エクイテス
equites[ラテン]
古代ローマで騎兵,また騎士身分の人をいう。equesの複数形。共和政期の制度では特定額以上の財産を持つ市民(おもに貴族)を騎兵,他の市民を歩兵に登録して軍団を編成した。騎兵は歩兵の上位を占め,民会では優先投票権を得た。前4~前3世紀になると,軍団騎兵の戦力は低下し,平民の騎兵で増強しても実効は得られなかったため,実戦には同盟者の騎兵をあて,制度上の特権と地位を保った。この名目的騎兵として新興の富裕市民,特に海外交易や徴税請負で巨富を得た平民が登録され,前2世紀,元老院議員身分の形成を機に騎士身分が成立した。政権から除外された大資産家の騎士たちはグラックス兄弟の改革以降,元老院支配の対抗勢力をなし,スラの弾圧を被る。帝政期には元首が富裕市民を騎士に登録した。騎士身分は軍団将校,各種の財務管理職から穀物供給長官,エジプト総督,親衛隊長まで元首所管の職を占めて元首権力を支え,やがて元老院議員身分をしのいで帝国統治機構を担った。
→騎士
執筆者:鈴木 一州
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エクィテス
えくぃてす
equites ラテン語
古代ローマの騎兵、騎士身分。エクエスequesの複数。共和政初期には、1800人の騎兵が国家から馬匹購入、維持費の支給を受け(官給馬騎兵)、特別の服装をし、ケントゥリアcenturia(100を意味し、軍団の最小単位であるが、ここでは民会の投票単位)民会で騎兵18ケントゥリアで投票するなど特権的扱いを受けた。紀元前400年ごろには、彼らと並んで私有馬騎兵が現れたが、前3世紀にはローマ軍団での騎兵の重要性が低下し、前120年代には元老院議員が騎兵18ケントゥリアで投票しなくなったことに加えて、ガイウス・グラックスが騎士にアシア州の徴税請負権を与え、また属州総督の不法搾取を裁く法廷の裁判官の地位を彼らに明け渡したことなどから、エクィテスは騎士「身分」となった。彼らはいまや、ローマ市のみならずイタリア諸都市出身の、自由生まれの土地所有者から構成され、政治に進出せず、商業や国家事業請負などの経済活動に携わる有産支配層となり、やがて初代皇帝アウグストゥスの体制を支えた。アウグストゥスは儀式用に、元老院議員の息子からなる騎兵隊を新編成し、また法廷の裁判官としての騎士の再編成に努めた。一方、帝政期には、属州在住者を含むローマ市民権保持者で40万セステルティウスSestertius(銀貨の単位)以上の価値の土地を所有する有産層という広義の騎士身分の大群が存在し、彼らのなかから帝国の官職につく者が現れ、その子供の世代には元老院議員となる者も少なくなかった。3世紀以後は重要な帝国官職は元老院議員ではなく、騎士の手に握られた。
[弓削 達]
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エクイテス
equites
古代ローマの騎士 (階級) 。元来騎馬で軍務に服する者を意味し,セルウィウス・ツリウス制ではパトリキ (貴族) ,プレプス (平民) の 18ケンツリア (百人組) ,計 1800人が定められた。しかし次第に騎兵の戦術的価値が減じ,騎士はむしろ財産区分による階級をさすようになり,第2次ポエニ戦争後,軍事的職能が失われてくると,徴税請負人,金融業者,大商人などが属する階級の総称となっていく。その傾向は前 218年クラウディウス法が元老院議員を商業金融から締出して,騎士と区別したことによって促進され,G.グラックス (→グラックス兄弟 ) が 40万セステルチウスの財産資格を有する階級として,騎士身分を創設したことによって完成した。彼らは高官につかず,徴税請負,公共事業,貿易に従事した。また属州総督の不当取得法廷に介入して,元老院議員階級と抗争した。帝政期以後は帝権の支えとなり,近衛長官,エジプト総督は騎士の最高官職であった。4世紀以後政治的な力を失った。
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エクイテス
古代ローマ社会の一身分で騎兵,騎士の意。元来は騎馬で軍務に服する人をさしたが,第2ポエニ戦争ころから商業および国営事業担当者,特に徴税請負人として勢力を伸ばし,元老院身分に次ぐ社会層となった。帝政期には皇帝直属の高級官僚の地位を占めた。
→関連項目騎士
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エクイテス
equites
古代ローマの貴族以外の新興の富裕層・騎士階級のこと
本来は騎馬で軍務に服す資格ある者を意味したが,第2回ポエニ戦争以後,元老院議員が法律により商業に従事できなくなり,この騎士階級が国営事業や徴税の請負,金融などを独占して行った。元老院に対抗して共和政末期の政治に大きな影響を与え,一部は貴族と結んでノビレス(新貴族)となった。
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世界大百科事典(旧版)内のエクイテスの言及
【貴族】より
…元老院を中核とする貴族勢力は帝政のもとでも存続し,皇帝によるパトリキの新設もときに行われたが,2世紀以降,大土地所有制の変質による社会の構造変化にともない,伝統的な貴族支配の原理は力を失っていった。すでに共和政のもとで,国家から給付を受ける騎士([エクイテス])身分が形成され,これがやがて元老院貴族に次ぐ有力な階層として国営事業や徴税請負を独占し,その財力により帝政後期の政界で大きな力を振るった。
[中世]
古ゲルマンの社会では,初期の自由人たる農民・戦士の共同体が,土地所有関係の変動を通じてしだいに解体し,農民と区別される軍事的な貴族身分が諸部族の指導層となった。…
※「エクイテス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」