金属指示薬(読み)きんぞくしじやく(英語表記)metal indicator

日本大百科全書(ニッポニカ) 「金属指示薬」の意味・わかりやすい解説

金属指示薬
きんぞくしじやく
metal indicator

キレート滴定において終点指示のために用いる指示薬をいう。指示薬自身も金属イオンキレート化合物を生成するが、その安定度定数は、滴定試薬が金属イオンと結合して生じるキレート化合物の安定度定数に比べて小さく、かつ指示薬自身の色が、金属イオンとキレート化合物を生成したときの色と異なるような性質をもつものが金属指示薬として用いられる。表1には正式名称と略称を示した。

 金属イオンM(電荷は省略する。以下同じ)を含む溶液に金属指示薬Xの微量を加えてキレート試薬Yで滴定すると、金属指示薬自身弱いキレート剤であるから、最初はMXの着色がみられるが、滴定が進むとMYが生成し、当量点では、
  MX+YMY+X
の反応がほとんど完全に右に進んで、溶液は遊離の指示薬Xの色を呈し、MXと異なる色になるので終点を判定することができる。たとえばキレート試薬としてエチレンジアミン四酢酸EDTA)を用いるマグネシウム(Ⅱ)イオンの滴定ではエリオクロムブラックTBT)が、また銅(Ⅱ)イオンの滴定では1-(2'-ピリジルアゾ)-2-ナフトール(PAN)がそれぞれ金属指示薬として用いられる。いくつかの金属指示薬の直接滴定における変色表2に示す。にはこれらの金属指示薬の構造を示した。

[成澤芳男]

『玉虫文一他編『岩波理化学辞典』第3版増補版(1981・岩波書店)』『大木道則他編『化学大辞典』(1989・東京化学同人)』『奥谷忠雄他著『基礎教育 分析化学』(1995・東京教学社)』


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化学辞典 第2版 「金属指示薬」の解説

金属指示薬
キンゾクシジヤク
metal indicator, metallochromic indicator

金属イオンのキレート滴定の際に,金属イオンと反応して発色,変色,または濁りを生じることにより,終点を決めるために使用される指示薬.指示薬の発色機構にもとづき次の三つのグループに大別される.
(1)無色またはほとんど無色の化合物で,特定の金属イオンと反応して錯体,キレートを生成して発色するもの.サリチル酸チオシアン酸カリウムによる Fe3+ の発色や,ヨウ化カリウムチオ尿素によるビスマスの発色など.
(2)金属イオンと反応して沈殿レーキを生成するもので,カルシウムに対するシュウ酸など.
(3)金属イオンとキレート化合物を生成し,その際,明瞭で鋭敏な変色を伴うもの.有機色素で現在使用されている指示薬の大部分はこのグループに属している.たとえば,エリオクロムブラックTムレキシド,ピリジルアゾナフトール,キシレノールオレンジなど.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金属指示薬」の意味・わかりやすい解説

金属指示薬
きんぞくしじやく
metal indicator

金属イオンをキレート試薬を用いて滴定するとき,終点を検出するために用いる指示薬。キレート試薬としてはエチレンジアミン四酢酸を用いることが多いが,この場合カルシウムとマグネシウムに対するエリオクロムブラックT,銅に対する1-ピリジルアゾ-2-ナフトールなどは代表的な例である。終点にいたる前はマグネシウムまたはカルシウムのエリオクロムブラックT錯体のワイン色を呈するが,終点ではエリオクロムブラックTが放出され,青色に変るので終点指示に用いることができる。金属指示薬は弱酸のキレート試薬である場合が多いので,変色は溶液の水素イオン濃度の影響を受ける。

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改訂新版 世界大百科事典 「金属指示薬」の意味・わかりやすい解説

金属指示薬 (きんぞくしじやく)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の金属指示薬の言及

【指示薬】より

…酸化還元反応においては,それ自身が電子の授受によって変色する酸化還元指示薬を,沈殿滴定においては沈殿に吸着して変化する吸着指示薬adsorption indicatorを用いる。キレート滴定では,金属イオンと結合することにより変色する金属指示薬metal indicatorが用いられる。これは通常それ自身酸塩基指示薬であることが多い。…

※「金属指示薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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