デジタル大辞泉
「ジフテリア」の意味・読み・例文・類語
ジフテリア(diphtheria)
ジフテリア菌 の感染によって起こる、主として呼吸器の粘膜が冒される感染症。菌の繁殖部位により、咽頭 いんとう ジフテリア・喉頭 こうとう ジフテリア・鼻ジフテリア などの病型がある。心筋 や末梢 まっしょう 神経 が冒されることもある。感染症予防法 の2類感染症の一。小児がかかりやすいが、予防接種の普及で減少。
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ジフテリア
〘 名詞 〙 ( [英語] diphtheria ) ジフテリア菌の感染によって起こる急性伝染病 。感染症法 による、二類感染症の一つ。子どもがかかりやすく、主として呼吸器粘膜が冒される。潜伏期は二~五日。症状は菌が繁殖する部位によって著しくちがうが、いずれも冒された部位に、はがれにくい偽膜ができるのが特徴。咽頭ジフテリア、喉頭ジフテリア 、鼻ジフテリアが代表的。[初出の実例]「第四女阿文の実扶的利亜に罹り」(出典:熱海文藪(1884)〈成島柳北〉薬槽余滴)
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ジフテリア じふてりあ diphtheria
ジフテリア菌がおもに呼吸器の粘膜に飛沫(ひまつ)感染しておこる急性の感染症で、感染症予防・医療法(感染症法)により2類感染症に分類されている。流行期は冬であるが、都市部では年間を通じてみられる。かかりやすいのは幼児と小児で、10歳以上の年長児や乳児に少ないのも特色である。新生児は母体から免疫をもらっている場合が多い。予防接種の効果が顕著で、先進国ではまれな病気になった。しかし、旧ソ連圏では政権の崩壊の影響を受けてワクチン 不足となり、1991~1995年にジフテリアがふたたび大流行し、1994年には患者数4万4261人に及び、日本でも旧ソ連圏からの旅行者によるジフテリアの侵入を用心しなければならない事態が生じた。
[柳下徳雄]
菌の感染部位によって大きな差異があり、次のような病型に分類される。
[柳下徳雄]
ジフテリアの代表的な型で、2~5歳の幼児にとくに多く、潜伏期は2~7日。インフルエンザなど急性感染症の一般的全身症状(頭痛・発熱・だるさなど)が初期にみられ、咽頭(いんとう)痛とのどの奥にある口蓋扁桃 (こうがいへんとう)や咽頭粘膜の腫脹(しゅちょう)を伴う。扁桃に灰白色の苔(こけ)のようなものが点状または斑(はん)状に形成されるようになると、菌の検査で診断が容易になる。病勢が進むと40℃以上の高熱がしばしばみられ、もっとも特徴的な偽膜が扁桃部に生じ(発病後12時間前後)、頸(けい)部のリンパ節が腫(は)れてくる。膜様物の偽膜は剥離(はくり)しがたく、むりにはがすと出血しやすく、またすぐできることが多い。灰白色を呈するが、黄色または褐色のこともある。
重症になると、局所組織が破壊されて深部に潰瘍(かいよう)ができる。偽膜が口蓋、さらには喉頭(こうとう)にも広がり、呼吸困難から窒息死することもある。また同時に、菌の産生した菌体外毒素 によって心筋障害、腎(じん)障害、神経障害などをおこし、全身状態が悪化して1~2週間で死亡することがある。
[柳下徳雄]
喉頭ジフテリアは咽頭ジフテリアがさらにのどの奥に進んでおこることもあるが、最初から喉頭部が侵される場合もある。まず発熱し、のどがぜいぜいして喉頭に偽膜を生じ、それが広がるにつれて声がかれ、イヌの遠ぼえのような一種特有の咳(せき)をする。偽膜のために呼吸が妨げられ、放置すれば窒息死する。なお、かつては真性クループともよばれていた。
[柳下徳雄]
生後まもない乳児に多くみられるもので、血液の混じった飴(あめ)色の鼻汁を出し、偽膜は鼻孔内にあって見えにくい場合が多い。しかも、発熱はなく全身症状も比較的少なくて病気としては軽いため、鼻(はな)ジフテリアとは気づかれずに病原菌をまき散らす危険もある。
[柳下徳雄]
まれではあるが、皮膚の傷、新生児のへそ、眼結膜、女児の外陰部の粘膜などを冒すものもある。
[柳下徳雄]
ジフテリア外毒素による続発症としては、ジフテリア心筋炎とジフテリア後麻痺(こうまひ)が重要である。
[柳下徳雄]
