改訂新版 世界大百科事典 「キルヒホフの法則」の意味・わかりやすい解説
キルヒホフの法則 (キルヒホフのほうそく)
Kirchhoff's law
G.R.キルヒホフによって発見された法則。次の4法則がよく知られる。
(1)任意の直流回路の電流を計算するための一般的処法。二つの法則の形に述べられている。(a)第1法則 回路の中の任意の節点について,そこに流れ込む電流の和は,そこから流れ出す電流の和に等しいというもので,これは電流の保存則にほかならない。(b)第2法則 回路の中の任意のループを一周するとき,抵抗による電圧降下の和は,ループ中の電池の起電力の代数和に等しいというもの。ループ中の抵抗をR1,R2,……,それを流れる電流をI1,I2,……とすれば,抵抗による電位の降下はオームの法則によりΣRiIiであり,これがループ中の電池の起電力V1,V2,……により回復されるので,第2法則はΣIiRi=ΣViと表される。これにより回路の各部分の電流についての連立一次方程式が得られるので,これを解いて電流が求められる。
執筆者:加藤 正昭(2)気体はそれが含む原子・分子に特有の線ないし帯スペクトルの光を発し,またそれと同じ波長の光に限って吸収することができるという法則。1859年に発表。分光学の基礎をなすこの法則は,原子・分子のエネルギー準位と量子力学的遷移の可逆性からの帰結である。
(3)熱平衡状態では,物体Kの面素片dSについて,振動数νの光の放射能(エネルギー放射速度)jνと吸収能aνの比は,Kの物質の種類によらず絶対温度Tとνのみできまるという法則。1859年発表,60年に厳密な証明を行った。ただし,dSから時間dtの間に振動数範囲dνの光として立体角dΩの中に放射されるエネルギーをjνdνdΩdSdtとし,dSに当たる光のエネルギーのうち(いったんKの内部に潜りこみ内部エネルギーに転換されるという過程を経ないで),直ちにdΩの中に送り返される割合を(1-aν)としている。aνには透過の分なども含まれるので,〈吸収能〉の名は便宜上のものにすぎない。この法則は熱放射研究の基盤の役をした。比jν/aνは物質の種類によらないから黒体のそれに等しいが,黒体のaνは1なので,黒体放射の単位振動数,単位立体角あたりのエネルギー放射速度,に等しい(hはプランク定数,cは真空中の光速度,kはボルツマン定数)。
執筆者:江沢 洋(4)反応熱の温度変化に関する熱化学的法則の一つ。ある温度での反応熱⊿Hが知られているときに,別の温度での値を求めるのに用いられる。ある化学方程式で与えられる反応に伴う反応熱は,多くの場合25℃(298.15K)での値として表に与えられている。その温度変化は熱力学的関係によって,
(∂⊿Η/∂Τ)p=Σ生Cp-Σ原Cp=⊿Cp
と与えられる。すなわち,生成系の熱容量の和Σ生Cpと原系の熱容量の和Σ原Cpとの差⊿Cpに等しい。この関係を使うと温度Tでの反応熱⊿H(T)は温度T0での既知の値⊿H(T0)より,と求められる。この法則は状態変化に伴う熱量変化にも適用することができる。例えば,水の蒸発熱の温度変化は蒸発後(生成系)の水蒸気の熱容量より,蒸発前(原系)の水の熱容量を差し引いたものに等しい。
執筆者:菅 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報