シーラカンス(英語表記)coelacanths

精選版 日本国語大辞典 「シーラカンス」の意味・読み・例文・類語

シーラカンス

〘名〙 (coelacanth) 硬骨魚類総鰭亜綱シーラカンス目に属する魚類の一系統の総称。古生代デボン紀から中生代白亜紀までの海に栄えた魚で、かつては化石としてだけ知られていたが、一九三八年にマダガスカル島近海で初めて生きているものが一尾捕獲され、その後現在までに数百尾が漁獲されている。体長一・九メートル、体重九〇キログラムに達する。体色は暗青色で白斑がある。体は長く、側扁する。体の各部に原始的な構造が見られ、「生きた化石」として動物学上貴重な魚とされている。脊柱管状で、「シーラカンス」の名もこの特徴による。ひれには柄部があり、特に胸びれ腹びれが大きい。鱗はコスミン鱗と称する特異な構造で三層からなっている。西インド洋熱帯域にあるコモロ諸島周辺にだけ分布している。水深一五〇~四〇〇メートルの岩礁域に生活し、魚類などを食べている。生息数は大変少なく、絶滅の危険がある。

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デジタル大辞泉 「シーラカンス」の意味・読み・例文・類語

シーラカンス(coelacanth)

《古代ギリシャ語で「中空の脊柱」という意味》シーラカンス目の魚類の総称。デボン紀に出現し白亜紀に絶滅したと考えられていたが、1938年に南アフリカで捕獲され、ラティメリアと命名された。体長1~2メートル。体表は硬い鱗で覆われ、硬い背骨の代わりに軟骨でできた中空の脊柱があり、うきぶくろは脂肪で満たされ、手足のように発達したひれをもつなど、現生魚類と異なる点が多く、脊椎動物の進化の過程を解明するうえで貴重な資料。繁殖集団の生息地として東アフリカのコモロ諸島周辺やタンザニア北部沿岸、およびインドネシアのスラウェシ島沖などが知られている。
[補説]ミトコンドリアDNA分析の結果から、アフリカとインドネシアのシーラカンスは3000~4000万年前に、コモロ諸島とタンザニア北部の集団は少なくとも20万年前に、遺伝的に分岐したと考えられている。

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改訂新版 世界大百科事典 「シーラカンス」の意味・わかりやすい解説

シーラカンス
coelacanths

硬骨魚綱総鰭(そうき)亜綱Crossopterygiiシーラカンス目に属する魚の総称。この類はおよそ4億年前の古生代デボン紀に出現し,各地の淡水域で生活していたもので中生代には海にも生息するようになった。多数の化石種が残されているが,7000万年ほど前の中生代白亜紀の終りまでに絶滅したと考えられていた。しかし,1938年に至り現存種のあることがわかった。これは翌年スミスJ.L.B.Smithによって記載公表されたが,属名のラチメリアLatimeriaは発見者のラティマーM.C.Latimerの名にちなみ,また種名は漁獲された場所が南アフリカ東岸のシャルムナ川の河口沖であったのにちなんでL.chalumnaeと命名された。その後,さらにマダガスカル島近海でこれと近縁Malania anjouanaeが発見されたが,前種と同一種ではないかといわれている。いずれにせよ,この類はこれまでの記録ではアフリカ南東沖コモロ諸島周辺の水深70~600m内外に多い。体は全身が一様に青褐色を帯び,厚い円鱗で覆われる。眼は小さい。胸びれと腹びれは葉状で,いずれも肢のような肉質の柄を備えている。このような対鰭ついき)の形態から進化の途上でこの類に近い祖先が原始的な両生類を派生したものと考えられ,脊椎動物が魚類から四足動物へ進化した当時の状態を知るうえで重要とみなされてきた。背びれは2基あり,これらとしりびれとの基部には厚い骨質の基底板がある。尾びれは上,中,下の3葉からなり,特異な形を呈する。頭蓋骨は眼の後方で前後の2部に分かれ,その間には軟骨があって可動性の関節をなしている。上顎(じようがく)骨も頭蓋骨と接着せず離れている。また内鼻孔をもたない。脊椎骨は椎体のくぎりがなく,管状になっている。腸にはらせん弁があり,うきぶくろは退化して,化石種では石灰化しているが現生種では中に脂肪を満たしている。筋肉は白身で,脂肪を多量に含み,加熱するとゼリー状になる。卵胎生で雌のほうが雄より大きい。全長150cm程度。本種は上述のようにさまざまな原始的形質を備えているので〈生きている化石〉といわれている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シーラカンス」の意味・わかりやすい解説

