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インフルエンザ influenza

翻訳|influenza

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

インフルエンザ
influenza

流行性感冒 (流感) 。いわゆる「風邪」の大部分は,ウイルス性疾患とみられるようになって,インフルエンザとの境界は曖昧になってきているが,普通の風邪症候群とは違って,高熱関節痛が起り,全身症状が現れる。咳やくしゃみの際の飛沫によって感染が広がり,急激に流行する。病原体のウイルスは大別してA型,B型,C型の3種類がある。インフルエンザは史上しばしば世界的流行を示しており,開発された各種の予防ワクチンも十分な効果をあげるにいたっていない。

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知恵蔵の解説

インフルエンザ

インフルエンザウイルスにより起こる呼吸器感染症。急激な発熱、悪寒、筋肉痛、関節痛、頭痛、肩こりから始まり、咽頭炎、胃腸症状、咳、痰などの症状を示す。治療には抗インフルエンザ薬を用いる。また予防のためにはワクチンもある。毎年12月中頃から翌年3月前半までの間に流行する。小児の場合、インフルエンザ脳症になることがあるので、注意が必要。これは、インフルエンザにかかった後、数日内に高熱やけいれん、意識障害が起こる病気で、経過は早く死亡率が極めて高い。発症に解熱剤の服用が関与しているとの意見もある。似たものにライ症候群があり、症状は脳症とほとんど変わらないが、肝臓の脂肪変性が見られる点で異なる。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

インフルエンザ

インフルエンザウイルスへの感染で発症する。通常の風邪と違い、頭痛や関節痛などの全身症状や38度以上の高熱を伴うことが多い。肺炎などを併発して重症化するケースや、子どもが急性脳症で死亡することがある。ウイルスは主に「A香港型」「Aソ連型」「B型」の3種類。国立感染症研究所感染症情報センターによると、症状や治療法は同じ。今季はA香港型が半数、Aソ連型が約3割を占めている。

(2009-01-22 朝日新聞 朝刊 新潟全県 1地方)

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百科事典マイペディアの解説

インフルエンザ

流行性感冒,略して流感とも。インフルエンザウイルスによる急性伝染病で,A,B,C型があり,A,B型は流行を繰り返して問題になるが,A型の方がより流行の規模が大きく,短い周期で流行を繰り返す。
→関連項目ウイルス病風邪学校伝染病伝染病届出伝染病飛沫感染ライ症候群流行性感冒

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栄養・生化学辞典の解説

インフルエンザ

 ウイルスによって発熱,気管支炎,咽頭炎,頭痛,関節炎が起こされるもの.

