ブードゥー(英語表記)Vodou; Voodoo; Vodun

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ブードゥー」の意味・わかりやすい解説

ブードゥー
Vodou; Voodoo; Vodun

ハイチに根づく民間信仰。植民地時代のヒスパニオラ島に奴隷として連れて来られたアフリカ人の子孫が,16~17世紀頃カトリックによりキリスト教化され,もともとの信仰とキリスト教が融合するかたちでつくり上げられた。ブードゥーという語は,ダオメー王国のフォン語で「精霊」または「神」を意味する。哲学,医術司法,宗教を網羅する世界観であり,「すべては精霊である」という考えを基本原理とする。人間は可視的な世界に住む精霊で,目に見えない世界には精霊(イワ)や先祖,亡くなった人の霊などが住む。キリスト教の神が,宇宙と精霊の創造主とされる。健康,守護,利益(りやく)を授かるために神と特定の精霊に向けて祈りを捧げ,祈祷儀式をとり行なう。儀式の祈り,歌,踊り,身ぶりなどは,人と人,人と見えない世界の霊との関係を改善し,調和とエネルギーを回復させるとされる。都市部では,女性祭司(マンボ)や男性祭司(オウンガン),精霊の子供たち(オウンシ),儀式の鼓手(オウントギ)が,より秩序だった共同体ないし信徒団を形成している。中央集権化された階層構造も,単独指導者公式代表ももたないが,宗教上,司法上の機能を担う秘密組織は存在する。祭祀の暦はカトリックの暦と融合しており,カトリックの聖人(→聖者)の祝日に重要な精霊の祝いが催される。イニシエーション葬儀年間を通じて行なわれる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「ブードゥー」の意味・わかりやすい解説

ブードゥー
vodun
voodoo

ハイチにみられる民間信仰で,キューバサンテリーアやブラジルのマクンバ,カンドンブレとともに,アフリカの原始宗教とカトリックとが混交した宗教。フランスの植民地時代に西アフリカのダホメー(現,ベニン)から奴隷としてキューバに連れて来られたフォン族がもたらしたものであるが,彼らはその後支配者の強制するキリスト教と父祖伝来のブードゥー教とを巧みに融和させ,これを部族宗教から民族宗教に発展させた。1791年の奴隷反乱の際ブードゥーは黒人たちを決起させ,6年後世界で初めて黒人共和国ハイチが成立した。そして現在に至るまでハイチ国民の間に根強い信者をもっている。しかし全人口の7割以上が非識字大衆であるハイチの現状からすると,ブードゥーは呪術や魔術的色彩が強く,呪文によって病気の回復を求めたり,祭壇に動物をいけにえにささげたりする習慣がいまなお残っている。元大統領フランソア・デュバリエがブードゥーを利用して独裁政治を行った話は有名である。
ウンバンダ
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ブードゥー」の意味・わかりやすい解説

ブードゥー

ブードゥー,ブドゥンvodunとも。ハイチの宗教の一つで主な担い手は農民や都市の下層民。カトリシズムと西アフリカ・中央アフリカ諸部族の宗教とのシンクレティズムから成立。至高神の他に多様な神々や祖霊を崇拝する多神教。これら霊的存在の人間への憑依が信仰の中心。ハイチ独立運動の口火を切った1791年の奴隷反乱はブードゥー司祭が指揮した。ハイチの米国保護下時代(1915年―1934年)には知識人がナショナリズム的観点からブードゥーを評価。またフランソワ・デュバリエの独裁政権(1957年―1971年)は,ブードゥーをイデオロギー的武器として使用。
→関連項目ルンバ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のブードゥーの言及

【アフロ・アメリカ文化】より

…そしてキューバの一部で話されているニャニギスモは,スペイン語とヨルバ語の混合したものである。
[宗教]
 一般にアフロ・アメリカの宗教という場合に挙げられるのは,ハイチのブードゥー,ブラジルのマクンバ(ウンバンダ),キューバのサンテリーアなどであるが,そのいずれもが西アフリカのフォン族やヨルバ族に起源を持つ原始宗教とカトリックとの混交宗教である。スペインやポルトガルの植民当局が植民政策の一つとして原住民インディオや黒人奴隷にカトリックへの改宗を強制したことはよく知られている。…

【ハイチ】より

…黒人,混血の人種構成のために人種差別はみられないが,貧富の差がはなはだしいので,同一人種間でも階級対立が顕著である。宗教はカトリック80%,プロテスタント10%,その他10%であるが,カトリックとアフリカ原始宗教との混合宗教であるブードゥーが農村に広く分布している。ブードゥーはハイチにおいて大きな影響力をもっており,独立革命の前ぶれとなった1791年の奴隷反乱では,ブードゥーを信仰する奴隷たちが守護神を奉持して蜂起したし,1957年に大統領に選出されたフランソア・デュバリエは熱心なブードゥー教徒として知られている。…

【フォン族】より

…交易で繁栄したダホメー王国の住民であり,現在も活発に商業活動に従事し,市(いち)もよく発達している。フォン族のあいだにはボードゥン(中米ハイチで信仰されるブードゥーの起源)と総称される神々があるが,これは神格化された祖先であり,ふつうの祖先とは区別される。このパンテオンの頂点には創造神リサ・マウが位置し,その配下に天,地,雨などを支配する神々が連なった。…

【ラテン・アメリカ】より

…儀礼は秘儀的性格と反白人主義を強め,アフリカ要素の憑依(ひようい)現象の脱魂状態での恍惚感と呪術,さらにキリスト教の終末観や聖霊憑依感のなかでの慰めなどに共通に見いだされる。ハイチで盛んなブードゥー教もこの流れをくむ祭祀集団であり,キューバにはニャニーゴÑanigoという,荒々しい歌舞によってアフリカの神々が憑依する秘儀団があり,ブードゥーの神々と習合して複雑化している。ブラジルの黒人宗教も同じ傾向をもつが,なかでもサン・パウロ市に本部をもつウンバンダは1960年以降,都市中産階級に浸透し白人信徒を擁して反白人的色彩を稀薄化させている。…

※「ブードゥー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android