イラクサ(その他表記)Urtica thunbergiana Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「イラクサ」の意味・わかりやすい解説

イラクサ
Urtica thunbergiana Sieb.et Zucc.

山地の湿った場所に生え,全草に酸を含む刺毛があるイラクサ科の多年草。刺毛にギ酸を含み,さわると痛いのでイラクサ(刺草)の名があるが,学名Urticaも焼くという意味のラテン語uroに由来する。イラクサ属の仲間に対する英名nettleneedle(針)と同語源である。茎は高さ40~80cm。葉は対生し,円心形で長さ6~16cm,欠刻状の鋸歯がある。葉腋ようえき)の托葉はとなりどうし合着する。花期は8~9月。雌雄同株で雌花上方に,雄花下方につく。花序は穂状または複穂状。雄花の花被片は4枚。雌花の花被片は4枚のうち内側2枚が大きく,開花後果実をつつむ。本州の福島県以南,四国九州に普通に見られる。本州の中部地方以北と北海道には鋸歯数の多い近縁種エゾイラクサU.platyphylla Wedd.が分布する。ホソバイラクサU.angustifolia Fischerは葉が細長く托葉が離生する種で,日本全土に分布する。湯を通せば刺毛は柔らかくなるので,山菜として利用され,ビタミンCに富むことで知られる。

 東北アジアに分布するアサノハイラクサU.cannabina L.は繊維をとる植物として栽培される。また疼痛の薬とされる漢方の蕁麻(じんま)もこの植物である。別属であるが,ムカゴイラクサミヤマイラクサも刺毛を有し,触れると痛い。
執筆者:

イラクサは北欧神話の雷神トールにちなむ草とされている。とげの形状が雷を連想させるためか,チロル地方でも落雷除けにイラクサをいろりの火にくべる。またこの草に小便をかければ怒りっぽくなるといわれる。いずれもとげのある草に由来する迷信であろう。花言葉もそれに関係しており,〈残酷・中傷〉である。現在は雑草扱いだが,かつては繊維を取る材料,あるいは食料として畑で栽培が行われ,これに十分の一税が課せられた時代さえあった。アンデルセンの童話《王子と11羽の白鳥》に小さな姫がイラクサから糸を紡ぐ場面が出てくるが,アサやアマに比べて取れる糸の量が少なく手間もかかったため,イラクサの糸紡ぎは昔語りとなった。
執筆者:

刺毛をもつイラクサや繊維をとるチョマなどを含み,約45属1000種以上がある。世界中の温帯,熱帯域に分布し,温帯では通常草本であるが,熱帯には大木になるものもある。クワ科に近縁な双子葉植物。植物体に刺毛のあるものとないものがあり,この違いは科を下部単位の連tribeに区分する際に用いられる。葉は単葉で托葉をもち,托葉はしばしば左右の1対が合着して葉柄間托葉となる。花は小型で目だたず,雌雄の分化があり,基本的に風媒花である。雄花は2~5枚の花被片と,それと同数のおしべからなり,雌花は1個の子房を2~5枚の花被片がとりまく。ヤブマオ属に近縁の群では,花被片が合着して子房をすっぽりと包みこむ。子房は1室,胚珠は1個。果実は瘦果(そうか)で,一見種子のように見える。ヤブマオ属やイラクサ属では師部繊維がよく発達し,繊維をとるために用いる(カラムシなど)。また一部の植物は食用とされるが,野菜としては重要ではない。葉のきれいなものは園芸植物になっている。
執筆者:


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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イラクサ」の意味・わかりやすい解説

イラクサ
いらくさ / 刺草
[学] Urtica thunbergiana Siebold et Zucc.

