翻訳|Ur
古代メソポタミア南部の都市。現在のイラク南部、バグダード南東約350キロメートルにある遺跡で、テル・ムカイヤル(瀝青(れきせい)の丘)とよばれている。『旧約聖書』には「カルデアのウル」と記され、アブラハムの故郷とある。ウルクと同様、長い歴史をもったシュメールの都市で、1854年大英博物館の委嘱でこの丘を調査したイギリス領事のテーラーJohn George Taylorは、碑文により『旧約聖書』のカルデアのウルであることを確認した。その後1918年にトムソンReginald Campbell Thompson(1876―1941)が、1918~1919年にホールHenry Reginald Holland Hall(1873―1930)がそれぞれ発掘を試みたが、いずれも試掘程度にすぎず、本格的な発掘は1922~1934年、ウーリー卿(きょう)が大英博物館およびペンシルベニア大学博物館の合同探検隊を指揮して行われた。1923~1924年には、ウルの北西約6.4キロメートルの地点にあるアル・ウバイド(エル・オベイド)の丘でホールの残した発掘を再開し、彩色土器を特徴とするいわゆるウバイド文化を明らかにした。ここで発見されたニンフルサッグ神殿の礎石には「ウルの王メス・アンネパッダの息子にしてウルの王アアンネパッダ」の名が刻まれていた。後代の王朝表で、メス・アンネパッダ(天神アンの選んだ英雄)は、ウル第1王朝(前2500ころ~前2400ころ)の最初の王としてすでに知られていた王であり、神話的とみなされてきた王朝と王の歴史的存在が実証された。その結果、年代の決定とメソポタミア美術史における出土遺物の位置づけが得られることになった。
[吉川 守]
1927~1929年にはウルで「王墓」が発見され、その豪華な出土品と多数の人間、ウシの殉葬(じゅんそう)によって世界の注目を集めた。殉葬を伴った王墓は円筒印章によりアバルギ王のものと推定された。メスカラムドゥッグや、王妃シュブ・アドなどの墓から出土した遺物には有名な「ウルのスタンダード」、黄金の兜(かぶと)、黄金の鉢、大杯、銀製の舟模型、象眼(ぞうがん)された遊戯盤と駒(こま)、貝細工の飾板をもつ竪琴(たてごと)、金、ラピスラズリ、銀、貝殻、赤い石などの多色配合でつくられた灌木(かんぼく)に後ろ足で立つ牡羊(おひつじ)像、牡牛頭部その他多数があり、いずれも高度な技術の発達を示す精巧なもので美術的な逸品である。建築様式は最古のドーム、アーチが採用され、シュメール文化の特徴となるプラノ・コンベックスれんがplano-convex brick(上面が盛り上がった曲面をなすれんが)が初めて使用されている。アバルギ王墓にみられた殉葬については、このような習慣がシュメールの他の遺跡や文献で知られていないため、その解釈は未解決のまま残されている。
[吉川 守]
ウル第1王朝は、5王、170年で滅亡する。ウルはその後サルゴン朝、グティウム朝の支配を受けるが、ウルナンム王がふたたびバビロニアを統一し、ウル第3王朝(前2060ころ~前1950ころ)を樹立した。ウルナンムは世界最古のシュメール法典の制定者として有名であるが、属州制による統治方式を採用し、属州内の主要都市には王の代理(シャグッブšagub)を置き、官僚組織による集権的専制王国を建設した。第3王朝は5王(ウルナンム、シュルギ、アマル・シン、シュ・シン、イビ・シン)によって統治されるが、その末期にはエラム人の反乱と侵攻を受け、またセム系遊牧民族アムル人の侵略を受けて滅亡する。バビロン第1王朝の7代の王サムス・イルナはその治世11年にウルとウルクの城壁を破壊し、荒れるにまかせた。新バビロニア時代になるとウルはふたたび復活し、ネブカドネザル2世はウルの神殿、ジッグラトを再建した。その後ウルの名はほとんど記録には現れず、紀元前4世紀ごろにはれんがの散乱する廃墟(はいきょ)と化したと推定される。
[吉川 守]
ウルの遺跡は、2016年、「南イラクのアフワール:生物の避難所と古代メソポタミア都市景観の残影」の一つとして、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産の複合遺産(世界複合遺産)に登録された。
[編集部 2018年5月21日]
『ウーリー著、瀬田貞二・大塚雄三訳『ウル』(1958・みすず書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
