フランスの劇作家コルネイユの戯曲。5幕韻文悲喜劇。1637年初演。スペインのギリェン・デ・カストロの戯曲《エル・シドの青年時代》を粉本としているが,その冗慢さを除去し,単純明快な筋にし,人物の心理,葛藤を中心に描いて,フランス古典主義演劇への一歩を印した。舞台は11世紀のセビリャ。主人公ロドリーグは恋人シメーヌの父に家門の名誉を汚され,苦悩の末に英雄的な意志力で恋情を克服し,恋人の父を決闘で倒す。一時はシメーヌも仇として彼の死を求めるが,かえって二人の恋は深まり,将来を誓うという筋。マレー座で上演され,未曾有の大成功を収めた。従来のような運命に一方的に押しつぶされる人間の不幸ではなく,名誉と恋の葛藤を強い意志の力で乗り越える,つまり意志が自己の運命を決定する点に新しさがあった。この大成功は一部に反感を呼び,有名な〈ル・シッド論争〉が起き,その剽窃(ひようせつ)性,反規則性(三統一の法則への違反),不道徳性が非難されたが,比類ない古典劇の傑作としてなお上演され続けている。日本にも明治末から翻案紹介されている。
執筆者:伊藤 洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
フランス古典劇の大作家ピエール・コルネイユの五幕韻文悲劇(初版は悲喜劇tragi-comédie)。1637年初演。セビーリャの青年騎士ロドリーグは、恋人シメーヌの父の伯爵が王太子教育係に任命された父をねたみ侮辱したので、伯爵と決闘して殺す。シメーヌは国王に彼の処刑を求める。彼は死を思うが、彼女の変わらぬ愛を知って、おりから侵略したモール人を撃退し、ル・シッド(統領)とたたえられる。シメーヌの代理の騎士との決闘にも勝ち、彼女が結婚できる心境になるまで遠征に赴く。愛と名誉の矛盾を克服し、高邁(こうまい)な行動に向かう心理を雄弁な美文で描き、古典悲劇の形態を確立した。主人公の「父か恋人か、名誉か恋か」の独白は有名。戯曲の構成は2日間の進行、王女のロドリーグへの恋などが三一致(三単一)の法則に背き、また、スペインの戯曲の剽窃(ひょうせつ)だと攻撃され、ル・シッド論争が起こる。リシュリューがアカデミーに『所感』(1637)を発表させ、論争を収めた。
[岩瀬 孝]
『岩瀬孝訳『ル・シッド』(『コルネイユ作品集』所収・1975・白水社)』
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…この場合は悲劇と喜劇とを主人公の身分で分ける定義から出発しているが,ルネサンス期の学者J.J.スカリゲルらは,幸福な結末に終わる悲劇を悲喜劇と定義した。17世紀のフランス古典劇でも,主人公の死に終わらぬP.コルネイユの《ル・シッド》などがそう呼ばれた。モリエールの《人間嫌い》は深刻な結末をもつ喜劇といってもいいだろう。…
※「ルシッド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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