日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベスト」の意味・わかりやすい解説
ベスト(チョッキ)
べすと
vest
スーツの上着の下に着る、男子用あるいは女子用の袖(そで)なし胴衣(チョッキ)のこと。また、16世紀のダブレットから発展した胴着。1670年ごろ現れた新型上衣ジュストコルjustaucorpsの前身であるジャーキンの下にも着用された。形はジュストコルに似ているが、袖が細く裾(すそ)が短い。主として部屋着として用いられたが、外出の際には前のボタンをきちんとかけ、その上に前を大きく開いた上着を着用した。上着と調和するよう贅(ぜい)が凝らされ、前中央打合せ部分や低い位置にあるポケットや裾(すそ)を中心に花模様の刺しゅうを施すなど、はでで華美なものが多かった。袖のあるものが多かったが、袖のないものも出てきた。上着が18世紀なかばにアビ・ア・ラ・フランセーズにかわり、その前端が胴から裾にかけて斜めに裁ち落とされると、それに倣ってベストの丈も短くなり、ルイ16世のころ(18世紀後半)にイギリス型の袖なしのジレにとってかわられる。これらが土台になって、19世紀なかばに現代の三つ揃(ぞろ)いが確立した。その後、女性のスーツが出現し、女性もベストを着用するようになった。
19世紀なかば以降、イギリスではウエストコートwaistcoatといい、ベストというと男子用の肌着をさす。婦人用のコートやガウンなどのV字形の前飾りや、古代あるいは東洋のルースな外着やローブの類もベストという。日本ではチョッキ、ときにはジレと同義に用いられる場合もある。
[田村芳子]
ベスト(George Best)
べすと
George Best
(1946―2005)
北アイルランドのプロサッカー選手。5月22日、北アイルランドのベルファストに生まれる。北アイルランドはワールドカップには出場できなかったため、プレーヤーとしての実質的なキャリアは1963年にマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に入ってからの10年あまりだが、強烈な印象を残した。次々と相手をかわしていくドリブルがトレードマークであった。細身で長髪、ビートルズの台頭と同時期に絶頂期を迎えたため、「5人目のビートルズ」というニックネームがつき、最高の人気を得た。1968年ヨーロッパ・チャンピオンズ・カップ(現、UEFAチャンピオンズ・リーグ)で優勝し、同年のヨーロッパ最優秀選手賞(バロンドール)も受賞。得点感覚にも優れ、やはりこのシーズンのイングランドリーグ得点王になったが、その後しだいにピッチから遠ざかった。「引退」と「復帰」を繰り返したが、かつての輝きを取り戻すことはなかった。最後のチームはスコットランドのハイバーニアンという小さなクラブで、この時34歳であった。20歳代の前半で全盛期を過ぎてしまったベストにしては、意外なほど長いキャリアであった。
[西部謙司]
ベスト(Charles Herbert Best)
べすと
Charles Herbert Best
(1899―1978)
カナダの生理学者。インスリン発見者の一人。1921年春、生化学実習を終了したばかりの22歳の学生だったベストは、トロント大学生理学教授J・J・マクラウドから、バンティングの膵臓(すいぞう)の内分泌研究の助手に推薦された。二人の実験は精力的に進められ、わずか2か月でインスリンの抽出に成功した。1923年バンティングとマクラウドは、インスリンの発見でノーベル医学生理学賞を受け、バンティングは賞金をベストにも分けた。1925年ベストはトロント大学を卒業し、数年間ロンドンで研究したのち、新設のトロント大学生理衛生部の部長となり、1929年マクラウドの退職後、生理学教授の職を継いだ。1954年設立のベスト研究所の所長、イギリス王立協会会員、アメリカ糖尿病学会名誉会長を歴任した。
[古川 明]