早期と後発性に分けられる。早期ジフテリア心筋炎は、ジフテリアの発病後2週間以内に心臓衰弱として現れ、なかには1週間で心臓麻痺で死亡する例もある。後発性ジフテリア心筋炎は、発病後3~4週間以後におこり、突然心臓麻痺で死亡する場合もある。いずれも顔面蒼白(そうはく)、腹痛、嘔吐(おうと)、不整脈、血圧降下などの症状がみられ、急に失神や呼吸困難を訴える。
[柳下徳雄]
ジフテリアの回復期に末梢(まっしょう)神経が毒素に冒され、軟口蓋、眼筋、四肢の筋肉などが麻痺する。重症で、血清使用が遅れるほど広範囲にみられ、ひどいときは横隔膜が麻痺して呼吸困難から窒息死に至ることもある。一般には7~10日くらいで麻痺は回復する。続発症としては、もっとも多くみられる。
[柳下徳雄]
ジフテリア外毒素が神経や心筋に達しないうちに、できるだけ早期に治療することが必要である。すなわち、抗毒素血清 を可及的早期に十分量使用する。また、ペニシリン やマクロライド系の抗生物質(エリスロマイシン )などを併用する。窒息の危険が認められるときは気管切開 をするが、偽膜が気管の下部まで詰まっている場合には救命できないこともある。血清病の発現には絶えず注意する。病初2週間の絶対安静と、回復期も約1か月くらいは安静を守ることも必要である。
[柳下徳雄]
ジフテリア患者は認定した医師の届出を受けた保健所長により、感染症指定医療機関 (病院)に入院して治療を受けることが勧告される。予防には予防接種が有効で、法律によって定期接種 を受けることが国によって勧奨され、定期接種を受ける年齢になると、居住地域の市区町村役場から通知がある。接種方法は第Ⅰ期(初回・追加接種)と第Ⅱ期があり、第Ⅰ期の定期接種には「沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPTワクチン )」が使われ、第Ⅱ期定期接種には「ジフテリア破傷風混合トキソイド (DTワクチン)」が使われるのが通例である。
第Ⅰ期の初回接種は、生後3か月から12か月までの期間に3~8週の間隔を置いて3回、毎回0.5ミリリットルずつ皮下注射する。第Ⅰ期の追加接種は、初回接種完了後6か月以上の間隔を置いて、12~18か月の間に1回行う。
第Ⅱ期定期接種は、11~12歳、すなわち通常は小学校6年生に行われる。
[柳下徳雄]
ジフテリアの病原体で、コリネバクテリウムCorynebacterium 属の代表菌種。1883年ドイツの細菌・病理学者クレプスが患者の咽頭偽膜中より発見し、翌年レフラーF. A. J. Löffler(1852―1915)が純粋培養 に成功した。グラム陽性菌 で、長さ1.0~8.0マイクロメートル 、幅0.3~0.8マイクロメートルの一端が棍棒(こんぼう)状に膨大している桿菌(かんきん )である。光学顕微鏡下ではV字状あるいは柵(さく)状配列を示すが、これは分裂前後の形態の相違によるもので、電子顕微鏡下で確認される。鞭毛(べんもう)はなく、運動はしない。テルル酸塩加血液寒天培地上の集落性状によって3型に分類される。また、ある特定のファージ が感染することによってジフテリア菌は毒素を合成するようになる。この菌体外毒素がジフテリアの主要病状の原因となり、感染防御抗原ともなる。
[柳下徳雄]
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ジフテリア(Gram 陽性悍菌感染症)
(2)ジフテリア(diphtheria)
定義・概念
ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae )の感染によって起きる急性感染症がジフテリアで,扁桃,咽頭,喉頭などの感染部位の気道粘膜に偽膜を形成し,偽膜により気道閉塞を,局所で産生された菌体外毒素により心筋障害,神経麻痺を起こすのが特徴である.主病巣の部位により,鼻,咽頭,喉頭,皮膚ジフテリアなどがあり,咽頭ジフテリアが最も多い. ワクチンの普及により国内の患者は1960年以降急激に減少しており,1999年に死亡例が1例報告されて以降患者発生はないが,ワクチン非接種者における流行がありうるので,輸入感染症として注意する必要がある. 飛沫感染により患者および健康保菌者からヒト-ヒト感染を起こし,潜伏期間は1~7日程度である. ジフテリアは二類感染症であるため,診断した医師には直ちに所轄保健所へ届け出ることが義務づけられている.
