カドミウム中毒(読み)カドミウムちゅうどく(英語表記)Cadmium poisoning

精選版 日本国語大辞典 「カドミウム中毒」の意味・読み・例文・類語

カドミウム‐ちゅうどく【カドミウム中毒】

〘名〙 カドミウムによる中毒急性のときは、上気道、肺に及ぶ激しい炎症をおこして死亡することもある。慢性のときは、嘔気消化器障害のほか、骨、腎臓などに異常をきたす。→いたいいたい病

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デジタル大辞泉 「カドミウム中毒」の意味・読み・例文・類語

カドミウム‐ちゅうどく【カドミウム中毒】

カドミウム粉塵蒸気の吸収や経口摂取によって起こる中毒。急性では上気道炎・肺炎などを起こして死亡することがあり、慢性では嘔気おうきのほか、消化器・腎臓・骨などの障害を生じ、イタイイタイ病が典型例。

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六訂版 家庭医学大全科 「カドミウム中毒」の解説

カドミウム中毒
カドミウムちゅうどく
Cadmium poisoning
(食中毒)

どんな中毒か

 カドミウムは、亜鉛(あえん)(なまり)などを精錬した際の副産物として得られる金属で、近年、広く応用されています。そのため、鉱山や廃棄物による環境汚染によって、水や農産物の汚染を引き起こします。

 過去に、富山県神通川流域においてイタイイタイ病が発生しましたが、カドミウムの長期摂取が主な原因とされています。

症状の現れ方

 経口摂取によって急性中毒が起こると、吐き気嘔吐腹痛下痢が現れますが、すみやかに回復します。

 一方、慢性中毒の場合は腎臓が侵されます。近位尿細管(きんいにょうさいかん)上皮細胞が障害を受け、蛋白尿、アミノ酸尿、糖尿がみられます。また、カルシウムが失われるので、骨軟化症(こつなんかしょう)も起きます。

検査と診断

 尿検査によるβ2­ミクログロブリン(通常は近位尿細管で再吸収される)の検出が、最も早期に観察されます。

 WHO(世界保健機関)などによる「環境保健クライテリア」(国際化学物質安全性計画の活動のひとつ)によると、長期間毎日140~260㎍のカドミウム、または総量として2000㎎以上のカドミウムを摂取すると、尿中低分子蛋白の増加が観察されるといわれています。

治療の方法

 経口摂取による急性中毒では、胃洗浄やEDTA(1日に1g)などのキレート薬の投与が行われます。慢性中毒に対しては、キレート療法は行えません。まず、カドミウムを含む食品や水の摂取をやめることです。

食品の規格基準

 食品衛生法では、米粒(玄米)中のカドミウム濃度は1.0ppm未満とされています。また、0.4ppm以上1.0ppm未満の米粒は、食用として流通しないように措置されています。国際食品規格で精米中のカドミウム濃度が日本が提案した0.4ppm以下と決まりましたが、日本でも同水準に改正される予定です。

 清涼飲料水やミネラルウォーター類を製造する原水の基準および水道水質基準では、カドミウムは0.01㎎/ℓ以下とされています。なお、ミネラルウォーター類の原水基準は削除され、同じ基準が生分規格(製品基準)として、暫定的に設定される予定です。

米谷 民雄

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カドミウム中毒」の意味・わかりやすい解説

カドミウム中毒
かどみうむちゅうどく

カドミウムのフューム(煙霧状粉末)を吸入するか、または経口的に摂取することによっておこる中毒をいう。以下、カドミウムの吸入および経口摂取時における毒性について述べる。

[重田定義]

吸入毒性

酸化カドミウムのフュームを大量に吸入すると急性中毒をおこす。初めは鼻やのどの痛み、頭痛、めまい、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢などの症状が現れ、その後に胸痛、粘液性の痰(たん)を伴う強い咳(せき)、呼吸困難とチアノーゼなどの肺水腫(すいしゅ)の症状がおこる。この肺の症状が早く出るようなときには生命の危険もある。死に至らない場合は3日(72時間)以内に回復し始め、7~10日で気管や気管支、肺の血管周囲に線維化がみられる。また、カドミウムのフュームを長期間吸入することにより生ずる慢性中毒としては、肺気腫、胃腸障害、腎(じん)障害などがあり、とくに分子量2~3万の低分子タンパク質が尿中に出現することが特徴である。

[重田定義]

経口毒性

大量に摂取すると、短時間で嘔吐と下痢を伴う急性胃腸炎がおこる。また、経口摂取が続くと、胃腸炎のほかに、頭痛、口中の金属味、体重減少、肝障害、腎障害がおこる。なお、長期にわたってカドミウムを摂取することが基盤となっておこった疾患に、公害病として知られるイタイイタイ病がある。カドミウムの労働衛生上の許容濃度は、1立方メートル中0.1ミリグラムである。

[重田定義]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カドミウム中毒」の意味・わかりやすい解説

カドミウム中毒
カドミウムちゅうどく
cadmium poisoning

金属元素であるカドミウムが経口的または吸入によって体内に入り,中毒症状を起す現象をいう。経口的な急性中毒では,嘔吐,下痢,腹痛などの胃腸症状が出る。気道からの吸入による急性中毒では,喘鳴,胸痛,呼吸困難などが起る。また慢性中毒では,肺気腫,腎障害,胃腸障害,全身衰弱などをきたす。カドミウムによる中毒は産業中毒が多い。イタイイタイ病は工場廃水の経口摂取によるカドミウムの慢性中毒が基盤となって発生するとみられている。

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世界大百科事典(旧版)内のカドミウム中毒の言及

【カドミウム】より

…動力炉(PWR)では,Ag‐In‐Cd合金が,各元素の中性子吸収特性を補いあってハフニウムに匹敵する特性を示すものとして,ハフニウムの代替用合金として開発され,使用されている。【水町 邦彦】【後藤 佐吉】【大久保 忠恒】
[人体への影響]
 カドミウムおよびその化合物は有害物質であり,それらの蒸気または粉塵(ふんじん)を吸入することによってカドミウム中毒をおこし,カドミウムを取り扱う作業者に咽喉の刺激感,頭痛,めまいに端を発し,嘔吐,呼吸困難,胸痛等の症状を呈する急性中毒,肺気腫,腎機能障害を主要症状とする慢性中毒の発生がみられている。作業者の健康障害を予防するため,作業場内の空気についてカドミウムの許容濃度は0.05mg/m3と定められている。…

※「カドミウム中毒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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