ヒクイナ (緋秧鶏)
ruddy crake
Porzana fusca
ツル目クイナ科の鳥。全長約23cm。後頭以下の背面はオリーブ色を帯びた褐色で,額,顔,くび側,下面の大部分は濃い赤紫色である。のどは白い。下腹部の側部には細かい白色の横斑がある。アジアの温帯から熱帯に広く分布し,北方で繁殖するものは冬に南へ渡る。日本には夏鳥として渡来し,全国各地の水田や湿地で繁殖するが,琉球では留鳥として生息している。群れにはならず単独かつがいで生活していて,雄はおもに早朝に,初めはゆっくりと,しだいに速く,〈キョッキョッキョッキョキョキョキョ……〉と独特の声で鳴く。〈戸をたたく水鶏(くいな)の声〉といわれて,古くから和歌などにとり入れられているのは本種であり,クイナではない。巣は水田や湿地の中の草むらとか稲株の根もとにつくるが,ときには水辺から離れたところに営巣することもある。卵は灰白色の地に褐色,灰青色などの細かい斑が全面に散在する。1腹5~9個を産む(7~8個が多い)。食物としては,水生昆虫などの動物質とイネ科や雑草の種子などの植物質の両方をとる。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヒクイナ
ひくいな / 緋秧鶏
ruddy crake
[学] Porzona fusca
鳥綱ツル目クイナ科の鳥。全長約23センチメートル。額および顔から下胸にかけてはくすんだ赤褐色で、頭上以下の背面とわきはオリーブ灰褐色である。腹はやや白い。雌雄は同色。嘴(くちばし)は黒褐色、足は赤い。インドから中国東部およびフィリピンにかけて分布する。日本には夏鳥として渡来し、全国の水田や湿地で繁殖する。つねに地上で生活し、湿地の草むらの間を歩いて雑草の種子や小形の昆虫類を食べている。飛ぶことはできるが、危急の場合以外は飛ばず、飛んでもすぐ地上に降りて草むらの間に隠れる。したがって、観察する機会は少ないが、珍しい鳥ではない。
巣は湿地の草むらの中につくり、6月ごろ1腹約8個の卵を産む。夕方や夜間キョッ、キョッ、キョッと早口で鳴く。本種のこの声が、古来「クイナが門をたたく」といわれるものである。
[森岡弘之]
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ヒクイナ
Porzana fusca; ruddy-breasted crake
ツル目クイナ科。全長 19~23cm。背面はほぼ一様な暗緑褐色で,額,顔,下面の大部分はぶどう赤色,下腹に白い横縞がある。喉は白い。嘴は黒く,脚は赤から赤褐色。雛は全身黒い羽毛で覆われている。南アジアから東アジア,東南アジアにかけての温帯から熱帯に広く分布し,北部で繁殖する鳥は熱帯の生息地に渡って越冬する。日本には夏鳥(→渡り鳥)として渡来し,各地の水田や湿地で繁殖する。特に西南日本に多い。草むらなどの中に巣をつくり,5~9卵を産む。雄は早朝と夕方に「きょ,きょ,きょ」としり上がりの調子でよく鳴き,このため,歌や俳句などに詠まれて親しまれている。
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ヒクイナ
クイナ科の鳥。翼長11cm。後頭,背面は暗オリーブ褐色,腹面は赤褐色。アジア東・南部に分布し,日本には夏鳥として渡来するが,南西諸島では留鳥。アシ原などにすみ,草の間に営巣,5〜9卵を産む。キョッキョッという鳴声は古来クイナが戸をたたくといわれる。準絶滅危惧(環境省第4次レッドリスト)。
→関連項目クイナ
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世界大百科事典(旧版)内のヒクイナの言及
【クイナ(秧鶏)】より
…全長約10~40cm。日本にはクイナ,オオクイナ,ヤンバルクイナ,ヒクイナ,ヒメクイナ,バン,オオバン,ツルクイナなど11種が分布する。飛翔(ひしよう)力は比較的弱いが,太平洋や大西洋の孤島にも分布し,多くの固有種に分化している。…
※「ヒクイナ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」