病理・病態生理
保菌者からの飛沫により感染する.体内に達した細菌は上気道の粘膜で増殖し,毒素を産生する.この毒素は哺乳動物細胞の蛋白合成を阻害し,細胞の破壊,組織の壊死をきたし,さらに進行して偽膜を形成する.偽膜は厚く下部組織と強く結合するために剥離しにくいのが特徴である.無理に剥がそうとすると出血する.また軟部組織は浮腫状となり気道を圧迫する. 感染部位で産生された毒素は血中に入って全身に散布され,親和性の高い心臓,神経,腎臓に到達してこれらの臓器を傷害し,全身症状を呈する.毒素は抗毒素で中和が可能であるが,組織と結合するともはや中和はできなくなる.
臨床症状
潜伏期間は1~7日(2~4日が多い)で,症状は主病巣の部位によって異なる.
1)鼻ジフテリア:
乳児に多い型で,病初期は感冒と区別がつかない.鼻汁で始まり,鼻汁は次第に水様性から膿性へと変化し,膿痂疹様の発疹を伴い鼻中隔に偽膜がみられる.全期間中高熱はみられない.
2)咽頭・扁桃ジフテリア:
年長児や成人に多い型で,上気道炎症状に引き続き咽頭・扁桃に偽膜が出現する.炎症がさらに進行すると頸部リンパ節炎,軟部組織の浮腫を伴い牛頸(bull-neck)の外観を呈する. 軽症例は偽膜のみで治癒するが心筋炎,神経麻痺,循環不全を合併する場合もある.
3)喉頭ジフテリア:
乳児に多くみられる.原発性の場合と咽頭から波及する2つのタイプがある.症状は発熱,犬吠様咳嗽,嗄声で,偽膜によって気道が閉鎖されると呼吸困難を呈する.
その他皮膚に発赤,潰瘍を起こす皮膚ジフテリア,眼瞼結膜に浮腫,偽膜を起こす眼ジフテリア,耳ジフテリア,陰部ジフテリアがある.
検査成績
偽膜の一部を剥離して塗抹染色(Gram染色および異染小体染色),培養を行いジフテリア菌を確認する.PCR法によるジフテリア毒素 遺伝子の検出も有用である.ジフテリア毒素に対する免疫の有無を調べる方法としてShick試験,Molony試験がある.腎障害を合併した場合には蛋白尿,血尿が認められる.
診断・鑑別診断
偽膜の存在と感染局所からのジフテリア菌の証明が確定診断となる.鑑別しなくてはならない疾患としては,鼻腔内異物,喉頭異物,各種細菌およびウイルス(連鎖球菌 ,アデノウイルス など)による腺窩性扁桃炎,伝染性単核球症 ,仮性クループなどがあげられる.予防接種歴の確認は,鑑別診断に役立つ.
合併症
1)心筋炎:
抗毒素治療が遅れた重症例にみられる.発症後10~14日に頻脈,不整脈,心不全がみられる.心電図上ST上昇,PR延長,房室ブロックがみられる.
2)神経麻痺:
発症後3~7週間に出現し,軟口蓋麻痺,眼球麻痺,横隔膜麻痺 ,四肢麻痺がある.
経過・予後
偽膜による気道閉塞と,毒素による心筋障害,神経障害が問題となる.死因のほとんどは窒息と心筋障害であるが,早期に適切な処置を施せば,必ずしも予後は悪くはなく,最近の死亡率は1%以下である.
治療
血中の毒素の中和には抗毒素を用いた治療が行われる.馬血清(乾燥ジフテリアウマ抗毒素)を,発症48時間以内の咽頭・喉頭病変に対しては2万~4万単位,鼻咽頭病変に対しては4万~6万単位,発症後3日以上経過しているか頸部腫脹を伴う場合には8万~10万単位を目安として投与する.この場合感受性試験も含めてアナフィラキシー反応 に対応できる体制を整えておくことが必要である.
ジフテリア菌の早期の消失を目的として感受性のあるペニシリン系もしくはマクロライド系抗菌薬を投与する.投与期間は14日間とし,3日間連続培養により菌陰性化を確認する. 発症後最低2週間は絶対安静とし,心筋炎,気道狭窄に対する対症療法 を行う.気道狭窄が進行した場合には気管切開,気管内挿管が必要となる.
