イスノキ(その他表記)Distylium racemosum Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「イスノキ」の意味・わかりやすい解説

イスノキ
Distylium racemosum Sieb.et Zucc.

暖地森林に生えるマンサク科の常緑高木で,葉に大きな虫こぶを作り,子供がこれを笛にして遊ぶので,方言ヒョンノキなどという。高さ25mに達する。葉は互生し,長楕円形で基部はくさび形に細まり,全縁,長さ3~8cm,革質で表面に少し光沢がある。春に総状花序を腋生(えきせい)し,普通,上部両性花下部雄花をつける。花弁はなく,萼片は3~6個,5~6本のおしべと2本に分かれる花柱は鮮紅色を呈する。秋に木質の2裂する蒴果(さくか)を結ぶ。本州(伊豆半島以西の東海・近畿南部・山陽)・四国・九州・琉球,台湾南端,済州島,中国浙江省の暖帯中・南部に分布し,南九州では暖帯林の主林木である。材は紅褐ないし紫褐色の散孔材で,国産材中最も重硬なものの一つで,床板,床柱,器具・楽器材などに賞用される。また,温暖地では生垣としても広く植えられる。大きな虫こぶは5~10%のタンニンを含有し,また樹皮にもタンニンを含むので,染色などに用いられる。イスノキ属Distyliumは,東アジアからヒマラヤに約10種を産する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イスノキ」の意味・わかりやすい解説

イスノキ
いすのき / 蚊母樹
[学] Distylium racemosum Sieb. et Zucc.

マンサク科(APG分類:マンサク科)の常緑高木で、高さ20メートル、直径1メートルに達し、南九州の常緑広葉樹林の代表的な構成樹種。樹皮は灰褐色。葉は厚くて硬く、楕円(だえん)形、鋸歯(きょし)はなく、よく虫こぶができる。花は3~4月、葉腋(ようえき)から出た円錐(えんすい)花序につき、紅色、花弁はない。一つの花序に雄花と両性花が混在する。果実は蒴果(さくか)、先端に2本の突起があり、黄褐色の星状毛が密生し、浅く2裂して種子を放出する。本州の東海地方以西から四国、九州、沖縄、さらに済州島、台湾、中国に分布する。材は日本産有用樹種のなかでももっとも重くかつ硬く、そろばん玉、櫛(くし)、床柱、鴨居(かもい)などさまざまな用途に賞用される。虫こぶを吹くと鳴る音からヒョンノキともいう。イスノキ属はアジア東部から南部に固有な属で、18種からなる。

[門田裕一 2020年5月19日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イスノキ」の意味・わかりやすい解説

イスノキ
Distylium racemosum

マンサク科の大高木で,四国,九州など西日本各地の山中に生える。高さ 10~20mに達し,胸高直径が 1mに及ぶものもある。葉は短い柄があって互生し,長さ5~8cmの長楕円形で全縁,革質で葉面に光沢はない。春,葉腋総状花序を出し,紅赤色の小花をつける。花には緑色の萼片が3~6枚あり,表面に褐色の星状毛が密生する。花弁はなく,5~8本の短いおしべと1本のめしべがある。ただし,花序の基部につく花は雄花で,めしべをもたない。両性花に生じる果実は硬い木質の卵球形で,熟すと2つに割れる。小笠原諸島には近縁で小型のシマイスノキ D.lepidotumがある。

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百科事典マイペディア 「イスノキ」の意味・わかりやすい解説

イスノキ

マンサク科の常緑高木。本州(関東南部以西)〜沖縄,東アジアの暖地の森林に生える。葉は長楕円形で互生し革質,ときに虫こぶができる。春,葉腋に総状花序を出し上部に両性花,下部に雄花をつける。花弁はなく,萼片は3〜6個,おしべやめしべは赤色で目立つ。材は国産材中もっとも重硬なものの一つで,床柱,床板,器具,楽器材として賞用され,樹皮は染色にも用いられる。

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