辞典 「類人猿」の意味・読み・例文・類語

るいじん‐えん‥ヱン【類人猿】

  1. 〘 名詞 〙 霊長目ショウジョウ科に属する哺乳類総称。最もヒトに近縁なサル類で、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどがある。発達した脳を有し、尾はなく、上半身を半ば起こして歩行する。広くはテナガザルも含める。
    1. [初出の実例]「類人猿(ルヰジンヱン)の足の拇趾は」(出典:面白半分(1917)〈宮武外骨〉人類の最大発明は直立直行)

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改訂新版 世界大百科事典 「類人猿」の意味・わかりやすい解説

類人猿 (るいじんえん)

霊長目真猿亜目狭鼻下目ヒト上科に属する種のうち,人類を除いた種の総称。英語ではapeというが,これは尾のないサルの意で,オナガザル上科クロザルやバーバリーマカクなど尾の極端に短いサルにもあてることがある。生物分類における類人猿の取り扱いには,二つの考えがある。伝統的な進化分類では,現生ヒト上科Hominoideaの中に,テナガザル科Hylobatidae,オランウータン科Pongidae,ヒト科Hominidaeをもうける。小型類人猿と呼ばれるテナガザル類はテナガザル科に,大型類人猿と呼ばれるチンパンジーPan troglodytes,ボノボPan paniscus(ビーリャ,ピグミーチンパンジーとも呼ばれる),ゴリラGorilla gorillaオランウータンPongo pygmaeusはオランウータン科に含まれる。一方,生物分類の主流となっている分岐分類の考え方は,系統進化過程における分岐の順番を分類の基準として用いる。分子生物学的研究により,テナガザル類,オランウータン属,ゴリラ属チンパンジー属と逐次,ヒトとの共通の系統から分岐が起こったことが明らかになっているため,分岐分類のもとでは,ヒト上科の中にテナガザル科とヒト科がもうけられる。ここにおけるヒト科は,大型類人猿と人類を含む。なお,ヒト科より低次の分類は,以下のようになる。オランウータン亜科Ponginae(=オランウータン),ゴリラ亜科Gorillinae(=ゴリラ),ヒト亜科Homininae(チンパンジー族Panini=チンパンジー属,ヒト族Hominini=人類)。ヒト上科の分類において分岐分類を用いると,将来分類階級が不足する可能性が考えられ,ヒト上科の分類では,進化分類を用いる研究者も残っている。

 テナガザル類は,従来1属に扱われてきたが,最近では4属(HylobatesBonopithecusNomascusSymphalangus)に分類する意見もある。10種前後に分類され,東南アジアを中心に分布する。オランウータンは,ボルネオ島スマトラ島に分かれて2亜種が棲息するが,遺伝的距離の解析から,これらは別種に相当するという意見もあり,そこでは,それぞれボルネオ・オランウータンPongo pygmaeusとスマトラ・オランウータンPongo abelliとされる。ゴリラは,赤道下のアフリカに棲息する。従来は,1種でニシローランドゴリラ,ヒガシローランドゴリラ,マウンテンゴリラの3亜種を含むとされていたが,ニシローランドゴリラとアフリカ東部の2亜種を種レベルで区別し,前者をニシゴリラGorilla gorilla,後者をヒガシゴリラGorilla beringeiとし,後者に2亜種,ヒガシローランドゴリラGorilla beringei graueriとマウンテンゴリラGorilla beringei beringeiを含むとする意見もある。チンパンジー属は,チンパンジーあるいはコモンチンパンジーとボノボからなる。チンパンジーも赤道下のアフリカに棲息するが,ゴリラに比べるとより乾燥した地域にまで棲息する。ボノボは,ザイール川南部の中央アフリカにのみ棲息する。チンパンジーは,異所的に3亜種に分けられる。ゴリラは現生霊長目中,最大の種で,体長2m,体重200kgを超す雄も知られている。

 トマス・ハクスリーThomas Huxleyは《自然の中の人間の位置》(1863)の中で,ヒトと類人猿の距離は,類人猿とサルの距離よりも近いと述べたが,その後の多角的な研究結果はこのことを実証した。たとえば,ヒト上科とオナガザル上科はともに片側の上顎で切歯2本・犬歯1本・小臼歯(しようきゆうし)2本・大臼歯3本,片側の下顎で切歯2本・犬歯1本・小臼歯2本・大臼歯3本という歯式をもつが,前者が尾をもたない点,盲腸に虫様突起をもつ点などに相違を認めることができる。遺伝学的証拠は,現生ヒト上科は単系統群であり,オナガザル上科はその姉妹群であることを確実としている。ヒトと類人猿との間には,後者の犬歯は強大で歯列を抜いて長く,また上顎の側切歯と犬歯,下額の犬歯と第1小臼歯間に歯隙がある点,前者だけが日常的に直立二足歩行を行う点などをはじめ,多くの相違を認めることができる。

 テナガザル類とオランウータンは樹上生活者で,前肢を巧みに用いて懸垂運動を行う。まれに地上に降りると,前肢が長すぎるテナガザルは二足歩行,オランウータンは握りしめた手で体重を支えるフィスト歩行を行う。それに対して,アフリカ類人猿は,半地上,半樹上性である。四足歩行では,第2指から第5指の中節で体重を支えるナックル歩行を行う。