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家庭医学館の解説

いんふるえんざ【インフルエンザ Influenza】

◎全身症状と重症感があるのが特徴
[どんな病気か]
 インフルエンザウイルスが感染することによっておこり、全身症状が激しく、大流行をくり返すのがインフルエンザの特徴です。
 肺炎(はいえん)などの重い合併症をひきおこしやすく、もともとあった慢性の病気を急に悪くしたりします。
●どのように感染するのか
 インフルエンザは、患者さんのウイルスを含む分泌物(ぶんぴつぶつ)が、せきなどで小さなしぶきとして空中にただよい、それを吸い込むことで感染することが多く、マスクやうがいをしても、ほとんど感染が防げません。手洗いでも十分には侵入を防げません(図「かぜ・インフルエンザウイルスの感染経路」)。
●インフルエンザウイルスの種類と型
 A型、B型、C型があります。
 感染の流行が問題になるのは、A型とB型です。A型は何十年かに1回、免疫(「免疫のしくみとはたらき」)のしくみがウイルスをとらえるときの特徴である血清型(けっせいがた)を変えて変身するため、世界的な大流行(パンデミー)をおこします。
[症状]
 鼻水、せきなどの呼吸器の症状よりも、全身の症状が先に現われるのが特徴です。
 全身の症状というのは、突然に現われる高熱(38℃以上になることも多い)、頭痛、筋肉痛、関節痛、倦怠感(けんたいかん)(だるさ)で、重症感(「重い病気だ!」という感じ)が強いことも特徴の1つです。
 事実、肺炎のような重い病気に進むこともあり、慢性の病気を急に悪くすることが知られています。
 発熱は3日ほど続き、少し遅れて鼻かぜ、のどかぜの症状が現われてきます。それも3~4日目がピークで、しだいにやわらいできます。
 合併症がなければ7日ほどで自然に治ります。ただし、せきなどが長引くことがあります。
 症状はA型のほうが重く、新しい血清型(けっせいがた)のウイルスが流行(パンデミー)するときは、人類に抵抗力ができていないので、より重症になります。
●合併症について
 よくひきおこされ重症化しやすいのは、ウイルス肺炎(「非細菌性市中肺炎」のウイルス肺炎)や二次感染(ウイルスの感染につづいての感染なので二次という)による細菌性肺炎です。3日以上解熱(げねつ)しない、一度下がった熱がまた上がった、膿(うみ)のようなたんが出る、呼吸が困難、胸痛などの症状が出てきたら、すぐ医師の診察を受けましょう。
 喫煙者や高齢者、慢性の病気(表「インフルエンザによる重症化や合併症の可能性の高い人」)がある人の場合は重症になったり、ほかの病気をともなったりしやすいので注意が必要です。心筋炎(しんきんえん)、心外膜炎(しんがいまくえん)、脳炎(のうえん)、髄膜炎(ずいまくえん)などをともなうこともあります。
 合併症で、もう1つ重要なのは、もともとある慢性の病気が急に悪くなる場合です。
 ぜんそく、肺気腫(はいきしゅ)など慢性の呼吸器の病気、心臓弁膜症(しんぞうべんまくしょう)、慢性うっ血性心不全(けつせいしんふぜん)のある人は、とくに注意する必要があります。
◎重症化しやすいので注意を
[治療]
 かぜと同様で、対症療法と一般療法がおもですが、重症になりやすいので注意が必要です。
 子どものインフルエンザにアスピリンを使うと、ライ症候群(けいれん、意識障害、肝臓障害をおこす死亡率の高い病気(コラム「ライ症候群」))をおこす可能性があるといわれているため、どうしても熱を下げなければならないときは、ほかの解熱薬が勧められています。
[予防]
 現在、日本では、インフルエンザの感染と重症化の予防が期待できるのは、インフルエンザワクチンの接種ですが、日本でもアマンタジン内服による予防が、特別な場合のみ認められました。もちろん医師による処方が必要です。
 また、抵抗力が弱っている人をインフルエンザに感染している可能性のある人と接触させないように、引き離すこともあります。

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世界大百科事典 第2版の解説

インフルエンザ【influenza】

流行性感冒,略して流感ともいわれ,インフルエンザウイルスによって起こる感染症の一つ。突然の発熱,頭痛,悪寒,だるさ,咳,筋肉痛などがあり,上気道,鼻腔,結膜などに炎症が起こる。冬季に多い。インフルエンザウイルスはRNAウイルスで,A,B,Cの諸型に分けられ,A,B型はさらにいくつかの亜型に分けられる。流行するインフルエンザウイルスの型は年によって異なる。通常いろいろの地域に散発的に流行するが,しばしば世界的な大流行がみられる。

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大辞林 第三版の解説

インフルエンザ【influenza】

風邪の一種。病原体はウイルス。高熱が出て、肺炎・中耳炎・脳炎などの合併症を起こすことがある。流行性感冒。流感。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

インフルエンザ
いんふるえんざ
influenza

インフルエンザウイルスによっておこる急性の呼吸器感染症。かぜ(またはかぜ症候群)に属する一疾患であり、かつては流行性感冒(英語でgrippe、ドイツ語でGrippe、フランス語でgrippe)ともよばれた。[加地正郎]

歴史

インフルエンザは詳細な流行の記録が17世紀ころから残されているが、その歴史は遠く紀元前にまでさかのぼることができるとされている。近年の世界的な大流行としては1889~1890年の流行と、1918~1919年のスペインインフルエンザがある。とくにスペインインフルエンザは、全世界での患者6億、死亡者3000万に達し、日本でも患者2300万、死亡者38万余という惨禍を残し、インフルエンザの歴史のみならず、感染症の流行史においても特筆すべき大流行であった。
 1933年にインフルエンザの病原ウイルスが発見されたが、それ以後では1957年のアジアインフルエンザ、1968~1969年の香港(ホンコン)インフルエンザ、1977~1978年のソ連インフルエンザなどが有名である。[加地正郎]

