ウルツ鉱(読み)うるつこう(その他表記)wurtzite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウルツ鉱」の意味・わかりやすい解説

ウルツ鉱
うるつこう
wurtzite

閃(せん)亜鉛鉱と同質異像関係にある硫化亜鉛鉱物。ウルツ鉱とよばれる相のなかでも、その原子配列を層状の単位に分割してみると、その積み重なり方の差による違いが存在する。このような操作で導かれる関係にある同一化学組成の相を多型polytypeという。ウルツ鉱には少なくとも10種の多型が知られている。ウルツ鉱は閃亜鉛鉱よりはまれであるが、低温~中温の熱水鉱床堆積(たいせき)岩中、鉱床酸化帯中などに産する。深海底ではスモーカー熱水からの沈殿物が堆積した煙突状の構造物)の活動に伴って生成された硫化物を主とする堆積物中で比較的普通に産出する。亜鉛蒸気硫黄(いおう)蒸気とを混合させて合成すると、亜鉛が過剰になった場合にはウルツ鉱相当相が生成されやすいという。

加藤 昭]


ウルツ鉱(データノート)
うるつこうでーたのーと

ウルツ鉱
 英名    wurtzite
 化学式   β-ZnS
 少量成分  Mn,Fe,Cd
 結晶系   六方
 硬度    3.5~4
 比重    4.10
 色     褐
 光沢    樹脂
 条痕    褐
 劈開    三方向に明瞭
       (「劈開」の項目参照

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ウルツ鉱」の意味・わかりやすい解説

ウルツ鉱 (ウルツこう)
wurtzite

亜鉛の硫化鉱物(理想化学組成ZnS)。亜鉛の原料として重要なセン亜鉛鉱(等軸晶系)とは組成は同様であるが,結晶構造が異なる。六方晶系,モース硬度3.5~4,比重4.1。六方最密充てん構造に配列したZnとSとが,一つおきに重なった結晶構造をもっている。純粋なZnSは1020℃以上ではウルツ鉱,以下ではセン亜鉛鉱が安定であるが,Znの一部がFeなどで置換されると,ウルツ鉱はより低温まで安定である。また酸性の鉱液からはウルツ鉱が沈殿しやすいといわれている。ウルツ鉱は放射状集合,放射状の結晶よりなる層の皮殻状の重なりとして産するが,しばしばこの形を保ったまま,その全部または一部がセン亜鉛鉱に変わっている(細倉鉱山の例など)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

化学辞典 第2版 「ウルツ鉱」の解説

ウルツ鉱
ウルツコウ
wurtzite

ZnS.繊維亜鉛鉱ともいう.せん亜鉛鉱と同質異像.高温型のため天然には少なく,仮像として多く産出する.せん亜鉛鉱を熱すると1020 ± 5 ℃ でウルツ鉱に転移する.六方晶系.空間群 C6mc,格子定数 a0 = 0.3811,c0 = 0.6234 nm.密度3.98 g cm-3.硬度3.5~4.六角すいまたは板状.へき開{110}.色は透明~帯褐黒色で,不純物により着色する.Znの一部はFe(8%),Cd(3.66%)によって置換.塩酸に溶けて硫化水素を発生する.一軸性正,ω = 2.356,ε = 2.378.[別用語参照]ウルツ鉱型構造

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のウルツ鉱の言及

【亜鉛鉱物】より

…接触交代鉱床の神岡,中竜など,鉱脈鉱床の豊羽,細倉など,黒鉱鉱床の小坂,花岡などの鉱山が著名。ウルツ鉱ZnSは同質異像。亜鉛鉱床の酸化帯にはセン亜鉛鉱のほかに,リョウ亜鉛鉱smithsonite ZnCO3(とくに方解石を伴う鉱床に多い),異極鉱Zn4(Si2O7)(OH)2・H2Oなどを産し,鉱石として利用されることもある。…

※「ウルツ鉱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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