予防
予防にはジフテリアトキソイド を用いたワクチンを接種する.現在ジフテリア・百日咳・破傷風の3種混合ワクチン(DPTワクチン)として,生後3カ月以降の乳幼児に,ジフテリア・破傷風の2種混合ワクチン(DTワクチン)として11〜12歳の学童に接種が行われている.[岩田 敏]
■文献
Feigin RD, Stechenberg BW, et al: Diphtheria. In: Textbook of Pediatric Infectious Diseases, 6th ed (Feigin RD, Cherry JD, et al eds), pp1393-1407, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
加藤達夫:ジフテリア.感染症症候群Ⅰ(諏訪庸夫編),pp123-125,日本臨牀社,大阪,1999.
MacGregor RR: Corynebacterium diphtheriae. In: Principles and Practice of Infectious Diseases, 6th ed (Mandell GL, Bennett JE, Dolin R eds), pp2687-2693, Churchill Livingstone, New York, 2010.
出典 内科学 第10版 内科学 第10版について 情報
ジフテリア Diphtheria (感染症)
ジフテリア菌の飛沫 ( ひまつ ) 感染(くしゃみなど)で起こります。
日本は世界に先駆け、1981年以降に副反応の少ない精製ワクチンを使ってきました。患者さんの数は着実に減少し、数年に1名にまでになっています。
感染症法2類感染症に属します。
のどや鼻に菌が感染して、鼻みず(血が混じった粘液膿性)、高熱、のどの痛み、犬が吠えるような咳 ( せき ) などが出てきます。牛の首のように、首が大きくはれてくるのが特徴です。
のどに偽膜 ( ぎまく ) と呼ばれる白い膜ができて、窒息 ( ちっそく ) することもあります。菌の出す毒素によって、心筋障害や神経麻痺を起こすことがあるので注意が必要です。
疑わしい症状の時は、早急な治療が必要なので、早期診断が大切です。
正確な診断にはジフテリア菌を分離する必要がありますが、これには時間がかかります。ジフテリア・破傷風 ( はしょうふう ) ・百日咳 の三種混合ワクチン (DTP三種混合ワクチン)を接種していれば、ほぼ発病することはありませんから、ワクチン接種歴を母子手帳などで確認しておくことが大切です。区別する病気としては、鼻腔異物 、連鎖球菌による偽膜性扁桃炎 ( へんとうえん ) 、伝染性単核球症 ( でんせんせいたんかくきゅうしょう ) などがあります。
ジフテリア菌の出す毒素を中和することが重要です。このために、できるだけ早期に抗毒素を注射する必要があります。抗毒素は全国に数カ所備蓄しています。
予防接種が発病予防に有効です。DTP三種混合ワクチンとして、生後3カ月から接種できます。3~8週間隔で3回、1年~1年半後に追加接種します。11~12歳でのジフテリア・破傷風 追加接種(Ⅱ期)は最後の接種です。忘れずに接種してください。
疑わしい症状のある時は、できるだけ早く小児科または内科を受診してください。
伝染性単核球症
岡田 賢司
ジフテリア Diphtheria (子どもの病気)
ジフテリア菌によって、主に鼻やのどが侵される病気です。三種混合ワクチンの普及によりほとんどみられなくなりました。しかし、心筋炎 を合併すると死に至ることもあります。
ジフテリア菌の感染によります。
潜伏期間は2~5日で、感染者の痰やつばから感染します。鼻に感染すると鼻みずなどのかぜ症状が起きます(鼻ジフテリア)。のどに感染すると発熱やのどの痛みを来すようになります(扁桃 ( へんとう ) ・咽頭 ( いんとう ) ジフテリア)。さらに喉頭(空気の通り道の入り口)に感染すると声がかれたり、犬が吠えるような咳 ( せき ) を起こすようになります(喉頭ジフテリア)。
合併症としては、ジフテリア菌がつくる毒素により起こる心筋炎 に注意します。
ジフテリア菌を培養する検査で診断が確定します。しかし、心筋炎 を防ぐためにも早期の治療が必要なので、たいていは症状からジフテリアを推定し、すぐに治療を開始します。
