日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイキン鉱」の意味・わかりやすい解説
アイキン鉱
あいきんこう
aikinite
銅(Cu)、鉛(Pb)および蒼鉛(そうえん)(ビスマス。Bi)を主成分とする硫塩鉱物。単位格子は輝蒼鉛鉱のそれに近く、原子配列上も共通点があり、輝蒼鉛鉱の化学式を□Bi2S3とすることによって本鉱の式CuPbBiS3と対比される。輝蒼鉛鉱ではBiとSがつくる柱状の結合単位の間にS原子で囲まれた空間があり、Bi3+がこれより電荷の小さいPb2+で置換されると、この位置に電荷の小さいCu1+あるいはAg1+などが入る現象が生ずる。この存在を理解するためBi2S3の式を□Bi2S3と書くことがある。なお、この式にさらにBi2S3を加えて得られるCuPbBi3S6にはクルプカ鉱krupkaiteが、CuPbBi5S9にはグラド鉱gladiteがそれぞれ対応し、これらはほぼ同じ大きさの単位亜格子を共有する系列を構成する。このような系列に対しaccretional homologous series(加増型共則体系列とでも訳すべきか)という名称が与えられている。実際の化学組成変化ではCuPbBiS3からCu0.8Pb0.8□0.2Bi1.2S3程度まで置換の進行したものが知られている。自形は柱状ないし針状。伸びの方向に沿って条線が発達する。錆(さ)びるとやや赤色を帯びた表面をもつが、同じ系列のものとの間では区別できない。
深熱水性鉱床から産する。日本では、山口県佐々並(ささなみ)鉱山(閉山)の深熱水性銅・タングステン鉱脈型鉱床から産する。共存鉱物として、黄銅鉱、自然蒼鉛、硫砒(りゅうひ)鉄鉱、自然金、黄鉄鉱、方鉛鉱、灰重石、石英などが知られている。同定は類似鉱物が多いため、観察だけでは識別できない。1843年ロシア、ウラル地方ベレソフスクBeresovskの深成熱水性鉱脈型金銀銅鉛鉱床から発見され、イギリス地質学会の創設者アーサー・アイキンArthur Aikin(1773―1854)にちなんで命名された。
[加藤 昭 2016年2月17日]