イラクサ科(APG分類:イラクサ科)の多年草。植物体全体に特殊な刺毛があり、触れると激しい痛みを感じるのでこの名(イラとは痛みを伴う刺激のこと)がある。茎は固まって出て、高さ40~120センチメートル、繊維質である。葉は長い柄(え)があって対生し、卵円形で長さは柄を除き4~12センチメートル。縁(へり)に粗い重鋸歯(きょし)がある。葉腋(ようえき)には2枚の卵形の托葉(たくよう)があるが、これは本来4枚のものが互いにくっついたものである。花序は葉腋に2本(つまり節(ふし)ごとに4本)ずつ出て穂状。雌雄の別があり、雄花序が茎の中部、雌花序が上部の葉腋につく。本州から九州の低山地に生育し、国外では朝鮮半島と中国大陸南西部に分布する。中国名は咬人蕁麻。本種は中国大陸と台湾に産する蕁麻(じんま)(タイワンイラクサ)U. fissa E.Pritzelにごく近縁で、かつては混同された。

[米倉浩司 2019年12月13日]

総称名としてのイラクサ

前記のイラクサを含め、イラクサ属Urtica L.、およびそれに近縁で、中にギ酸を含む特殊な刺毛を植物体に生じる、ムカゴイラクサ属Laportea Gaudich.やオニイラクサ属Girardinia Gaudich.の草本の総称。イラクサ属は葉が対生するが、ムカゴイラクサ属やオニイラクサ属は葉が互生する。イラクサ属やムカゴイラクサ属では多くの種の若い茎葉が食用とされ、ヨーロッパではセイヨウイラクサU. dioica L.、U. pilulifera L.やU. urens L.などが飢饉(ききん)の際に救荒植物として利用された。また茎の繊維が強いためにヨーロッパ産のU. cannabina L.は繊維植物として栽培されることもあった。なお、じんま疹という語は、その症状が、イラクサの仲間(蕁麻)の刺毛に刺されてできた火ぶくれに外見的に似ることからついたものである。

[米倉浩司 2019年12月13日]

文化史

茎葉の刺(とげ)は激しい痛みを伴うが、イギリスのイラクサU. pilulifera L.(英名はRoman nettle)は、ローマ帝国が侵略したおりに、イギリスの寒さがひどいと聞いたローマ兵が寒さでかじかんだ手を刺激させるのに持ち込んだことから広がったという。イギリスでは若芽はゆでたり粥(かゆ)に入れたりして食べ、葉は煎(せん)じてじんま疹やリウマチの民間薬に使った。日本でも若葉は食用にされる。

 ヨーロッパでは古代から中世にかけて、茎からとった繊維で衣料やロープをつくったり、茎葉を家畜の干し草に、また種子を飼料にした。このような実用面を無視して、花ことばは「残酷、中傷、悪意、あるいは私の心を破る」とされている。

[湯浅浩史 2019年12月13日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イラクサ」の意味・わかりやすい解説

イラクサ
Urtica thunbergiana; nettle

イラクサ科の多年草で,山地や林の縁などに生え,福島県以南の本州,四国,九州に分布する。高さ 40~80cm。全体に多くの刺毛があり,ギ酸を含んでいるので触れると痛く,ときには水泡を生じる。このためイタイタグサの別名もある。対生する葉は長い葉柄があり,円形で先端は尾状にとがり,基部は心臓形,葉縁に鋭く深い鋸歯がある。若い葉は食べられる。近縁のものには葉の細長いナガバイラクサ,葉の互生するミヤマイラクサ,ムカゴイラクサなどがある。

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百科事典マイペディア 「イラクサ」の意味・わかりやすい解説

イラクサ(刺草)【イラクサ】

イラクサ科の多年草。本州〜九州,朝鮮の山地にはえる。高さ0.5〜1m。葉は対生し,卵形で縁にあらい鋸歯(きょし)がある。秋,上部の葉腋に雌花序を,下部に雄花序をつける。花は淡緑色で花被片は4個。茎と葉の刺毛はギ酸を含み,触れると痛いのでこの名がある。

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世界大百科事典(旧版)内のイラクサの言及

【有毒植物】より


[皮膚炎をおこす有毒植物]
 接触によって皮膚炎をおこす植物も多い。毛やとげ,針が機械的な刺激を与える例として,コンフリーの葉,ムギの穂,イラクサ,サボテン,バラのとげなどがある。イラクサは折れて皮膚内に残った刺毛からアセチルコリンやヒスタミンが放出されるため,はれやかゆみをひきおこす。…

※「イラクサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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