来訪神(読み)ライホウシン

デジタル大辞泉 「来訪神」の意味・読み・例文・類語

らいほう‐しん〔ライハウ‐〕【来訪神】

異郷からやってきて人々の歓待を受け、また帰ってゆく神。沖縄のまゆんがなしなど。→まれびと1
[補説]男鹿おがナマハゲ・吉浜のスネカ米川よねかわ水かぶり遊佐ゆざ小正月行事(アマハゲ)・能登のとアマメハギ・見島のカセドリ甑島こしきしまトシドン薩摩硫黄島さつまいおうじまのメンドン・悪石島あくせきじまのボゼ・宮古島のパーントゥの10件の行事が、平成30年(2018)に「来訪神 仮面・仮装の神々」の名称でユネスコ無形文化遺産に登録された。

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改訂新版 世界大百科事典 「来訪神」の意味・わかりやすい解説

来訪神 (らいほうしん)

1年に1度,時を定めて異界から人間の世界に来訪して,さまざまな行為をし,人々に歓待される神々を一般に来訪神とよぶ。来訪神はいわば異人の一種であり,〈まれびと〉である。われわれは,われわれの住む世界が自己(もしくは自己の仲間たち)と異人という二元的構成をとっているとみなしており,異人に対しては畏敬の観念をもつとともにこれを厚くもてなす異人歓待の観念が発達している。来訪神の多くは人々が仮面仮装した異形の姿であらわれるが,こうした来訪神信仰は,日本のみならず未開社会と文明社会にわたる多くの社会に存在している。未開社会の例としては,メラネシアニューブリテン島ドゥク・ドゥクがよく知られているし,文明社会の例としては東ヨーロッパのベルヒテンとかイェガーとよばれる仮面仮装来訪神がある。

 日本においてもこの来訪神信仰は強く認められ,とくに東北地方や九州の南の南島においてきわめて盛んである。日本の来訪神には三つの形態がある。ひとつは仮面仮装した異形の姿で来訪するものであって,秋田のナマハゲ,能登のアマメハギ,三陸のナモミ,ヒガタタクリ,甑島(こしきじま)のトシドン,吐噶喇列島悪石島のボセ,宮古のパーント八重山のアンガマ,アカマタ・クロマタ,ミルク(弥勒),マユンガナシフサマラーなどがある。仮面仮装する者の多くは若者であり,また特別の資格を備えた村人である。仮面仮装来訪神としてよく知られているナマハゲは小正月の晩に鬼面をかぶり,蓑笠にわら靴をはき,木の刃物をもって家々を訪問し,子どもや女たちを威嚇したのち酒食のもてなしをうける。また八重山のいくつかの村にプール(豊年祭)のときに来訪するアカマタ・クロマタは赤や黒の仮面をつけ,木の葉で身体全体をおおった姿で出現し,人々の熱い歓迎をうけたのち,村中の各家をめぐって来たるべき作物の豊穣をもたらすと信じられている。また波照間島に雨乞い行事にあたって来訪したフサマラーは,雨の神とされる来訪神であって,ひょうたんでつくった仮面をつけ,フサマラー山とよばれる小さな山から出現し,村中の井戸をまわって雨をもたらすと信じられている。来訪神の第2の形態は,南島にしばしばみられるように,さまざまな儀礼や神歌の中に暗示されて具体的な姿をまったく見せぬものである。この場合には浜にでて神女たちが行うユークイ(世乞)やハーリー船競争(ペーロン),網引きなどによって来訪神の神迎えが行われる。たとえば沖縄西表島の節祭では各村でハーリーが行われ,そのハーリーが村にもどるとき女たちは神を踊りと独特の手招きで迎える。これらの競争が東西に分かれて行われ,西組が勝つとよいとされるのは,南島では来訪神が東方はるかなるニライカナイから来ると信じられているからである。来訪神の第3の形態は,仮面仮装の形はとらないが,子どもたちが来訪して来る形態をとるものである。これには東北地方のカセドリ,スルメツリ,中国地方のホトホトコトコト,鹿児島のカセダウチなどがある。この形態においては子どもたちは組をなして,村中の各家を訪問し,大判・小判やわら馬などを各家に置いたあと,餅や菓子,金などを各家からもらうことが多い。

 このようにさまざまな形で来訪する来訪神信仰の共通する特徴として次の諸点をあげることができる。第1は,来訪神が新年や小正月,豊年祭,節祭など1年の季節の変り目に1度来訪することである。第2は,こうした来訪神が海上はるかなる他界から来訪すると信じられていることが多いことである。南島ではこうした海上他界をニライカナイとよび,そこから来る来訪神をニロー神ニイルピトとよんでいる。第3は来訪神が人々に穀物の豊穣や幸福をもたらすと信じられていることであり,各家を訪問した際にのべる祝いの言葉や耕作方法を盛りこんだ言葉にこれがあらわれている。南島の八重山において布袋の面をかぶったミルクがもたらすミルク世果報(ゆがふ)はその代表的なものである(弥勒信仰)。第4はこうした来訪神信仰の担い手の組織および儀礼がきわめて秘儀的性格をもっていることであり,なかにはアカマタ・クロマタのように秘密結社的組織をもつものもある。こうした秘儀的組織は若者たちによって構成される例が多く,若者組や若者宿の習俗と密接な関連をもつといえる。多くの来訪神が女性や子どもたちをしばしば威嚇するのはこうした性格にもとづくものである。こうした秘儀的性格は異人としての来訪神がわれわれの世界に再生のエネルギーをもたらすという事実にも深く関連しているのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「来訪神」の意味・わかりやすい解説

来訪神
らいほうしん

1年に1度季節の変り目に人々の世界に来訪して,豊饒や幸福をもたらすとされる神々。来訪神信仰は世界各地で広く行われており,日本でもまれびと信仰として盛んである。来訪神の多くは人々が仮面仮装した異形の姿で現れるが,日本では,東北・北陸地方のなまはげの系統のものや,九州のトシドン,ボセ,沖縄のミルク,パーント,アカマタクロマタ,マユンガナシ,フサマラーなどが知られている。沖縄八重山のアカマタクロマタは赤や黒の仮面をつけ,木の葉で身体全体をおおった姿で出現し,村人の歓迎を受けたのち,村中の各家をまわってきたるべき作物の豊饒をもたらすと信じられている。仮面仮装する者の多くは若者であり,また特別の資格をそなえた村人である。特にアカマタクロマタは秘儀的性格の強い集団によって行われており,メラネシアの秘密結社的な仮面仮装来訪神との類似性が指摘されている。 (→異郷人款待 , 男子結社 )  

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世界大百科事典(旧版)内の来訪神の言及

【神】より

…民俗的なカミの一つの特徴は,一定の空間に常在せず,祭りに際して出現するが,とりわけ,異装をして具象化された姿をとっていることである。たとえばその典型的事例は,正月の来訪神であり,東北のなまはげから,沖縄のアカマタ・クロマタに至るまでよく知られている。異装の来訪神については,民俗文化における山と里の交流という背景が考えられている。…

※「来訪神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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