改訂新版 世界大百科事典 「タナラ族」の意味・わかりやすい解説
タナラ族 (タナラぞく)
Tanala
アフリカ南東部,マダガスカル民主共和国の東部,海岸沿いの熱帯降雨林に居住する住民の総称で,タナラとは〈森の民〉を意味する。ベツィミサラカ族Betsimisaraka(人口80万),アンタイサカ族Antaisaka(35万),ザフィマニリ族Zafimaniry(2万)などが代表的な部族である。これらの部族が居住する東海岸は,高い台地が急激に海へ落ち込む急傾斜の斜面で,平地がほとんどみられない。年間を通じほとんど降雨が続き,8月から9月の1ヵ月間だけ中断する。生業は焼畑農業で,熱帯降雨林を伐採し倒木を乾燥させてから火を放って開墾し,キャッサバ,バナナ,トウモロコシ,タロイモ,イネなどの作物を収穫する。換金作物として,コーヒーや香料のバニラなども栽培する。森林からははちみつを採取し甘味料とするほか,はちみつ酒をつくる。
王国を形成した高原地帯のメリナ族とは異なり,森林地帯の諸部族の社会組織は分散・孤立的で,村落が最大の単位となり,それ以上に部族を統一する政治組織はない。村落においては長老が権威をもち,紛争が起きた場合に調停を行う。社会生活のうえで重要なのは男子の入社式である。男子は2~3歳で割礼を受け,男性の社会へ加入が許される。割礼の儀式には,村々から人々が集まり,一種の闘牛が行われる。村は山の上に位置し,住居は1部屋だけの小さなもので,丸太と竹で建てられるが,丸太は縦に組まれ,屋根は竹でふかれる。この住居は屋内のほとんどが,精巧な彫刻で覆われる。彫刻は,円や弧で太陽や星を象徴的にかたどったものである。屋根の上には鳥の彫刻が置かれ,平安と調和のシンボルとなっている。森林の中で生活を送るため,樹木についての知識が豊富で,樹皮からとった繊維を織って布をつくり,木の葉で染めて伝統的な衣服をつくった。木工技術も巧みで,最近は観光客向けの小箱や彫像をつくり,首都のアンタナナリボでも販売している。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報