精選版 日本国語大辞典 「猿」の意味・読み・例文・類語
さる【猿】
〘名〙
① 霊長目のうちヒト科を除いた哺乳類の総称。動物学的には霊長目を総称していう。ヒトにつぐ高等動物で、大脳のほか色覚を含む視覚、聴覚が発達し知能の高いものが多い。顔が裸出し、目は前方に向かい、手と足で物を握ることができる。森林などで群をなしてすみ、木の葉、果実、昆虫などを食べる。ゴリラ、ヒヒ、クモザル、キツネザルなど一二科五八属一八一種がいる。原猿類と真猿類とに分けられ、後者はさらに広鼻猿類(新世界サル類)、狭鼻猿類(旧世界サル類)、類人猿類に区分される。日本にはニホンザル一種だけで、ふつうこれをさしていう。
※書紀(720)皇極三年六月(北野本南北朝期訓)「人有りて、三輪山に猿(サル)の昼睡るを見る。竊に其の臂を執(とら)へて、其の身を害(そこな)はず」
② ①を、すばしっこくずるいもの、卑しいもの、落ち着きのないものなどと見て、それに似た人をたとえていう語。
(イ) ずるくて小才のきく者、またはまねのじょうずな者などを、あざけっていう語。
(ロ) 野暮な者やまぬけな者をあざけっていう語。
(ハ) 言語、動作の軽はずみで落ち着きのない者。〔新撰大阪詞大全(1841)〕
(ニ) 主として小者(こもの)、召使いなどを卑しめていう語。
※浄瑠璃・傾城酒呑童子(1718)三「さるめ、先へいて善哉餠いひ付よ」
③ (浴客の垢(あか)を掻(か)くところから) 江戸時代、湯女(ゆな)の別称。風呂屋女。垢かき女。
※俳諧・大坂独吟集(1675)下「をのづから書つくしてよひぜんがさ 猿とゆふべの露は水かね〈未学〉」
④ 岡っ引き、目明しをいう江戸時代、上方の語。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第一三「頭は猿与力同心召連て 此穿鑿に膓をたつ」
⑤ 扉(とびら)や雨戸の戸締まりをするために、上下、あるいは横にすべらせ、周囲の材の穴に差し込む木、あるいは金物。戸の上部に差し込むものを上猿(あげざる)、下の框(かまち)に差し込むものを落猿(おとしざる)、横に差し込むものを横猿という。くるる。

※雑俳・柳多留‐一五三(1838‐40)「戸の猿は手長を防ぐ為に付け」
⑥ 自在かぎをつるす竹にとりつけ、自在かぎを上げて留めておく用具。多くグミの木で作る。小猿(こざる)。
※随筆・嬉遊笑覧(1830)六「のぼせたる凧の糸にとをし糸をしゃくり上れば凧の糸めの処まで上り行なり。是を猿をやるといふ」
⑧ ミカンの実の袋を糸毛でくくって、①の形をこしらえる遊び。
※浮世草子・好色一代男(1682)六「過にし秋、自が黒髪をぬかせられ、猿(サル)などして遊びし夜は」
⑨ 江戸時代、針さしのこと。
※雑俳・折句袋(1779)「憎まれて居る針箱の猿」
⑩ 「さるばい(猿匐)」の略。
※俚言集覧(1797頃)「猿匐(サルハヒ) 碁勢にあり。又猿とばかりも云」
まし【猿】
〘名〙 「さる(猿)」の異名。
※紫式部集(1012‐17頃)「ましも猶をち方人の声かはせ我れ越しわぶるたこのよひ坂」
[補注]中古以降、和歌には「まし」「ましら」を用い、詞書など和歌以外では「さる」を用いるところから、「まし」は歌語であったと認められる。
ましら【猿】
〘名〙 「さる(猿)」の異名。
※古今(905‐914)雑体・一〇六七「わびしらにましらななきそあしひきの山のかひあるけふにやはあらぬ〈凡河内躬恒〉」
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