経済循環(読み)けいざいじゅんかん(英語表記)economic circulation

改訂新版 世界大百科事典 「経済循環」の意味・わかりやすい解説

経済循環 (けいざいじゅんかん)
economic circulation

財・サービスの生産に始まり消費に終わる一連の経済活動は,例外的に一個人や一家計の内部で自己完結的に営まれるほかは,社会を構成する各部門で分担され,相互にその成果が交換されることを通して完結するのが通例である。人々は自己の必要量を超えて生産した財・サービスを,他の人々の生産した財・サービスと交換することにより,自分の消費生活をより豊かにする機会を獲得しようとする。とりわけ現代社会では,この交換は市場を通じて行われ,財・サービスと貨幣との交換の形態をとる。こうして経済活動を最も端的に特徴づけるものは,人々の間の財・サービスの流れとそれと逆行する貨幣の流れである。現代社会は,この生産=消費のサイクルを絶えず繰り返しつつ,みずからの経済活動を実現し,その過程で所得が発生し,富が蓄積されるとみることができる。経済活動のこの側面を,生体血液循環になぞらえて,経済循環という。経済活動をこのように循環とその再帰として理解する試みを,自覚的に行った最初の人は,ルイ15世の侍医F.ケネーである。彼の試みは,その後の経済学を貫く思潮の一つとなり,現代にまで受け継がれている。とりわけ経済表として1枚の図表に経済活動の全貌を集約して表現しようとした彼の着想は,マルクス再生産表式レオンチエフ産業連関表として結実し,経済学上有力な分析用具を提供する結果となった。

 現代の国民経済の循環構造を具体的にとらえる手法としては,上記の産業連関表のほかに,国民経済計算資金循環表(マネー・フロー表)があげられる。産業連関表が生産における循環に注目するのに対し,国民経済計算では,国民所得の発生から,分配を経て支出に至る循環の様相を対象とする。資金循環表は,財・サービスの流れを背後から支える貨幣の流れを記述するものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済循環」の意味・わかりやすい解説

経済循環
けいざいじゅんかん

生産、分配、支出などの経済活動全体の流れをいう。いま家計と企業とからなる経済を考えてみよう。家計は労働、資本、土地などの生産要素を企業に提供し、企業から賃金俸給利子配当地代などの所得を得る。家計はこの所得で企業から消費財を購入し、残りを貯蓄する。企業は家計から購入した生産要素を使用して、消費財や投資財、あるいは中間生産物(企業が使用する原材料)を生産し、消費財を家計に、投資財と中間生産物を他企業に販売する。さらに企業は家計の貯蓄を借り入れて投資を行い、資本を蓄積する。この場合、個々の家計で決定した消費需要は個々の企業が生産する消費財の供給とは一致しない。両者を調整するのが財市場の働きである。同様に、生産要素の需給は生産要素市場で、貯蓄と投資の調整は資産市場でなされる。

 なお、マクロ経済学における経済循環は、経済主体を家計、企業、政府、海外の各部門に分類し、これらの経済主体が行う消費、貯蓄、投資、政府支出、輸出、輸入などの経済活動を分析する。これらの活動は生産(最終生産物の生産額)、分配(賃金、利潤、地代)、支出(消費、投資、政府支出、輸出マイナス輸入)の三つの側面からみることができるが、この三つの側面は同じ経済循環を別の側面からみているにすぎないので、つねに等しくなる。これを「三面等価」という。

 経済循環を表式化した古典的なものにケネーの「経済表」、マルクスの「再生産表式」がある。これをさらに展開させたレオンチェフの「産業連関表」は現在、各国で経済循環の分析に活用されている。

[畑中康一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「経済循環」の意味・わかりやすい解説

経済循環
けいざいじゅんかん
circular flow of economic system

財やサービスが生産され消費へと流れる状態や貨幣が流れる状態を年ごとに国民経済全体の立場から構造的にとらえたもの。この経済循環を理解することが経済学,特にマクロ経済学の中心的課題であった。古くは 18世紀の F.ケネーの経済表に始り,A.スミスの毎年の生産物の概念,K.マルクスの再生産表式,J.M.ケインズの国民所得理論などがある。また貨幣の循環を扱ったものとしてマネーフロー分析がある。

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