流行

インフルエンザウイルスには、A、B、Cの3型があり、このうちA型およびB型は強烈な伝播(でんぱ)力をもち、広範な流行をおこす。患者のくしゃみ、咳(せき)によって飛び散った気道分泌物の小粒子に含まれたウイルスが直接に(飛沫感染)、あるいは空気中に浮遊しているさらに小さな気道分泌物由来の粒子中のウイルスが(飛沫核感染あるいは空気感染)周囲の人の呼吸器に侵入して感染をおこす。集団生活の場では、飛沫核感染によって同室内の人が同時に多数罹患(りかん)する。日本では、秋の終わりから翌年の初春までの寒い時期に発生する。流行は、まず家庭内といった小範囲での発生に始まり、ついで学校などの集団発生となって、そこで感染した学童、生徒が各家庭で感染を拡げる結果、その地域での流行として拡大していく。
 流行後は集団としてそのウイルスに対する免疫ができるが、ウイルスの抗原変異によって抗原構造のずれた型のウイルスが出現すると(連続変異)、その集団免疫ではその流行を阻止できず、ふたたび流行する。さらにA型では、こうした流行のくり返しである年月の間には集団免疫が高くなるので、その集団免疫を乗りこえるため、それまで流行していた型とまったく違った抗原構造をもつ型が出現する(不連続変異)。出現当初の冬にはそれに対する免疫がない状態なので、世界的な大流行となり、その後規模がそれほど大きくない流行をくり返す。こうした連続変異と不連続変異によってA型流行の歴史が綴られていく。
 A型ウイルス粒子の表面に存在する2種のスパイク(突起)すなわち赤血球凝集素hemagglutinin(HA)とノイラミニダーゼneuraminidase(NA)の抗原性によって、HAは1~16まで、NAは1~9までの違った型が知られており、このHAとNAの組合せによって理論的には16×9=144の亜型(subtype)の存在が考えられ、鳥類をはじめ多くの動物の間に分布している。人の間で流行をおこした、あるいは現在も流行している亜型はH1N1(ソ連型)、H2N2(アジア型)およびH3N2(香港型)であり、最近H1N2という亜型の流行も報告されている。
 なお、HAの分類について現在のH1は赤血球凝集抑制試験によってHsw1(swはswine、豚型の意)、H0、H1、H2、H3という亜型に分類されていたが、1980年から二重免疫拡散法によるデータからHsw1、H0、H1の3つはH1としてまとめられることになった。
 ここには流行の歴史を一般に用いられている名称でそれぞれの亜型による流行期間をのべると、豚型(Hsw1N1)流行1917~1928年、古典的A型(H0N1)流行1930~1946年、Aプライムまたはソ連型(H1N1)流行1947~1956年および1977年から現在、アジア型(H2N2)流行1957~1967年、香港型(H3N2)流行1968年から現在で、香港型とソ連型の二つが、流行を繰り返しているところであるが、そろそろ新しい亜型の登場と、それによる大流行が警戒されているところに、2003年暮から家禽の間で流行し始めたH5N1型が世界的な広がりをみせ、人への感染例への報告が相次ぐに及んで、このH5N1型による大流行が危惧されている。[加地正郎]

ウイルスの感染と進展

呼吸器粘膜には、上皮細胞の線毛(繊毛)の動きと粘液の作用で、侵入してきたウイルスを排除するという働きをはじめとする、感染防御のメカニズムが備わっているが、呼吸とともに鼻やのどから侵入してきたウイルスがこの防御機構に打ち勝って呼吸器粘膜細胞に感染をおこすと、その細胞内でウイルスは増殖し始め、増殖したウイルスは細胞を破壊して細胞外に出て周囲の細胞へと感染を拡大していく。
 大局的にみると、ウイルスの感染は鼻やのどの上気道から気管や気管支の下気道へ、つまり呼吸器の奥のほうへと進んでいき、それに応じて鼻やのどや気管支に炎症がおこる。したがって、急性鼻炎や急性気管支炎の症状が現れるわけであり、炎症が広範かつ高度におこるため、熱などの全身反応も強くなる。[加地正郎]

