木材パルプ(亜硫酸パルプ)を原料としてつくられる再生セルロース。再生繊維としては世界で最も大量につくられている。原料として木材パルプを使うため,最も安価な人造絹糸である。
(1)木材パルプの製造 トウヒなど針葉樹の木材チップは,還元剤の亜硫酸水素カルシウムで処理し,次に蒸気で加熱して外皮などを取り除きパルプ化する。さらに次亜塩素酸塩で漂白し,板紙の形にする。(2)アルカリセルロースの生成 90~94%のセルロースを含むシート状パルプは,17.5%の苛性ソーダ水溶液に浸漬され(マーセル化),膨潤状態のアルカリセルロースが得られる。(3)シートの切断。(4)老化 高分子であるアルカリセルロースの分子量を調節するため,室温で3.5日またはより高温で1日ないし1.5日空気中の酸素と接触させる。このプロセスで重合度は約800から350へ低下する。(5)ザンテーション 小片状のアルカリセルロースを二硫化炭素と反応させてキサントゲン酸ナトリウムに変化させる。(6)溶解 キサントゲン酸ナトリウムを希苛性ソーダとかくはん(攪拌)すると,透明で褐色,粘稠な液体すなわちビスコースが得られる。(7)熟成 ビスコース溶液は10~18℃で4~5日貯蔵される。熟成の間に粘度がいったん落ち,その後上昇し紡糸に適するようになる。短い熟成時間では紡糸がうまくできない。(8)紡糸 図に示すようにビスコースはポンプで押し出され,ろ過後,紡糸口金から凝固浴中へ押し出されて紡糸される。酸性の凝固浴は硫酸10部,硫酸ナトリウム18部,および水72部からなる。これに少量の硫酸亜鉛や硫酸マグネシウムが加えられる。浴温は40~55℃である。紡糸口金には口径0.06~0.1mmの孔が40~50孔,多いもので150孔くらいあり,押し出された一束の単繊維が集められて1本のレーヨン糸を形成する。たとえば4デニールの糸が30本集められて120デニールの1本の人絹糸となる。レーヨンは高速回転しているトファムボックスに撚り(より)のかかった状態で巻き取られる。糸は凝固浴表面からトファムボックスに至るまで延伸されており,これが高分子鎖の配向をもたらし,強度を上げる。ネルソン法およびインダストリアルレーヨン社法は,レーヨン糸をケーキに巻き取るだけで,脱硫,漂白などの後処理を省略した連続レーヨン製造法である。これらのプロセスでは,凝固浴から出たレーヨン糸は二つのローラーを100回以上通過する。初めの50回で酸による凝固過程が完結し,次の30回で洗浄が行われ,次の30回で乾燥され,ボビンに巻き取られる。
引張強さは乾燥時2.6gf/デニールと十分に大きい。湿潤時のそれは1.4gf/デニールと改良されている。乾燥時の伸度は約15%,湿潤時は約25%である。吸湿性は標準状態で12~13%と高いので,電気絶縁性は劣るが,衣料用には適する。酸や虫,カビに侵される。レーヨンの染色性は綿より優れており,直接染料,塩基性染料,建染染料などでよく染まる。比重は1.53とやや大きい。
ドレス,下着,レース,縁どり,椅子カバー,テーブルクロス,ガウン,ベッドカバー,キルトカバーなど多岐の衣料用分野に使用される。海水につかるロープや網には不適である。カーペットやブレンドして毛布に使われる。またセロハンはビスコース溶液をスリットから凝固浴中に押し出してつくられるフィルムである。
→セルロース
執筆者:瓜生 敏之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
代表的な再生繊維で、人絹ともいう。セルロース(Cell‐OHで示す)原料としてパルプを用い、水酸化ナトリウム(カ性ソーダ)を作用させてアルカリセルロースとし、これに二硫化炭素CS2を加えてセルロースキサントゲン酸ナトリウムにする(
の(1))。しばらく放置して、セルロースの分子量を低下させて調製する。この希アルカリ溶液をビスコースという。ビスコースを紡糸ノズルから紡糸浴(希硫酸水溶液)中に射出させ、 の(2)の反応でセルロースに再生した繊維をビスコースレーヨンという。このレーヨンの繊維を短く切断したものをステープルファイバー、略してスフという。[垣内 弘]
セルロースを化学的に処理して,分散,溶解したビスコースを紡糸してつくった再生セルロース繊維.C.F. Cross,E.J. Bevanにより,1892年に見いだされた方法.溶解用パルプを18~19% の水酸化ナトリウム水溶液に18~25 ℃ で約1~2 h 浸し,圧縮倍率2.6~2.8倍にしぼったアルカリセルロースを,反応表面積を増加させるため,粉砕する.ついで空気中の酸素の作用でアルカリセルロース分子を切断し,重合度を低下調整する老成を行う.ついでこれを30~35% の二硫化炭素と反応させ,セルロースキサントゲン酸ナトリウムにして,希アルカリ溶液を加え,溶解し,ビスコースをつくる.さらに紡糸に適したビスコースにするため,熟成(12~20 ℃)し,混合,濾過,脱泡し,紡糸口金より,硫酸8~12%,硫酸ナトリウム13~28%,硫酸亜鉛0~2%(ミュラー浴)よりなる凝固浴中に紡出させる.セルロースが緊張をうけながら再生する.ついで脱硫,漂白などを経て乾燥し,フィラメントにする.レーヨンステープルは紡糸口金から出たフィラメントを多数集束し,必要な長さに切断する.ビスコースレーヨンは水和セルロース(セルロースⅡ)からなる.比較的安価で吸湿性,染色性がよいため,他繊維と混用されることも多い.製造方式を若干変え,ポリノジック,高強力のタイヤコード用強力レーヨン,強力レーヨンステープル,H.W.M.(High Wet Modulus)レーヨン,他の高分子材料を共重合したグラフト共重合レーヨン,混合紡糸レーヨンなどその利用は多岐にわたっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…85年にC.H.B.deシャルドンネはニトロセルロースを紡糸後に脱ニトロ化してシャルドンネの絹と呼ばれる最初の実用になるレーヨンを作り,一時期広く使用された。ビスコースレーヨンは91年にイギリスの化学者C.F.クロスとベバンE.J.Bevanによって発明された。1900年にはビスコースレーヨンの世界生産高は1000tであったものが,67年には270万tに達した。…
…ビスコース人絹,銅アンモニア人絹および酢酸繊維素人絹(アセテート)が作られている。絹糸に似た繊維を作るのは化学者の夢であって,1882年に硝化法人絹が発明され,92年にビスコース人絹(ビスコースレーヨン)が作られ1904年に工業生産に移され,今日でも世界各国で大量に作られている。銅アンモニア人絹cuprammonium rayonはキュプラcupraまたはベンベルグ(商品名)と呼ばれ,製法の発明はビスコース法より早く1890年であり,97年に初めて工業化された。…
…和紙の原料としてコウゾ,ミツマタ,ガンピなどの靱皮(じんぴ)繊維パルプも作っているが,量はきわめて少ない。用途による分類では二つに分けられ,紙やノンウーブンのように繊維形態をとったまま利用して使う製紙パルプpaper pulpと,ビスコースレーヨン,セロハン,酢酸セルロースのように再生セルロースやセルロース誘導体を作るために使用する,セルロースの純度の高い溶解パルプdissolving pulpの二つに分けられる。溶解パルプはおもに木材や綿リンターから作られるが,竹やバガスからも作ることができる。…
※「ビスコースレーヨン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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