シーラカンス
Latimeria chalumnae; coelacanth

シーラカンス目シーラカンス科の海水魚。中生代に栄えたシーラカンス目魚類の遺存種で,「生きている化石」といわれる。全長 1.8mをこえる。1938年12月22日,南アフリカ共和国のイーストロンドン付近カルムナ川沖 3.5~10kmの場所で発見された。本種の種小名はこの川の名に,属名は発見者であるマージョリー・コートニー=ラティマー M.C-.Latimerに由来する。体はがっちりしており,腹鰭は腹位。胸鰭,腹鰭は葉状有鱗で,主軸となる骨列の両側には側骨列がある。現生種では最も原始的な硬骨魚類と考えられている。腸はサメ類のような螺旋弁をもつ。胎生。南西インド洋のモザンビーク海峡にあるコモロ諸島,マダガスカル島周辺などに分布する。

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百科事典マイペディア 「シーラカンス」の意味・わかりやすい解説

シーラカンス

硬骨魚綱総鰭亜綱シーラカンス目の魚の総称。英語名coelacanth。4億年くらい前に出現し,1億年前から衰え始め,約数千万年前に絶滅したと考えられていた。ところが1938年,南アフリカの南東海域で生きているシーラカンスの一種ラチメリア・カルムナエ(体長1.4m,体重58kg)が捕獲された。第2次大戦後,発見に努めた結果,1952年に2匹目のマラニア・アンジュアナエが捕らえられた。その後も捕獲報告は続くが,いずれもコモロ諸島周辺の水深70〜600mのところで漁獲されている。体長1.6m,体重80kgに達するものもあり,体はやや側扁。ひれには柄部があるのが特徴で,脊柱は管状になっている。形態には原始的な点が多いが,他面,陸生四足動物の祖先に近いともいわれる。現生種とは属も科も異なるが,化石も数多く知られている。
→関連項目アガシー遺存種

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世界大百科事典(旧版)内のシーラカンスの言及

【遺存種】より

…すなわち,アメリカのバイソンのように,かつては個体数が豊富であったのに少数しか残存していないもの(数量的遺存種),メタセコイアのようにユーラシアの広い地域に分布していたものが,現在は中国四川省の限定された狭い地域にだけ生き残っているもの(地理的遺存種),シャミセンガイのように5億年もの間,ほとんど変化することなく例外的にゆっくりと進化したもの(系統的遺存種),ゾウのようにかつてはたくさんの類縁種があったのに,現在では2種しか存在せず類縁種の数が少なくなったもの(分類的遺存種)などである。これらのカテゴリーは互いに関連しあい,シーラカンスなどの場合はすべての意味での遺存種といえるが,ゾウのような場合は系統的遺存種とはいえないし,よく遺存種として扱われているオーストラリアの有袋類は,厳密にはそうはいえない面もある。また環境の変化にかかわらず,以前の環境条件を反映しているものを環境的あるいは生態的遺存種とよぶこともある。…

【胎生】より

…一方,卵巣腔中にいる胚の方も発生の一時期にひじょうに大きなひれを発達させ,この表面から栄養を吸収しているらしい。シーラカンスも胎生魚である。子を口に含んで育てるマウスブリーダーのような魚や,背中の皮膚に凹所をつくり,そこで卵を孵化させるコモリガエルなども特殊な形式に分化した広義の胎生の一種であるといえよう。…

※「シーラカンス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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