翻訳|isostasy
地殻がマントルの上に浮力によってつり合っている状態。地殻の均衡ともいう。
1850年ころインドにおいて測定された鉛直線偏差は,ヒマラヤ山脈の質量分布から予測される値と大きく異なり,ゼロに近い値をとった。ヒマラヤ山脈のような大きい質量分布があれば,ジオイドはその上でもり上がり,鉛直線偏差は山麓において大きい値をとるはずである。アイソスタシーはこの事実を説明するために考案された地殻・マントル構造モデルである。
エアリーG.B.Airy(1801-92)はこの事実を次のように説明した。海水に浮かぶ氷山は,海面上に現れている部分は小さくても,海水中に隠れている部分は大きく,浮力によってつり合っている。ちょうどこれと同じように,ヒマラヤの比較的密度の小さい山体は,比較的密度の大きい〈溶岩〉の上に浮いている。現代的な言い方をすれば,地殻はマントルの上に浮いているという考え方である。これに対してプラットJ.H.Pratt(1811-71)は,高い山を構成する物質の密度は低い山を構成する物質の密度にくらべて小さく,山体とそれを浮かせている物質との境界面の深さはどこでも一定と考えた(図1)。今日,地震波の伝わり方や人工地震の実験から得られる知見によれば,エアリーのモデルが実際の姿に近い。
アイソスタシーが成立すると,山地においてブーゲー異常(重力異常)は負の値をとる。ブーゲー異常⊿gと山の高さHとの間には,およそ⊿g=a-bHの関係がある。実測によればa=0~100mGal,b=0.1mGal/mである。ブーゲー異常と地形高度分布から,地形の波長が百数十km以上のときに,アイソスタシーが存在することがわかる。
人工衛星の軌道は重力異常の存在によって摂動を受けるので,逆に摂動を観測することによって重力異常を求めることができる。もしアイソスタシーが成立していなければ,人工衛星重力異常はヒマラヤ山脈やチベット高原の上で数百mGalに達することが予想される。しかし実測された人工衛星重力異常の値はきわめて小さく,山体の影響がみられない。横軸に地形から予測した重力異常を,縦軸に人工衛星重力異常をとると,地球の場合には相関がない。これに対して,火星の一部には相関がみられ,アイソスタシーは成立していない(図2)。月面のマスコンもアイソスタシーが成立していない一例である。
地殻活動は部分的にはアイソスタシーの関係を破壊する向きに働くこともあるが,地球全体としてはアイソスタシーの状態に向けて作用していると考えられる。スカンジナビア半島の隆起やカナダ東部のローレンタイド隆起は,氷河期におおっていた氷床が溶けて,その荷重から解放された地殻とマントルが,新しいアイソスタシーの状態をとり戻そうとする回復運動である。月や火星の一部には,このような回復運動がないのかもしれない。事実,火星や月の地殻活動は地球に比較して格段に小さい。アイソスタシーの存在は惑星や衛星における地殻活動のインジケーターと考えられる。
執筆者:萩原 幸男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球表面にみられる地形の変化は、比較的浅い部分の構造によってつり合いがとれていて、地球内部のある深さより下では静水圧平衡の状態になっている。これをアイソスタシーまたは地殻均衡とよんでいる。この命名はアメリカの地質学者ダットンC. E. Duttonによる。なんらかの地質現象によってこうした平衡状態が崩れると、ふたたび平衡状態を取り戻す方向に変動がおこる。スカンジナビア半島にみられる、年に数センチメートルもの隆起はそのよい例で、氷河時代にこの地方を覆っていた厚い氷床が融けて大きな荷重が急に失われたためであるとされている。
アイソスタシーの概念は、18世紀にフランスのブーゲーP. Bouguerらによってすでに考えつかれていたらしいが、これが広く注目を集めるようになったのは、1855年のプラットJ. H. Prattの研究以降のことである。プラットは、イギリスの観測隊がインドで得た測量の資料を詳しく調べて、ヒマラヤ南部における鉛直線偏差が、ヒマラヤの盛り上がりだけから予測される単純な計算値に比べて、著しく小さいことに気づいた。この結果を知ったイギリスのエアリーG. B. Airyは、地球の上層はより密度の大きな下層の上に浮いた形で平衡を保っており、地形の盛り上がりの大きな所ほど上層の底が深くなっているとする説を示した。
プラットはこのエアリーの説に満足せず、上層と下層の境界は一定の深さにあり、地形の変化は上層内の密度の変化によって補償されているという説をまもなく発表した。
これら二つの対立する説について、その後多くの議論が行われたが、エアリーの説は、地球内部が溶けた状態にあるという考えに基づいていたこともあって、それほど多くの支持を受けなかった。しかし、20世紀になって地震波などによる地下構造の研究が盛んになるにしたがい、エアリーの説がふたたび注目されるようになった。すなわち、普通の大陸地域に比べて山岳地域では地殻が厚いのに対して、海洋地域では逆に薄く、あたかも地殻がマントルの上に浮いているような姿が明らかになったからである。
しかし、地形の変化が地殻の厚さの変化のみによって補償されているとする単純なエアリー流のアイソスタシーが、かならずしも正しくはないらしいことが、最近の研究によって明らかになってきた。すなわち、弧状列島のような複雑な地域はもちろん、普通の海洋地域においても、深さ数百キロメートルに達する大規模な不均質が上部マントル中に存在することがわかったからである。こうした上部マントル中の不均質を考慮しない限り、アイソスタシーの議論はもはや成り立たない。プラットの説を、地下数百キロメートルまでの不均質によって平衡状態が保たれていると解釈すれば、これはエアリーの説を包含する、より大きな概念であり、より現代的であるともいえる。
[吉井敏尅]
isostasy
山脈の下の物質は軽く,山脈は浮力によってそびえ立っているという考えは,古く18世紀にさかのぼる。1735年,P.Bouguerは南米大陸の子午線測量のとき,アンデス山脈の質量が鉛直線に及ぼす影響が計算より小さいことに気がついた。J.E.Pratt(1855)は地表上の,ヒマラヤ山脈による鉛直線偏差を計算し,観測値が計算値の1/3しかないことを示した。この矛盾を説明するためにエアリー説(1855)とプラット説(1859)が生まれた。地球内部に山脈の圧力と浮力とが釣り合っている補償面が存在するというこの現象をisostasyと命名したのはC.E.Dutton(1889)。日本では古くからこれを地殻均衡説と訳してきた。J.H.HayfordとW.Bowie(1912)は,プラット説に基づいて重力異常を説明し,均衡面の深さを113.7kmとした。W.Heiskanen(1938)はエアリー説に基づいて補償面の深さを20~40kmとした。地殻均衡が成立していれば重力の均衡異常はゼロとなる。地球表面上90%は地殻均衡が成立。地震波の観測から判明するモホ面はエアリー-ハイスカーネン説による補償面と一致するので,これは地殻の厚さを定義していると考えられる。プラット-ヘイホード説の均衡面は地震観測からわかる地震波の低速度層と一致している。一方,1931,1941年Vening Meineszは広域均衡異常(regional isostatic anomaly)という考えを述べ,地殻は垂直方向のみでなく水平方向にも補償されているとした。
執筆者:藤井 陽一郎
出典 平凡社「最新 地学事典」最新 地学事典について 情報

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