症状

潜伏期は1~3日とたいへん短い。急激に発病するが、熱、頭痛、腰痛、全身のだるい感じなどの全身症状で始まり、続いてのどの痛み、咳などの呼吸器症状が現れる。熱は急速に上昇し、1~3日後には38~39℃にも達する。同時に頭痛、腰痛、筋肉痛、関節痛などの痛み、全身のだるい感じが強くなる。呼吸器からの症状としては、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、痰(たん)などが現れるが、声がれ、鼻出血などもときにみられる。そのほか、嘔吐(おうと)、腹痛、下痢などの消化器症状も出現することがある。この消化器症状は、小児では成人よりもおこりやすい。
 熱は3、4日後には解熱するか、解熱しないまでも徐々に下降し始め、5~7日以内には解熱する。熱の経過に応じて頭痛などの全身症状や呼吸器症状も軽くなっていき、普通はおよそ1週間で治癒するが、咳だけが残ったり、全身のだるい感じがなかなかとれないこともある。
 このような症状はA型もB型も同様であるが、一般的にはB型がやや軽い。しかし、新型インフルエンザとして人での流行が懸念されているH5N1ウイルスによるインフルエンザは、これまでの報告によるときわめて重症で、ウイルス自体によって肺病変が強くおこり、呼吸不全から多臓器不全をきたし、高い致死率を示している。この点はこれまでのインフルエンザとは、その様相を異にしている。[加地正郎]

合併症

従来のインフルエンザでもっとも警戒すべき合併症は肺炎である。病原のウイルス単独でも肺炎をおこしうるが、ウイルス感染によって気管支粘膜の上皮細胞が破壊され、その部の感染防御の働きが低下したのに乗じて細菌が二次的に感染するため肺炎合併症がおこるのが普通である。二次感染をおこす細菌としては、ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌、連鎖球菌などが主であるが、緑膿菌(りょくのうきん)や肺炎桿菌(かんきん)なども注目されている。
 この肺炎を合併しやすい素因としては、慢性呼吸器疾患(慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支喘息(ぜんそく)など)や心疾患、ことに僧帽弁膜症、糖尿病などの存在、高齢、妊娠などがあげられている。また、肺炎を合併する頻度は一般には数%以下、普通は1%前後である。このように合併頻度は低いが、流行に際してのインフルエンザ患者数はきわめて多数に上るので、肺炎を合併してくる患者の実数もまた多数となる。
 肺炎のほかにも、小児では急性脳症やライReye症候群などの重篤な神経系の合併症には警戒を要する。このほか心筋炎や心外膜炎などの心合併症がみられることもあるが、これらの合併症はそれほど多いものではない。[加地正郎]

予後

インフルエンザは合併症をおこさない限り約1週間で治癒する疾患で、予後は一般に良好である。肺炎を合併すると予後はかならずしも良好でなく、二次感染菌に対する強力な抗菌療法にもかかわらず重篤な経過をたどることがあるので注意する必要がある。また、種々の慢性の病気をもつ患者がインフルエンザに罹患すると、それをきっかけにして、以前からの病気が悪化することがある。[加地正郎]

治療

インフルエンザウイルスに直接に作用する抗ウイルス剤としてアマンタジンが用いられ、ある程度の治療効果が認められている。しかし、ウイルスが耐性を獲得しやすい難点があり、現在ではノイラミニダーゼ阻害薬のリン酸オセルタミビル(「タミフル」)およびザナミビル(「リレンザ」)が広く用いられているが、これらの薬に対しても耐性ウイルスが報告されるようになった。そのほか治療としては高熱に対する解熱薬、激しい頭痛や腰痛などの痛みを和らげる鎮痛薬、ひどい咳には鎮咳(ちんがい)剤(咳止め)を用いるというように、苦痛となる症状を抑える対症療法が中心となる。このほか、一般的な療法として安静と水分補給があげられるが、安静はとくに重要で、治癒を促し、肺炎合併症を予防するのに役だつ。肺炎合併症には、二次感染をおこしている細菌に対する化学療法が必要となる。
 なお、細菌の二次感染による肺炎の合併を予防する目的でインフルエンザの発病当初から抗菌薬の投与を行うことについては議論のあるところである。前述のような肺炎を合併しやすい素因のある例では必要なこともあるが、一般にはこの予防的抗菌療法は行わないのが普通である。抗菌薬はインフルエンザウイルス自体には無効である。[加地正郎]

