化石霊長類の一つ。G.E.ルイスはインド北部のシワリク丘陵で,中新世後期の地層から右上顎骨片を発見し,ラマピテクスと命名した(1934)。この化石は犬歯が脱落して歯槽痕だけを残し,第1小臼歯から第2大臼歯までが残っている。ルイスは南アフリカで発見されたアウストラロピテクスとともに,人類にきわめて近い化石と考えたが,かえりみられなかった。1964年以来,E.L.サイモンズがこの化石を再認してから,再びラマピテクスがサルかヒトかをめぐって論争が活発になった。そしてケニア,トルコ,ギリシア,ハンガリー,パキスタン,インド北部,中国南部で,ラマピテクスのグループとみられる化石が追加された。しかし発見された化石はほとんど歯や顎骨片であるため,論争の決着はつきがたい。突顎性は弱まっており,顔高は増している。上・下顎は頑丈で,前歯部は小さく頰歯は大きく,エナメル質は厚い。これらの傾向は,シバピテクスやギガントピテクスやアウストラロピテクスと共通する。したがって食性も似ていて,固い植物を多く摂食したらしい。ヒトか否かを決定するためには,歯ばかりでなく,頭骨や運動様式を示す四肢骨の特徴なども重要だが,資料がないため,歯に偏重しがちで〈歯牙人類dental hominid〉ともいわれる。化石の分布からラマピテクスは東アフリカやユーラシア大陸に広がり,地域的変異もあったらしい。これらのなかから後の時代の人類に進化した,つまりラマピテクス・グループは形態的にも時代的にも人類の母体群だったと考える人もある。それに対して,ラマピテクスを人類祖先から除外しようとする人もある。というのはラマピテクスがヒト的にみえるのは,サバンナ性,種子食性だったための適応的平行現象にすぎないとも考えられるからである。また,シバピテクスとラマピテクスは同一種で,オス,メスの違いにすぎぬという人もある。
執筆者:江原 昭善
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化石類人猿。アメリカ、エール大学の大学院生ルイスが1932年、インドの北西部シワリクで右上顎(じょうがく)骨片を発見したが、多くの学者は注目しなかった。1961年、リーキーらがケニアのフォート・ターナンでケニアピテクスを発見するに及び、64年以降、アメリカの霊長類学者サイモンズはケニアピテクスもラマピテクスの一員であるとした。またトルコ、ギリシア、ハンガリー、パキスタン、中国南部から相次いで発見された化石破片もすべて同類のものと考えられた。いずれも歯または顎骨片にすぎないため、全貌(ぜんぼう)はつかみがたい。切歯や犬歯は小さいが、小・大臼歯(きゅうし)は大きく、歯冠は低い。歯の形態は人類としては原始的であるが、類人猿と比べるとかなり人類に近い。年代は第三紀中新世末から鮮新世前期で、600万年から1200万年前である。このような点からラマピテクス類は人類の直接の祖先と考えられたが、今日では性的二型とみなされ、オランウータンの祖先とみられるシバピテクスを雄(おす)、ラマピテクスはその雌(めす)と考えられるに至り、これを人類祖先とする見方は消え去った。
[香原志勢]
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…中新世から鮮新世にかけては高等霊長類の適応放散の時代で,コロンビアの中新世の地層からはホムンクルスHomunculusなど新世界ザルの化石資料が増え,ヨーロッパからアフリカにかけてはドリコピテクスDolichopithecus,メソピテクスMesopithecusなどのオナガザル科の化石が知られている。また,ヨーロッパではテナガザルの祖型と考えられているプリオピテクスPliopithecusが,イタリアからはオレオピテクスOreopithecusの完全な化石が発見されているし,プロコンスルProconsul,ドリオピテクスDryopithecus,ラマピテクスRamapithecus,ギガントピテクスGigantopithecusなどの現生類人猿やヒトに近縁な化石がアフロ・ユーラシア各地で発見されている。そして鮮新世後半のアウストラロピテクスAustralopithecus,さらに洪積世の原人ホモ・エレクトゥスHomo erectusへとつながっていくのである。…
…しかし,猿人段階以前のヒト上科の化石は,歯や顎の部分がほとんどで,体肢骨はきわめてまれであり,直立歩行への転換を化石から立証することは困難である。したがって,いかなる形態をもつ化石からヒト科に含めるかについてはいろいろ問題はあるが,これまでヒト科の最古の成員と認められてきた化石がラマピテクス属である。 ラマピテクスの化石は中国南部,インド,パキスタン,トルコ,ギリシア,東アフリカなど旧世界の広域に分布し,時代的には第三紀中新世の中期から後期,約1400万~800万年前にわたっている。…
…鮮新世の生物には現在生息している種類が多いが,哺乳類では三趾馬のヒッパリオンや長鼻類のステゴドンなど絶滅したものも少なくない。原始人類とされるラマピテクスはこの時代に生存した。鮮新世の気候は現在とほぼ同様で,第四紀の氷河時代に至る前の温暖な時代であった。…
…南アフリカのマカパンスガットでは猿人化石といっしょに獣骨も出土しており,彼らが狩猟,肉食をしていた可能性もある。こうして人類の起源は今から300万年以上前までさかのぼることがわかったが,さらに前の祖先と考えられるラマピテクスの約1400万年前との間はまだミッシング・リンクのままである。また最近のDNAの塩基配列やアミノ酸配列の研究は,ヒトと現生類人猿は驚くほど近縁であることを示しており,古くさかのぼる人類起源と近縁度を高めるヒト‐類人猿の関係をどう理解すればよいか大きななぞに直面している。…
…中新世から鮮新世にかけては高等霊長類の適応放散の時代で,コロンビアの中新世の地層からはホムンクルスHomunculusなど新世界ザルの化石資料が増え,ヨーロッパからアフリカにかけてはドリコピテクスDolichopithecus,メソピテクスMesopithecusなどのオナガザル科の化石が知られている。また,ヨーロッパではテナガザルの祖型と考えられているプリオピテクスPliopithecusが,イタリアからはオレオピテクスOreopithecusの完全な化石が発見されているし,プロコンスルProconsul,ドリオピテクスDryopithecus,ラマピテクスRamapithecus,ギガントピテクスGigantopithecusなどの現生類人猿やヒトに近縁な化石がアフロ・ユーラシア各地で発見されている。そして鮮新世後半のアウストラロピテクスAustralopithecus,さらに洪積世の原人ホモ・エレクトゥスHomo erectusへとつながっていくのである。…
※「ラマピテクス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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