オーストラリア文学(読み)オーストラリアぶんがく(その他表記)Australian literature

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オーストラリア文学」の意味・わかりやすい解説

オーストラリア文学
オーストラリアぶんがく
Australian literature

オーストラリアで創作された文学作品の総称。文字をもたなかったオーストラリア大陸の先住民アボリジニの口承文芸は歌,詠唱,物語から成っている。その内容は,アボリジニの神聖な祖先による万物創造にまつわる神話的概念である。彼らはこのような物語をごく幼い頃からおりにふれて,繰返し聞いたり歌ったりしながら成長し,その内容は次第に複雑なものになっていく。つまり彼らは,これらの物語を通じて文化としての神話を知るばかりでなく,先祖足跡をたどり,食物水源がどこにあるか,何が危険で何が安全か,いわば生きるために必要な地勢学を学ぶのである。
植民時代の初期 (1788~1880) に書かれた文学は,回想録や記録文書,故郷のイギリスの人々に新大陸オーストラリアの万物や,そこでの冒険を報告する意図で書かれた小説である。最初の小説,H.セーバリの『クインタス・サービントン』 (1830~31) は,著者自身の人生に基づいて1人の流刑囚を描いた。 M.クラークの『彼の自然生活の期間』 (74) は,流刑囚生活の実情を激しく告発している。 R.ボールダーウッドは,元流刑囚の山賊や金鉱掘りの生活をロマン化して描いた『武装盗賊』 (88) などの小説で人気を得た。 H.キングズリーは『ジェフリー・ハムリンの思い出』 (1859) などの作品で,オーストラリアの開拓生活のきびしさを赤裸々に描いた。 1880年から 1940年までの時期には,連邦政府の成立 (1901) によって国家としての基盤が固まり,ナショナリズムが成熟してオーストラリア国民としての自負をより率直に描く小説が生れた。この時期の最も傑出した作家 H.H.リチャードソンが書いた3部作『リチャード・マホニーの資産』 (17~29) は,オーストラリアの都会に住む移民の生活を徹底的にリアルに描いている。またこの時期には,アボリジニ絶滅の危機や,この国の根底にある開拓者気質を強調した作品が注目された。 M.フランクリンは『わが輝かしき生涯』 (1901) で,オーストラリア開拓の歴史をたたえ,成熟しつつある愛国心を描いた。 A.L.ゴードン,H.ケンドルらの初期の詩人たちは,イギリスのロマン派詩人の伝統的なスタイルをそのまま受継いだが,ゴードンの『ブッシュバラッドとギャロッピング・ライム』 (1870) でオーストラリア独自のスタイルが登場した。 A.B.パターソンのバラッド形式の詩や,H.ローソンの労働者階級を描いた短編の数々は,1890年代にオーストラリアの週刊紙『ブレティン』にしばしば取上げられた。
第2次世界大戦後では,『人間の木』 (1955) ,『ボス』 (57) など数々の作品で称賛を得たのち,1973年にノーベル文学賞を受賞した P.ホワイトが,オーストラリアが生んだ最大の作家とされる。 C.ステッドはオーストラリアやヨーロッパを舞台にした小説で,経済的苦境にあえぐオーストラリアの状況を描いた。 M.ボイド,R.ストー,T.ケニーリーらの活躍も注目される。 1970~80年代の小説家としては T.アストレー,R.マクドナルド,S.ハザード,C.J.コーチらがあげられる。詩の分野では,J.ライトが伝統的なオーストラリアのイメージとモダニズムの技巧とを結合させ,A.D.ホープや D.スチュアートらと並んで,20世紀を代表する詩人と位置づけられている。戯曲はオーストラリア文学のなかで最後に確立されたもので,50年代以降,ホワイトや R.ローラー,スチュアート,A.シーモーらが,社会の不安や国家としてのアイデンティティを追求した悲劇を書いた。また,K.ウォーカー (本名 Oodgeroo Noonuccal) や C.ジョンソン (本名 Mudooroo Narogin) ,J.デービスといったアボリジニ作家も活躍している。

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