毒素に対して効果のある血清を注射します。また、ジフテリア菌に効果のある抗生剤で治療します。
しかし、予防にまさる治療はありません。現在行われている三種混合ワクチンや二種混合ワクチンは予防効果が優れているので、必ず受けてください。
声がかれ、ケンケンという犬が吠えるような咳をした時はすぐに医療機関を受診してください。その時、三種混合ワクチンや二種混合ワクチンの接種歴も確認しておいてください。
大石 智洋
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」 六訂版 家庭医学大全科について 情報
家庭医学館
「ジフテリア」の解説
じふてりあ【ジフテリア Diphtheria】
[どんな病気か]
ジフテリア菌の感染によっておこる病気で、感染力が強く、致死率がかなり高いのですが、予防接種の普及で、比較的まれな病気になりました。
かかりやすいのは、幼児と小児で、乳児と成人は少ないものです。寒い季節に多発します。
[症状]
潜伏期は、2~5日です。感染部位によって症状がちがい、つぎの病型に分けられています。
■咽頭(いんとう)ジフテリア
急に38~39℃の熱が出て、のどが赤く腫(は)れて痛み、扁桃(へんとう)が灰白色(かいはくしょく)の偽膜(ぎまく)でおおわれます。
悪性の場合は、頸部(けいぶ)のリンパ節も腫れて痛み、菌の毒素で心臓の筋肉もおかされて血圧が下がり、発病後1~2週間で死亡することもあります。
■喉頭(こうとう)ジフテリア
38℃前後に発熱し、せきが出ます。しだいに声がかれ、イヌの遠ぼえのようなせきになります。偽膜が喉頭(のどから気管)に広がり、気管が狭くなるので、息を吸うたびにのどをぜーぜーいわせ、呼吸困難によって死亡することもあります(真性(しんせい)クループ)。
■鼻(はな)ジフテリア
鼻の中の粘膜(ねんまく)がおかされて偽膜ができ、鼻がつまります。鼻の入り口がただれ、鼻汁(びじゅう)に血液がまじることもあります。頻度の少ない病型です。
■その他
これらのほか、まれに、目の結膜(けつまく)、皮膚、新生児のへそ、女児の陰部などにジフテリア菌が病変をつくることがあります。
●合併症
後(こう)まひと、それにともなう肺炎(はいえん)、心筋障害による血圧の低下や心不全(しんふぜん)、ネフローゼなどがおこることがあります。
ジフテリアの後まひは、ジフテリア菌の毒素の作用でおこる運動神経のまひで、発病後2~3週間たったころおこります。
部位は軟口蓋(なんこうがい)のまひが多く、鼻声になったり、飲食物がうまく飲み込めず、むせたりします。眼筋(がんきん)におこると、ものが二重に見え、手足の筋肉におこると、歩行がうまくできなくなります。
後まひは長く残ることはまれで、3週間くらいで回復にむかいます。
●受診する科
小児科、内科、耳鼻咽喉科(じびいんこうか)のどこでも受診できます。感染症予防法で二類感染症に指定されているので、状況に応じて入院し、治療を行ないます。
●入院期間
ふつうの経過で、1か月くらいです。
届け出ると、学校は出校停止扱いで、欠席にはなりません。
[治療]
ジフテリアの抗毒素血清(こうどくそけっせい)を注射して毒素を無毒化し、抗生物質でジフテリア菌を撲滅(ぼくめつ)します。この際、以前、血清注射を受けたことのある人は、医師に報告しましょう。報告しないと血清病(けっせいびょう)(コラム「血清病 」)がおこることがあります。
窒息(ちっそく)の危険のあるときは気管切開をしますが、偽膜が気管の下部までつまっていると、生命を救えません。
●養生のポイント
軟口蓋がまひすると、飲食物が気管に入り、肺炎をおこします。飲食の際の姿勢に注意します。
毒素にいためられた心臓が、かなりたってから心不全をおこすことがあるので、安静の程度と期間について、医師の指示を守ってください。
[予防]
せきや会話で飛び散る飛沫(ひまつ)を吸い込むことで感染します。看護をする人はマスクをしましょう。
予防接種(予防接種とはの「[予防接種の種類]」)が有効です。
出典 小学館 家庭医学館について 情報
ジフテリア diphtheria
