パラントロプスボイセイ(英語表記)Paranthropus boisei

改訂新版 世界大百科事典 「パラントロプスボイセイ」の意味・わかりやすい解説

パラントロプス・ボイセイ
Paranthropus boisei

前期更新世の頑丈型猿人の一種。アウストラロピテクス・ボイセイあるいはボイセイ猿人ともいう。タンザニアオルドバイ渓谷エチオピアのコンソ地域,ケニアのトゥルカナ湖沿岸などで発見されている。模式標本は,1959年にリーキーM.D.Leakey(妻)とリーキーL.S.B.Leakey(夫)がオルドバイで発見した頭骨(OH 5)。パラは準あるいは副,アントロプスはヒトの意味。ボイセイは,リーキー一家の調査を助成していたボイズC.Boiseにちなんでいる。発見当初は,ジンジャントロプス・ボイセイZinjanthropus boiseiと呼ばれていた(ジンジは東アフリカの地域を意味する)。巨大な顎のため,クルミワリ(むしろ万力というべきか)との愛称もある。年代は230万~130万年前と推定されている。頭蓋腔容積(脳容積より約10%大きい)は500~550mlであり,華奢型猿人よりは少し大きい。

 ボイセイ猿人は,頑丈型猿人の共通特徴である臼歯と顔面の巨大化が極限まで発達した例と考えられる。顔面全体は,著しく幅広く,上顎骨と下顎骨が上下に長く,そのわりに奥行きが少ない。切歯犬歯は非常に小さいにもかかわらず,小臼歯大臼歯が巨大であり,エナメル質が厚かった。側頭筋が非常に発達していたことは,筋肉付着部が上後方に拡大し,脳頭蓋全体を覆い,さらに頭頂部の正中に,ゴリラで見られるような,筋肉が付着する垂直の壁(矢状稜)が形成されていることでわかる。眼窩の後方の側頭部が著しく凹んでいるのも側頭筋が大きかったためである。咬筋もゴリラをしのぐほど発達していたことは,筋肉付着部である頬骨が外側前方に広がり,下顎骨後部(下顎枝)が上下に長いことでわかる。つまり,咬筋が太く長かった。頬骨が前方に位置しているわりに鼻部が引っ込んでいるので,顔面全体が平らになっただけでなく,中央部が凹んで皿状になっている。その結果,眼窩は平らな板に丸い孔を開けたように見える。このような形態は,繊維が多く非常に硬い食物を噛み砕くために咀嚼筋が発達し,それに見合う顔面構造が発達したと解釈されている。おそらく,乾燥した草原で,根茎類や種子を食べていたのであろう。その結果,小臼歯と大臼歯が巨大化したと考えられる。切歯と犬歯が小さいということは,食物が小さいので咬み切る必要がなかったか,道具を使って小さくしていたことを意味するが,道具を使った直接の証拠はない。

 これらの形態は,頭骨OH 5やトゥルカナ湖沿岸で発見された大きな頭骨KNM-ER 406でよく理解されるが,同じような形態特徴をもつ頭骨KNM-ER 732は極めて小さいので,前二者が男性で,後者は女性と解釈されている。つまり性差が非常に大きかった。

 発見された四肢骨は,同地域に共存していたホモ属との区別が付かず,判断が難しいが,他の猿人と同様に直立二足歩行をしていたと考えられている。身長と体重は男性で150cm,50kgほど,女性で120cm,35kgほどと推定されている。
頑丈型猿人
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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