翻訳|kanamycin
1957年梅沢浜夫が長野県の土壌中の放線菌Streptomyces kanamyceticusの培養液から分離し命名した,ストレプトマイシンと同じアミノ配糖体に属する抗生物質。日本薬局方名は硫酸カナマイシンC18H36N4O11・xH2SO4。水溶性塩基性物質で,無色の結晶で,一硫酸カナマイシン(硫酸1分子を含むカナマイシン)は水に約360mg/ml溶ける。水溶液ではきわめて安定で,100℃に加熱しても力価の低下はない。グラム陽性菌,グラム陰性菌,抗酸菌などの発育を阻止し,とくに結核菌では,ストレプトマイシンなど1次抗結核薬に耐性の菌の多くはカナマイシンに感受性をもつことから,発見以来注目され,世界各国で用いられるようになった。日本で見いだされた世界に誇るべき抗生物質の一つといえる。作用は殺菌的で,作用機作は細菌のタンパク質合成を阻害する。腸内感染症の場合は内服で用いるが,腸管からの吸収が悪いため通常は筋肉注射で用いられる。耳鳴り,めまい,難聴など第8脳神経(内耳神経)障害があるので,長期にわたって使用する場合は聴神経への副作用に注意が必要である。なお,カナマイシンより抗菌活性,毒性がともに高いカナマイシンB(2′-アミノ-2′-デオキシカナマイシン)がカナマイシン産生菌より得られカネンドマイシンと呼ばれるが(WHOではベカナマイシンと呼ぶ),これは広く一般細菌感染症(結核を除く)に注射薬として用いられる。さらにこれは,多剤耐性の腸内細菌,緑膿菌などに対して有効な新カナマイシンであるジベカシン(3′,4′-ジデオキシカナマイシンB)の合成の出発物質としても利用される。梅沢浜夫らは,カナマイシン耐性菌の耐性機構を研究した結果,カナマイシン不活化酵素であるアセチル転移酵素,リン酸転移酵素を耐性菌が産生していることを見いだし,この酵素の影響を受けないカナマイシン誘導体の合成研究を行い,耐性菌にきわめて有効なジベカシンの開発に成功した。ジベカシンの開発は,耐性機構の研究に基づいて有効な物質を開発するという方法論を確立したことを意味する。
→抗生物質
執筆者:鈴木 日出夫
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代表的なアミノグリコシド(アミノ糖)系抗生物質の一つ。日本薬局方名は硫酸カナマイシン。1957年(昭和32)梅沢浜夫らが長野県の土壌中から発見した放線菌ストレプトミセス・カナミセティックスStreptmyces kanamyceticusの培養液中に産生するが、化学的方法による全合成にも成功しており、耐性の理論も確立している。白色ないし黄白色の粉末で、水に溶けやすく、注射剤と内服剤がある。幅広い抗菌力をもち、連鎖球菌とクロストリジウムを除くグラム陽性菌、グラム陰性菌、抗酸菌、放線菌、レプトスピラに有効であるが、真菌、リケッチア、ウイルス、原虫には作用しない。抗結核剤として用いられるほか、グラム陽性菌・陰性菌による気道感染症、尿路感染症、淋菌(りんきん)感染症、細菌性下痢、赤痢などに適用される。消化管からは吸収されず糞便(ふんべん)とともに排出されるので、内服は腸管感染症に限って用いられる。注射による副作用としては第8脳神経(内耳神経)障害や腎(じん)障害があるが、内服の場合は腎不全以外の症例では副作用の心配はない。カナマイシンをベースにして、ベカナマイシン、ジベカシン、アミカシンなど、おもにグラム陰性菌の耐性化を受けにくいアミノグリコシド系抗生物質が開発された。
[幸保文治]
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…塗抹陰性で空洞のない患者では,初めからINHとRFPの2者併用で,治療期間は6~9ヵ月とする。上記の処方中の抗結核薬のいずれかに耐性が生じたり,副作用で使えないときには,その薬に代えて他の薬を用いることになるが,効果と副作用からみて用いやすいのはカナマイシンkanamycin(KMと略記),エチオナミドethionamide(THと略記)などである。ピラジナミドpyrazinamide(PZAと略記)は欧米では高く評価され,短期化学療法の当初2ヵ月くらい用いられているが,副作用が強く日本では多くは使われていない。…
…国立予防衛生研究所部長,東大教授,微生物化学研究所長を歴任。第2次大戦末期,長兄の純夫らとともにペニシリンの分離に成功したのをはじめ,カナマイシン,ブレオマイシンなど多数の新抗生物質,および酵素阻害物質の発見をなした。ことに制癌剤の分野で新境地を開き,免疫修飾物質の研究に及んだ。…
…それ以降,いっそうすぐれた抗生物質を得る方法として,抗生物質の半合成は,リファマイシン類,テトラサイクリン類,アミノ配糖体,マクロライド抗生物質類その他に広く用いられ成果をあげている。梅沢浜夫は,ストレプトマイシン耐性結核菌に有効なカナマイシンを発見したが,カナマイシン耐性機構の研究から,リン酸転移酵素やアセチル化酵素などによる不活化機構を見いだし,これらの酵素の作用を受けないジベカシンの合成に成功した。耐性機構に基づいて有効な物質を得る方法論を築いたといえる。…
…日本ではこの三つの薬の長期間(2年以上)併用が標準化学療法として行われ,肺切除術の安全性も非常に高まったため,かつて〈気胸と成形〉を主とした肺結核治療は,〈化学療法と肺切除〉を主とした様相を呈するに至り,結核死亡率は著しい減少を示した。その後ピラジナミド,エチオナミド,カナマイシン,エタンブトールなどが相次いで開発され,これに続いて66年,イソニアジドと同等の殺菌力をもったリファンピシンが登場した。このリファンピシンの登場は,これまでの化学療法の限界を打破するきっかけとなった。…
※「カナマイシン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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