オシドリ(英語表記)Aix galericulata; mandarin duck

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オシドリ」の意味・わかりやすい解説

オシドリ
Aix galericulata; mandarin duck

カモ目カモ科。全長 48cmで,アメリカオシに近縁の水鳥。生殖羽(→羽衣)の雄はが赤く先が白い。頭上の羽毛は赤褐色で,後ろに長く伸び冠羽(→羽冠)となる。冠羽の下は嘴基部から眼を通った線の上まで半月状に白い。その下の頬,耳羽は赤褐色で,羽毛が長く伸びひげ状にたれる。胸は紫色で,胸脇には白黒各 2本ずつの縦線模様がある。その後方の脇は赤錆色で,さらに後方の両側にイチョウ型の赤栗色の羽毛が立ち,独特な姿を見せている。雌は眼輪が白く,眼の後方にも白線が伸びているが,全体に暗褐色で地味である。山地の渓流や湖にすみ,アメリカオシと同様にその付近の巨木の樹洞など穴内に営巣する。おもに草食だが,昆虫やミミズなども食べる。季節になるとシイ,カシ,ミズナラなどの堅果を好んで採食し,森の中を歩きまわることもある。中国東部,ロシア南東部,朝鮮半島タイワン(台湾)など東アジアに分布し,日本でも全国で繁殖しているが,北にすむ鳥は冬季には本州以南に渡って越冬する。おしどり夫婦といわれ,雌雄の仲がよいたとえにされるが,同じ相手とつがうのは一繁殖期かぎりで,つがい相手は毎年変わる。子育ては雌のみが行なう。(→ガンカモ類

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「オシドリ」の意味・わかりやすい解説

オシドリ
おしどり / 鴛鴦
mandarin duck
[学] Aix galericulata

鳥綱カモ目カモ科の鳥。中国東北部、朝鮮半島、日本に分布し、雄には鳥類中でもっとも美しいとみられる飾り羽がある。いちょう羽、思い羽、剣羽ともよばれるこの羽は、三列風切(かざきり)第1羽の変化したものである。繁殖が終わると飾り羽は脱落し、同時に美しい冠羽や頬(ほお)の飾り羽も落ち、全体に雌に似たエクリプス羽色(非繁殖羽色)となる。ただ、この時期でも嘴(くちばし)が雌と違い赤色である。雌は全般に灰褐色で、胸とわきには太い灰色の斑(はん)が並び、目の周りが白い顔に特徴がある。体形は全長約45センチメートルで小形ガモ類に似るが、やや足が長い。樹上性で、山地にある川や湖の岸近い森林など水際の暗い所を好み、どんぐりを好んで食べる点も他のカモ類と異なる。皇居平地の公園などでも、林がある池のほとりにすみ、樹洞に営巣し巣箱も利用する。孵化(ふか)してまもない綿羽の雛(ひな)は、雌親の声に応じて自ら地上に飛び降りる。一夫一妻で、「オシドリ夫婦」の由来となっているが、冬の群れでは雄の数が圧倒的に多く、このなかには非繁殖雄が多いと考えられる。この現象は、外形を美しく飾った性(オシドリでは雄性)に多くみられるものである。これは、他の性(オシドリでは雌性)が多くの雄のなかから、より美しい雄を選んで繁殖行動をすることに起因し、雄の間に選ばれるための美飾競合がおこり、美化を促進するという結果をもたらすためと思われる。

 イギリスでは輸入、放鳥されて増殖し、自然個体群が形成されている。系統上は一般のカモ類と異なり、樹上カモ類であるバリケン族Cairiniに属している。近縁種にアメリカオシがあり、雄はまったく異なるが、雌は似ている。この両種は遺伝学的、生化学的、行動学的に複雑な類似および相違を示す。

黒田長久



おしどり

歌舞伎(かぶき)舞踊劇。長唄(ながうた)、常磐津(ときわず)。鴛鴦(おしどり)の雌雄によって、男女のむつみ合う情の深さを描いたものは、古くから浄瑠璃(じょうるり)、長唄、地歌などに扱われ、とくに舞踊では河津三郎(かわずのさぶろう)と股野(またの)五郎角力(すもう)の話に結び付けて脚色されていたが、ほとんど絶えていたのを、6世中村歌右衛門(うたえもん)が1954年(昭和29)3月歌舞伎座における自己の研究公演「莟会(つぼみかい)」で、『鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと)』の外題(げだい)により復活上演。以来、歌舞伎でも一般でも行われている。原曲は富本(とみもと)の『四十八手恋所訳(しじゅうはってこいのしょわけ)』(1775)で、これを改曲した常磐津の『鴛鴦(いもせどり)容姿(すがた)の正夢(まさゆめ)』(1828)、さらに富本の『恋角顔競(こいずもうねやのかおぶれ)』および『鴛鴦襖聞睦(おしのふすまきいたむつごと)』(1847)などをもとに歌詞と曲がつくられた。上の巻「角力」は河津と股野が傾城(けいせい)喜瀬川の行司で相撲をとり、敗れた股野が河津を呪咀(じゅそ)するため鴛鴦の雄を射て、その血を得るまで、下の巻「おしどり」は傷ついた雄鳥の精が雌鳥とともに人間の男女の姿で現れ、股野の企てを妨げる話。古風な上の巻、幻想的で凄艶(せいえん)な下の巻、それぞれに見どころは多い。

[松井俊諭]

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改訂新版 世界大百科事典 「オシドリ」の意味・わかりやすい解説

オシドリ (鴛鴦)
mandarin duck
Aix galericulata

カモ目カモ科の鳥。雄は全長約48cm,雌は約41cm。中国東北,沿海州,サハリン,日本などに分布し,寒冷地で繁殖するものは,冬季中国東部,台湾で越冬する。またヨーロッパの一部にも放鳥されたものが自然繁殖している。日本では留鳥または漂鳥として全国に分布し,林に囲まれた山地の湖沼,河川などにすむ。大木の樹洞に営巣し,6~8月ころ1腹7~12個の卵を産む。孵化(ふか)した雛は親に従って水上に飛び降り,雌親に養育される。雑食性で,種子,水草の根,穀物,水生の昆虫類や各種小動物を食べ,秋には木の実,とくにどんぐり類を好んで食べる。繁殖期の雄は非常に美しく,頭は扁平で,冠羽状の形をしていて,くちばしは赤い。頭上は緑黒色,顔は淡黄色,くびからほおにかけての細長い羽毛は赤黄色,胸は紫黒色,わきは黄褐色,胸には橙褐色のイチョウの葉の形をした羽がよく目だつ。雌は暗褐色でじみ。クイッというかん高い声を出す。雄の非繁殖羽は雌によく似ているが,くちばしは赤色をしている。多くの場合つがいか小群で見られるので,仲のよい鳥の代表のように思われ,昔から〈鴛鴦の契(えんおうのちぎり)〉とか〈おしどり夫婦〉などということばがあるが,実際は,つがいは毎年新しくつくられる。雄の美しい羽毛は,つがいになるときに雌を引きつけるためのディスプレーに用いられる。
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百科事典マイペディア 「オシドリ」の意味・わかりやすい解説

オシドリ

ガンカモ科の鳥。翼長23cm。夏は雌雄ほとんど同色だが雄の冬羽は美しいので有名。東アジアに分布し,日本では全国の山地の湖などで繁殖,冬は暖地へ移る(留鳥または漂鳥)。ヨーロッパへも移入され野生化している。大きな木の穴に営巣し,木の実,穀類などを食べる。番(つがい)が小群で生活する。

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