ネルンスト(読み)ねるんすと(英語表記)Walther Hermann Nernst

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト
ねるんすと
Walther Hermann Nernst
(1864―1941)

ドイツの物理化学者。熱力学第三法則の発見者。6月25日西プロイセンの小村ブリーゼン(現、ポーランドのボンブジェズノ)に生まれる。父はこの地方の判事であった。チューリヒベルリンの大学で学んだのち、グラーツ大学でボルツマンの指導を受け、金属中の電流に及ぼす熱流と磁場の合成効果(ネルンスト効果)を研究した。1888年ライプツィヒ大学のオストワルト助手となり、1889年電極物質の電離溶圧の概念を導入して電極電位に関する「ネルンストの式」を導出、物理化学者として認められる。当時ドイツは、1871年のドイツ帝国の統一、1890年ビスマルク退陣後、軍備拡張が急速に進められるなかで、ドイツ合成化学工業が成立、発展を遂げる時期にあり、また第一次世界大戦を挟んで、ドイツ科学がプランクアインシュタインをはじめ十指に余るノーベル賞学者を擁してその頂点を極めた時代(それはナチス台頭とともに衰退する)であった。そのなかにあって物理化学もまた急速な発展を遂げるが、その指導者の一人がネルンストであった。1891年ゲッティンゲン大学に転任、1894年同教授となる。

 1905年ベルリン大学教授となり、翌1906年、彼の最大の業績である絶対零度のエントロピーに関する「ネルンストの熱定理」=熱力学第三法則を発見した。ネルンストの研究所ではこの定理を熱力学の一般法則として確立するための実験的研究が続けられ、それは低温における熱測定という新しい分野を開き、量子論形成に実験の面から重要な寄与をすることになる。またネルンストは気体に対しても彼の定理が成立すると考え「気体の縮退」を予言、その解決はのちに量子統計力学によって与えられた。1918年には水素‐塩素の光化学反応に初めて連鎖反応の考えを導入しその機構を明らかにした。「ネルンスト電球」の発明(1897)もある。熱化学の研究により1920年ノーベル化学賞受賞。1941年11月18日ベルリン近郊でその生涯を閉じた。

[常盤野和男]

『K・メンデルスゾーン著、藤井かよ・藤井昭彦訳『ネルンストの世界――ドイツ科学の興亡』(1976・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネルンスト」の意味・わかりやすい解説

ネルンスト
Nernst, Walther Hermann

[生]1864.6.25. ブリーゼン
[没]1941.11.18. ムスカウ
ドイツの物理化学者。チューリヒ,グラーツ,ウュルツブルク各大学に学び,ライプチヒ大学で F.W.オストワルトの助手をつとめたのち,ゲッティンゲン大学教授 (1895) を経てベルリン大学教授 (1905) ,同大学実験物理学研究所所長 (24) 。 1893年の電極電位差を熱力学的に求めるネルンストの式の導出,1906年の熱力学第三法則の定式化 (ネルンストの熱定理) などのほか,化学平衡の熱力学理論,高温気体低温固体の研究,光化学に関する研究が知られており,物理化学理論の発展に大きく貢献。ネルンスト・ランプの発明者としても知られる。晩年は天体物理学にも関心をもった。熱化学の業績によって,20年ノーベル化学賞受賞。

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