目次 合併症 治療 予防 ジフテリア菌によって発症する急性伝染病。ジフテリア菌Corynebacterium diphtheriae は1883年ドイツのクレプスEdwin Klebs(1834-1913)により患者の偽膜から発見されたグラム陽性の杆菌で,大きさ2~5μm×0.5~1.0μm,菌体内に異染小体とよばれる顆粒をもつ。ジフテリアは患者や保菌者からの飛沫感染によっておもに冬季に発病する。2~10歳の小児が多い。菌は咽頭や喉頭,鼻などの粘膜に増殖して毒素を産生し,組織を壊死させ,偽膜といわれる特徴的な変化を起こす。毒素は吸収され,神経,心筋,腎臓に障害を与え,合併症としていろいろな症状を呈する。罹患部位によって次のように分けられる。(1)咽頭ジフテリア 発熱,咽頭痛,倦怠が初期症状である。咽頭は発赤腫張し,24時間以内に扁桃に灰白色の斑点ができ,しだいにきたない偽膜となる。偽膜は重症では咽頭全体に,さらに軟口蓋にも広がり,頸のリンパ腺が腫張する。著しいときは頸が浮腫状にはれて牛頸といわれるようになる。さらに進行すると嘔吐,心拍亢進,意識障害があらわれ,1週間から10日ほどで死亡する。(2)喉頭ジフテリア 幼児に多い。発熱と咳で始まり,しだいにイヌがほえるような咳となり,吸気時にかすれた声が出るようになって吸気性呼吸困難がすすみ,ついには声が出なくなる。呼吸困難が増強するとチアノーゼ,仮死,死亡に至る。咳で偽膜がはがれて突然窒息死したり,逆に呼吸困難が軽くなることもある。(3)鼻ジフテリア 乳児にみられ,感冒のように鼻汁を出すが,しだいに血液がまざり鼻閉がすすむ。鼻孔周囲や上唇部に膿をもったできものができる。全身状態はあまり侵されない。(4)その他のジフテリア 女性外陰部,眼結膜,皮膚,耳にも発赤,腫張,偽膜,潰瘍を生ずる。
合併症 心筋炎 を合併することがあるが,これは心電図異常でわかる無症状のものから,不整脈,嘔吐,顔面蒼白などを呈するものまである。第2病週に起こりやすく,突然死亡することもある。また軟口蓋麻痺,眼筋麻痺,四肢麻痺,横隔膜麻痺がみられることがある。
治療 抗毒素血清とペニシリンやエリスロマイシンを使用する。
予防 三種混合ワクチン(百日咳・ジフテリア・破傷風)の接種。第1期は生後3ヵ月から3~8週間の間隔で3回,第2期は第1期完了後12~18ヵ月の間に1回,第3期は小学校6年生の間に3種混合ではなく百日咳を除いたものか,ジフテリアワクチンを1回接種する。 執筆者:渡辺 言夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」 改訂新版 世界大百科事典について 情報
ジフテリア
法定伝染病 。ジフテリア菌 により咽喉(いんこう),扁桃などに炎症をきたし,粘膜細胞の壊死(えし)による帯白色の偽膜を作ると同時に,菌体外毒素による全身症状を現す病気。潜伏期2〜7日。2〜4歳の小児に多いが,成人にもみられる。主要病巣部位により咽頭・喉頭・鼻ジフテリアなどに大別される。局所および全身中毒症状が激しくなると重症に陥る。特に菌体外毒素による心臓障害,喉頭ジフテリアの進行による気道狭窄(きょうさく)が起こると危険。発熱,偽膜,犬の遠吠様咳が3主徴となる。続発症として心筋炎,神経麻痺(まひ)(後麻痺)がある。治療はジフテリア血清 によるが,最近は抗生物質も使用される。 →関連項目仮性クループ |感染症予防法 |血清病 |血清療法 |三種混合ワクチン |トキソイド |飛沫感染 |予防接種
出典 株式会社平凡社 百科事典マイペディアについて 情報
ジフテリア diphtheria
ジフテリア菌による感染症。感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 で2類感染症と定義される。旧伝染病予防法 による法定伝染病の一つ。2~6歳の小児に多い。2~6日間の潜伏期を経て発熱するほか,扁桃,咽頭,喉頭などの上気道粘膜に,独特の乳白色あるいは灰黄白色の偽膜が生じ,これがはれて呼吸困難となり,また声がかれ,犬が吠えるような咳が出るなどの症状を示す。回復期に入ってから,ジフテリア菌の出す菌体外毒素 (外毒素) によって神経麻痺や心筋障害などの合併症を起すこともある。治療は特に早期が大切で,ジフテリア血清の注射のほか,抗生物質の使用や,強心処置を行う。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
ジフテリア
ジフテリア菌[Corynebacterium diphtheriae ]の産生する毒素による上気道の感染症.
出典 朝倉書店 栄養・生化学辞典について 情報