翻訳|id
精神分析の用語で,超自我,自我とともに人格を構成する三つの領域の一つとされ,ドイツ語でエスEsともいう。イドは性衝動(リビドー)と攻撃衝動の貯水池で,完全に無意識であり,遺伝的要素を主としているが,いったん意識化され,のちに抑圧されて再び無意識となった後天的要素も含む。善悪や損得の認識を欠き,時間や空間のカテゴリーもなく,矛盾を知らず,ひたすら満足を求める盲目的衝動から成っている。したがって,イドはいっさいの構造を欠いた混沌の世界と言えるが,それは自我の観点から見てのことで,イドにはイドなりの構造があり,一次過程,快楽原則に支配されている。イドは自我と接しているが,外界とは切り離されており,自我を介さなければ外界への通路が得られない。イドとは要するに,人間以外の動物においては外界への適応を保証している本能が人間においては壊れたために外界と切り離され,現実原則を知らない盲目的衝動に変質したものである。
執筆者:岸田 秀
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…コギト【滝浦 静雄】
[精神分析における自我概念]
常識的にいえば自我とは自分の存在そのもののことであるが,自我が個人の人格の一部に過ぎず,はじめから存在しているわけでもなく,いったん形成されたあとも分裂,拡散,崩壊する不安定なものであることを説くのが精神分析である。人間は生まれたときはイド(エス)だけであるが,イドの一部が外界と接し,自我となる。外界とはまず一般に母親であるが,自分について母親がもつイメージ,母親に規定された自分が自我の最初の核となる。…
…覚醒生活において無意識が露呈しないことはむしろ健康の印だが,精神分裂病においては,自我が著しく脆弱(ぜいじやく)化して抑圧がゆるむためにこの無意識が露出してくる。 フロイトは後年,意識の三層説をさらに発展させ,〈エス(イド)〉〈自我〉〈超自我〉という局所論的・構造論的な心的装置論を提出した。エスは生まれたばかりの新生児の未組織の心の状態であり,時空間を知らぬ本能のるつぼであり,快楽原則によって支配されている。…
… 1904‐20年にかけては13の精神分析技法論を発表し,精神分析療法の基本理念を確立する。エス(イド),自我,超自我という三分割の心的装置論は,《集団心理学と自我の分析》(1921),《自我とエス》(1923)において展開され,自我の分析に比重が移っていく。《悲哀とメランコリー》(1917)と《制止・症状・不安》(1926)とは後期の臨床論文として重要である。…
※「イド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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