日本大百科全書(ニッポニカ)「血清療法」の解説
血清療法
けっせいりょうほう
抗毒素など高度に免疫された免疫血清を注射して感染症の治療を行う方法をいう。ワクチン療法を代表とする能動的免疫療法に対して、血清療法は代表的な受動的免疫療法である。1890年にベーリングと北里柴三郎(きたさとしばさぶろう)が、ジフテリア毒素や破傷風毒素で免疫した動物の血清が毒素を中和することを発見し、血清療法の基を開いた。ベーリングはこの功績により1901年第1回のノーベル医学生理学賞を受けている。
血清療法は化学療法と同様に原因療法の一つであり、これに用いられる血清を治療血清ともいう。これには、病原体の産生する毒素に対する抗体を多く含む抗毒素血清と、菌体に対する抗体を含む抗菌血清とがあり、その製造には主としてウマが用いられる。したがって、異種血清注入に対する副作用としてのアレルギー性反応や血清病などにつねに注意する必要がある。
なお、抗生物質など化学療法の進歩した今日でも、抗毒素による血清療法(抗毒素療法)だけは有効とされている。すなわち、菌体外毒素を産生する細菌性疾患(破傷風、ボツリヌス中毒、ジフテリアなど)および毒ヘビ咬傷(こうしょう)などの場合、毒素による症状が現れてからでは化学療法剤だけで症状の改善をあまり期待できないので、できるだけ早期に抗毒素血清が用いられている。
[柳下徳雄]