出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
いっさいの認識は感覚のみに由来すると主張するか,それとも感覚がいっさいの認識の必要,かつ十分な条件であると主張する哲学的立場。sensualisme(感覚論)という用語は19世紀初頭以来,フランスで使われており,フランスの《アカデミー辞典》には,1878年版から採録されている。イギリスでは,sensualistという語は,すでに18世紀以来使用されていたが,この語は語源どおり〈快楽主義的〉〈肉欲主義的〉という軽蔑的意味しかもっていなかった(バークリー《アルシフロン》第2巻,16章)。したがってとくにフランスでは感覚論をあらわすには,sensualismeではなく,正しい語源に由来するsensationnismeという語を使うべきである,とする意見も少なくない。
感覚論には,その前段階として,ロックの経験論がある。ロックにおいては,生具観念が否定され,人間の精神は本来,白紙(タブラ・ラサ)であるとされる。したがって人間の観念は,すべて経験から生じる。この経験の起源は内外の知覚経験,すなわち外的な〈感覚〉と内的な〈反省〉である。この二つの起源から生じた精神内容である〈観念〉には,感覚や反省に直接与えられる〈単純観念〉と,それに精神の機能が加わって成立した〈複合観念〉(空間,時間,数,無限,実体,因果など)とがある。このようにロックの経験論は,一方で,人間の知識は,知覚経験から出発してしだいに形成されていくとする感覚論と,他方で,この知識の形成原理の側にも力点を置く合理論との妥協であった。
本来的な感覚論は,ロックの経験論から出発したコンディヤックに始まる。彼は,〈立像のたとえ〉によって人間の認識の成立を一元的に説明する。すなわち,感覚を賦与されてはいないが,〈わたくしたちと同じように内部が組織され,精神を与えられ〉ている大理石の立像を,思考実験的に想定する。そしてそれに嗅覚,味覚,聴覚,視覚を順次与えていくと,悟性機能(想起,記憶,想像,判断など)と意志作用が生じる。さらに触覚が与えられ,かつ立像が運動を起こして外的対象に接触すると,ここで初めて外的世界の存在が認識される(この外界の認識によって,コンディヤックの感覚論は,〈存在するとは知覚されることである〉というバークリーの独我論を抜け出し,観念論から実在論に移行することに成功した)。他方でまた反省は,記憶において一定の観念系列に注意を固定し,それらを順次考察していくことによって成立する。この注意と反省に〈記号〉を用いると,判断と推理が可能になり,このようにして精神的命題が形成されていくのである。このコンディヤックの理論は,肉体的感性に発する幸福追求の欲望を人間の行為の動機とするエルベシウスの感覚論的道徳論や,カバニス,デステュット・ド・トラシーらの感覚論的観念学によって継承されている。
→感覚 →認識論
執筆者:中川 久定
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…啓蒙の認識論のスタンダードを定めたといってもよいロックの経験論から,さらには自然科学的説明方式の力により全面的に依拠したドルバックらの唯物論,人間機械論の哲学にいたるまで,この動向をぬきにしては考えられない。ロックの経験論は,イギリスでは,ヒュームの懐疑論にまで徹底され,またフランスに移植されてコンディヤックの感覚論を生む。ロックやコンディヤックにおいて,エピクロス,ストアの哲学から中世の唯名論を通じて受け伝えられた記号学ないし記号論の発想には,その後今日に通じる新たな展開をみせていることをはじめ,多くの注目すべき点がある。…
※「感覚論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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