メソポタミア最南部,シュメールの地に存在した古代都市。現在名テル・アルムカイヤルTell al-Muqayyar。旧約聖書には〈カルデア人のウル〉と記され,またアブラハムの家郷であった。遺跡は19世紀中葉に発見,1922年より34年まで大英博物館,ペンシルベニア大学博物館によって発掘(指揮C.L.ウーリー)され,同時に発掘された近隣のアルウバイドとともに先史時代ウバイド期に関する重要な材料を提供した。シュメールの歴史時代については,前3千年紀前半の初期王朝I期の古拙文書が出土している。1927年からは多数の殉死者,豪華な副葬品を伴うウル〈王墓〉群が発掘された。初期王朝III期におけるウルの急激な発展を示すが,〈王墓〉内の人物が実際の王・王妃であったかどうかについて長く論争が続いた。いっぽうウル第1王朝の王メスアネパダらの碑文も出土し,当時ウルがシュメールの覇権を争う都市であったとする〈シュメール王朝表〉の記述も裏付けられた。アッカド時代にはいると,諸王の娘がウルの主神ナンナの女祭司に任じられる習慣が定着。前22世紀末にはウルナンムがウルを首都とする統一王朝を創建(ウル第3王朝)。この時代のウルからは多くの行政・経済文書が出土,また諸公共建造物が発掘されている。なかでもウルナンムのジッグラトは著名。また羊毛加工業も繁栄した。
王朝崩壊時の破壊ののち,前2千年紀初頭のイシン・ラルサ期にウルは再び繁栄した。この時代の私的居住地区はメソポタミア都市生活を知るうえで重要であり,またこの時代に書かれたシュメール語文学テキストが多く出土している。バビロン第1王朝のサムスイルナによって徹底的に破壊され,以後カッシート時代に一時復興するも,ウルはメソポタミア政治史にもはや重要な役割を果たさない。前1千年紀新バビロニア時代のネブカドネザル,ナボニドスはウル復興計画を実施した。ウルでは前4世紀まで都市生活が維持された。
→ウル第3王朝
執筆者:前川 和也
南アメリカ西部,チチカカ湖およびその周辺の中央アンデス高地に住む少数民族。ウロ,ウノ,オチョマとも呼ばれる。言語的には,中央アンデス高地の大民族であるケチュア族やアイマラ族とは関係のないウル・チパヤ語系と考えられている。しかし,現在はウル語を話す者はほとんどなく,近接して住むアイマラ族の影響でアイマラ語を話すのがふつうである。また,アイマラ族との結婚などにより,その社会や文化もアイマラ化が進んでいる。ただし,チチカカ湖畔で浮島をつくって湖上生活をしている数百人のグループは,今なお伝統的な生業形態を残している。彼らは,チチカカ湖畔の浅瀬に自生しているトトラと呼ぶカヤツリグサ科の植物で,浮島,家,舟,籠などさまざまなものをつくり,この舟で魚や水鳥,その卵などをとって狩猟漁労を中心とした生活をおくっている。これらをアイマラ族の市などで売って農産物を手に入れている。
執筆者:山本 紀夫
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南部メソポタミアの古代都市。イギリス人ウーリーの発掘で,その全貌が明らかにされた。ウル第1王朝(前26世紀)はウルクに代わってシュメールの覇権を握り,「王墓」にみられる高度な物質文化を発展させた。シュメール人最後の王朝であるウル第3王朝(前21世紀)は,地中海沿岸からイラン高原にまで支配を及ぼす一方で,最古の法典(ウル・ナンム法典)を集成した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
…男神の中ではオーディンとトールがとくに活躍するが,そのほかにバルドル,ニョルズNjörðr(風,海,火,豊饒の神),フレイFreyr(豊饒と平和の神),チュールTýr(戦士の神),ブラギBragi(雄弁と詩の神),ヘイムダル,ホズ(盲目の神。ヤドリギでバルドルを射る),バーリ(ホズを討つ),ビーザル(怪狼を倒しオーディンの仇を討つ),ウルUllr(名射手),フォルセティ(和解の神),ロキ。これらのうちニョルズとフレイ,それに後でふれる女神フレイヤはもとはバン神族に属していたのだが,アース神の仲間にかぞえられる。…
…本項では歴史の流れを考慮し,アッカド美術をも記述に含める。 シュメール美術の作品例は,ウルク期(前3800ころ‐前3000ころ)のころからのものが知られている。この時期にメソポタミア南部の都市ウルクでは,聖域エアンナEannaに神殿複合体が造営された。…
…有力な都市ではそこにジッグラトが建てられた。ジッグラトは日乾煉瓦造のテラスを積み重ねた階段状の構築物で,完成された形式をもつ現存最古の実例はウルにあり,底面約62m×43m,高さ約20mの3層の塔であった。〈バベルの塔〉の伝説の原型になったと考えられるバビロンのジッグラトは,底面約90m×90m,高さ約90mの7層の塔であったと伝えられ,いずれもその頂上には一部屋の神室が建っていたと考えられる。…
※「ウル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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