日本大百科全書(ニッポニカ) 「シジウィック」の意味・わかりやすい解説
シジウィック
しじうぃっく
Nevil Vincent Sidgwick
(1873―1952)
イギリスの化学者。オックスフォードの生まれ。化学結合論、とくにその配位結合理論に関する業績で知られる。1892年オックスフォード大学入学、1895年ドイツ留学、ライプツィヒのオストワルト研究所で学び、病気のため一時帰国。のち、ドイツのチュービンゲン大学で有機化学を研究、1901年学位取得、リンカーン・カレッジを経て、オックスフォード大学教授となった。
その業績は、含窒素有機化学、原子価論、化学結合論、構造化学などにわたるが、とくに配位結合理論の展開がその中軸となるものである。1914年、学会に赴く途中、同船したE・ラザフォードとの出会いが、彼の研究にとって一つの転機となり、原子価論、化学結合論の研究に入っていった。N・ボーアの前期量子論としての原子構造理論が出された翌年のことであり、1916年には、G・ルイスの原子価論(八電子則)、W・コッセルの静電的原子価論、1919年には、I・ラングミュアの八隅子理論などが発表された。こうした流れのなかで、シジウィックは、19世紀末提起されていたA・ウェルナーの配位説を電子対供与で説明する配位結合理論を展開したのである(The Electronic Theory of Valency, 1927年)。その理論は、引き続く量子力学の適用を土台とした今日の化学結合理論体系のなかへと包摂されていった。王立学会会員(1922)、イギリス化学会会長(1935~1937)。
[荒川 泓]