予防

インフルエンザワクチンの接種が行われる。現行のものはホルマリン不活化HAワクチンである。HAワクチンとは、ウイルス粒子の成分のうち、感染を防ぐのにもっとも重要な抗体をつくらせる赤血球凝集素(HA)という成分を集めてつくったワクチンの意味である。ワクチンとしては不必要なウイルス成分の脂肪が除かれているので、副作用がそれだけ軽減される。1972年(昭和47)以来、それまでの不活化したウイルス粒子(全粒子)を用いたワクチンからこのHAワクチンに切り替えられている。
 現在のワクチンにはA型(香港型、ソ連型)およびB型が含まれており、いずれの型が流行しても対応できる。さらにウイルスの連続変異に対応するため、毎年製造のワクチン株の選択にも考慮が払われている。一般にワクチンの予防効果は70~80%程度とされている。13歳未満では1~4週間の間隔で2回、成人では通常1回、皮下に注射するが、注射後1~2週間から3~6か月間くらい予防効果が期待できる。したがって、流行期より以前の10~11月ころに注射するが、効果の持続期間が短いことと、年々流行してくるウイルスの型がすこしずつ変わる傾向があり、ワクチンもそれに対応してつくられるので、毎年予防注射を受けることが必要となる。
 肺炎を合併しやすい素因をもつ人には、とくにワクチン接種が勧められるが、その場合には既存の病気その他に対する慎重な配慮が必要である。また、ワクチンはウイルスを孵化(ふか)鶏卵で培養してつくるため、鶏卵アレルギーの人は注射を避ける。ワクチンの副作用としては、注射部位が赤く腫(は)れたり痛みがあるほか、熱や全身のだるい感じなどがみられることがあるが、その出現頻度は低く、また一般に軽度で、特別の処置を要することはほとんどない。
 また、ワクチンのほかに、流行が発生した場合、休校や学級閉鎖などの措置をとって流行の拡大を食い止めるように努める。休校の期間は2、3日では不十分なことが多く、5日程度が望ましいとされる。[加地正郎]

