英語stickのなまりで,洋風の杖をいう。ヘロドトスによれば,古代バビロニアですでに精巧な彫刻を施したステッキが用いられていた。中世には王や聖職者の表徴として,また市民の実用品として用いられた。17世紀から19世紀にかけて,イギリスではスナッフ・ボックスsnuff box(かぎタバコ入れ)とともに,紳士の最も重要なアクセサリーと考えられていた。とくに休日の散策や礼装には欠かせないものとされた。フランスでは女性の散歩のさいのアクセサリーとして流行した。19世紀には女性は長柄のパラソル,男性は洋傘をステッキ兼用のアクセサリーとした。これらの風習は徐々に衰えながらも1960年代ごろまでつづいたが,70年代には完全に消滅した。日本では明治時代に輸入され,一時はかなりの普及をみた。
ステッキの材料はトウ(籐),シタン(紫檀),コクタン,サンザシなどが使われ,木目か節が少ないものほど上質とされた。デザイン的に特色があるのは握りの部分の形で,曲がったもの,直角に曲げたもの,ゴルフ・クラブの握りのような形,犬やライオンの頭部を模したものなどと変化は多い。変り型のステッキとしてシューティング・ステッキshooting stickと呼ばれるものがある。これは上部が開閉式になっていて,開くと小さな腰掛けになり,20世紀初期のスポーツ観戦には欠かせないものであった。
執筆者:高山 能一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
杖(つえ)のこと。英語の発音スティックの訛(なま)り。歩行時に体のバランスをとるための実用的なもの、身分や位を表徴するもの、装飾的なものなどがある。材料としては、籐(とう)(ケーン)、トネリコ、竹、桜などが用いられる。
すでに古代エジプトやオリエントの遺物のなかにみられ、王や神の尊厳や威光のシンボルとしても用いられた。中世においては、君主や僧侶(そうりょ)の表徴として不可欠であった。貴婦人のアクセサリーとしては11世紀に出現し、18世紀には、ロココ調の細くて高いヒールの靴にあわせて全盛をみた。男性用籐杖(とうづえ)は16世紀からで、17世紀にはフランス紳士の重要なアクセサリーとなったが、ステッキの流行は19世紀の末までで、20世紀に入ると、実用的なもののみが残るに至った。
日本では、古くは、先が二またになった鹿(かせ)杖と、撞木(しゅもく)のような形をした、T字形の横首杖(撞木杖)があった。また竹の撞木杖の頭に鳩(はと)形のものをつけた、宮中から長寿者に贈られる鳩杖(はとのつえ)があった。このほか、刑具(笞(ち)、杖(じょう)の罰用)、仏具(錫杖(しゃくじょう)や金剛杖)、祭具(卯杖(うづえ))、武器(仕込杖)などとして用いられてきたが、近世では杖は外出時のアクセサリーとなり、1887年(明治20)ころより洋杖にとってかわられた。
[田村芳子]
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