 大型類人猿は,休眠時に木の枝や草などでベッドをつくり,その上で寝る。テナガザル類,チンパンジー,ボノボは雑食性で幅の広い食物レパートリーをもち,とくにチンパンジーは小型・中型のあらゆる哺乳類を捕食することが知られている。それに対してゴリラとオランウータンは偏食の傾向がつよく,ゴリラは果実,地上性草本類,樹皮などを主食とするベジタリアンであり,オランウータンは果実食である。チンパンジーは,シロアリやアリを木の枝で釣って食べ,またアブラヤシなどの堅い実を石で割って食べるなどの道具使用行動を行う。また,チンパンジーとボノボは食物の分配を行う。

 現生類人猿は,属ごとにそれぞれ異なった社会構造をもっている。一つの上科の中で,これほど社会構造の変異が大きなことは特徴的である。ヒト上科の放散が古い時代に起き,現生の末裔種に至るそれぞれの系統が長い歴史をもっていることが原因の一つであろう。テナガザルは,いずれもが雌雄各1頭とその子どもからなる単位集団をもっている。オランウータンは単独行動者であり,ゴリラは単雄複雌の単位集団を基本とし,チンパンジーとボノボは複雄複雌の単位集団をもっている。オランウータンには,緩やかな地縁的結びつきによる集団があると主張する研究者も存在する。類人猿の単位集団に共通する点は,雌が出自集団を離れるということ(父系あるいは非母系)で,これはオナガザル類の母系的な単位集団とは対照的な違いだといわなければならない。また,ゴリラは地域によっては父子が共存する複雄群を構成し,チンパンジーでは雌が個体によっては集団間を移籍しない例も知られており,オナガザル類とは異なる社会構造の可塑性が注目をあつめている。
オランウータン →化石類人猿 →霊長類
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「類人猿」の意味・わかりやすい解説

類人猿
るいじんえん
anthropoid

哺乳(ほにゅう)綱霊長目ヒトニザル(ヒト)上科ショウジョウ科に属する動物の総称。この科Pongidaeの仲間は、ショウジョウ亜科Ponginaeまたは大形類人猿great apesと、テナガザル亜科Hylobatinaeまたは小形類人猿lesser apesに分かれ、前者には3属4種、後者には1属8種が含まれる。また、アジアの類人猿Asian apesとアフリカの類人猿African apesに分けることもある。前者はテナガザル類とオランウータンからなり、後者はゴリラ、チンパンジー、ボノボからなる。いずれも熱帯森林に生息する。尾をもたないこと、頬袋(ほおぶくろ)をもたないことでオナガザル類と区別される。歯式は、オナガザル類およびヒトと同じ

の32本である。大形類人猿はとくに発達した脳をもつ。頭蓋(とうがい)内容量は、オランウータン400cc、ゴリラの雄500cc、雌400cc、チンパンジー400ccで、小形類人猿であるテナガザルの100ccに比し格段の開きがある。類人猿の祖型は、第三紀漸新世のエジプトのファイユームから出土している。類人猿はヒトに最近縁の系統群で、人類進化の研究にとっては重要な存在である。

伊谷純一郎


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百科事典マイペディア 「類人猿」の意味・わかりやすい解説

類人猿【るいじんえん】

霊長目ヒト上科ショウジョウ科の猿の総称として用いられ,ヒトを除くと動物のうち最も知能が高い。英語でapeと呼び,その他のサル類monkeyと区別する。尾や頬袋(ほおぶくろ)はなく,しりだこの発達は悪い。テナガザルオランウータンチンパンジー,ボノボ,ゴリラを含む。
→関連項目霊長類

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「類人猿」の意味・わかりやすい解説

類人猿
るいじんえん
Pongidae; anthropoid primate

霊長目テナガザル科とヒト科の動物の総称。前肢が後肢より長く,地上では,後肢の足裏と軽く曲げた前肢の指の背側を地面につけて歩く。顔はほとんど裸出し,耳も裸出して丸い。尾,頬袋がない。盲腸に虫垂をもつ。大脳はよく発達していて,視力,聴力ともにすぐれ,利口な動物である。赤道アフリカにゴリラチンパンジーボノボ (ピグミーチンパンジー) が,アジア南部の森林にオランウータンが分布する。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「類人猿」の解説

類人猿 (ヒトニザル)

動物。ヒトニザル科の哺乳動物

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世界大百科事典(旧版)内の類人猿の言及

【化石類人猿】より

…地質時代に生息し,化石として残されている類人猿の総称。化石類人猿は,分類学的には現存の大型類人猿であるゴリラ,チンパンジー,オランウータンとともに類人猿科Pongidaeに含まれており,テナガザル科やヒト科といっしょにヒト上科としてまとめられている。…

【人類】より

…また,形や色を異にしたプラスチック板を諸種の概念のシンボルとして学習させ,その配列によって実験者と会話をする実験によって,彼らが概念間の異同を認知し表現する能力,異質な事象に含まれる共通の要素を抽出する能力,設定された仮定的条件に基づいて文脈を展開してゆく能力などをもっていることが明らかにされ,また彼らが文法構造をある程度理解することも示された。このように類人猿は,意味論的・統辞論的いずれの面からも人間言語にきわめて類似のコミュニケーションの能力をもつのだが,彼ら自身の音声をこのような象徴として用いさせることは困難だったのである。野生のチンパンジーの相互間にこの種の身ぶりによる会話が交わされているという報告はないが,相手の物乞いに応じて食物などを分配する行動が認められている。…

※「類人猿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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