インフルエンザウイルス

オルトミクソウイルスOrthomyxovirusに属するウイルス。1本鎖RNA(リボ核酸)ウイルスで、A型、B型、C型がある。
 インフルエンザウイルス粒子は球状で80~120ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)、カプシド(ウイルス核酸と結合タンパク質を取り巻くタンパク質殻)は螺旋(らせん)対称形エンベロープ(外被)を形成する。ゲノム1本鎖RNAは線状で、A型は8分節、C型は7分節、各遺伝子ごとに分節している。第7分節、第8分節RNAから転写されるmRNA(メッセンジャーRNA)には長いRNAと短いRNAがあり、それぞれから異なったタンパク質が翻訳される。全分子量は4~5×106ダルトン(1ダルトンは1.661×10-27キログラム)、全塩基総数13~15×103塩基。各型の原形ウイルスについては全塩基配列も決定されている。ウイルスRNAは核タンパク質が螺旋対称状に配列し、それに3種類のRNAポリメラーゼ(RNA鋳型からのRNA形成を触媒する酵素。PA、PB1、PB2)が結合してヌクレオカプシド(カプシドに直接取り込まれているウイルスの核酸)を形成する。8本のヌクレオカプシドはエンベロープに包まれる。直径80~120ナノメートル、球状、ときには多形態性を示す。エンベロープは細胞膜脂質二重層を基本単位とする。赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼneuraminidase(NA)がスパイク状に外面に突出している。膜タンパク質membrane protein(M1)といわれる粒子は脂質二重層を裏打ちするように粒子が配列し、膜タンパク質(M2)は4本が束のような形となり、二重層を貫通したように、内側から外側に突き出したようになっている。イオンチャンネルとしての役割をもつ。
 インフルエンザウイルスが宿主(しゅくしゅ)(ウイルスの寄生対象となる生物)細胞に感染するとHAタンパク質が分解酵素によってHA1とHA2に開裂する。H1は細胞表面のシアル酸レセプター(受容体)に吸着し、細胞内に取り込まれる。エンドソーム内へは酸性条件下でHA2が働きウイルスエンベロープ脂質二重層とエンドソーム膜脂質二重層と融合がおこり、ヌクレオカプシドが細胞内に放出される。次にヌクレオカプシドに付着しているRNAポリメラーゼ(PA、PB1、PB2)がウイルスゲノムRNAを転写して、プラス鎖mRNAを合成する。
 このmRNAと宿主のつくる新しいmRNAとウイルスの塩基配列が初動的役割を果たし、PB2、PB1、PAの順番で誘導、転写が進行する。感染初期にはRNAポリメラーゼ、核タンパク質、非構造タンパク質の合成が先行し、ゲノムRNAの複製とヌクレオカプシドの形成が進む。感染後期になって膜タンパク質、赤血球凝集素、ノイラミニダーゼの合成促進と細胞膜への輸送によってエンベロープ構造ができあがる。次に8種類のヌクレオカプシド1組がエンベロープを周囲にもちながら出芽する。出芽直後のウイルス粒子は、ノイラミニダーゼが周囲のシアル酸基を切断することにより、細胞表面から遊離する。
 インフルエンザウイルスは核タンパク質や膜タンパク質の抗原性によりA型、B型、C型の3タイプに分類する。
(1)インフルエンザA型ウイルス 赤血球凝集素(HA)の血清型は16種(H1~H16)、ノイラミニダーゼ(NA)の血清型は9種(N1~N9)、このHA血清型とNA血清型を組み合わせると、理論上は144亜種が存在することになる。カモ、アヒル、シチメンチョウなどの鳥類からはHA、NAの血清型のすべてが発見されている。現在まで70余の亜種株が分離固定されている。ヒトから分離されたインフルエンザA型ウイルスはH1N1、H2N2、H2N2の3亜種である。ウマやブタも自然宿主となる。ウマやブタなどの動物のインフルエンザウイルスはヒトに感染伝播することはないと考えられる。
(2)インフルエンザB型ウイルス HA、NAの血清型が各1種類だけで、亜種はない。自然宿主もヒトだけである。
(3)インフルエンザC型ウイルス A型、B型とは異なり、独特なものである。A型のノイラミニダーゼに当たるRNA分節が欠落しているからで、ヘマグルチニン‐エステラーゼhemagglutinin-esterase(HE)によって分類される。亜種はなく、自然宿主もヒトだけである。[曽根田正己]
『永武毅編『インフルエンザQ&A』(2000・医薬ジャーナル社) ▽泉孝英・長井苑子編『医療者のためのインフルエンザの知識』(2005・医学書院) ▽加地正郎著『かぜへの挑戦』(講談社・ブルーバックス) ▽加地正郎著『インフルエンザの世紀――「スペインかぜ」から「鳥インフルエンザ」まで』(平凡社新書) ▽W・I・B・ビヴァリッジ著、林雄次郎訳『インフルエンザ』(岩波新書) ▽中島捷久・中島節子・沢井仁著『インフルエンザ――新型ウイルスはいかに出現するか』(PHP新書)』

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世界大百科事典内のインフルエンザの言及

【杆菌】より

…長さの短いものは短杆菌,長いものは長杆菌と呼ばれる。短杆菌は,インフルエンザ杆菌のように,長さが短いために球菌と区別しがたいものがある(インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされるが,インフルエンザ杆菌は二次的な合併症を引き起こす病原菌の一つである)。杆菌には,細菌が連鎖状に連なった連鎖杆菌や,コリネ型菌のように,複数の細菌がくっついてV・Y・L字形や平行状の配列をとるものがいる。…

【気管支炎】より

…原因は種々のウイルスや細菌の感染によるものが多いが,塩素ガスなど化学性刺激ガスの吸入でも起こる。前者の代表的なものは,インフルエンザ(流行性感冒,流感)によるものである。治療は,鎮咳(ちんがい)剤や去痰剤を服用するが,膿のような痰が出て細菌感染が疑われるときは抗生物質が使われる。…

※「インフルエンザ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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