チェーホフ(英語表記)Anton Pavlovich Chekhov

デジタル大辞泉 「チェーホフ」の意味・読み・例文・類語

チェーホフ(Anton Pavlovich Chekhov)

[1860~1904]ロシア小説家劇作家。さりげない出来事のうちに、日常性のなかで俗物化していく人間への批判と人生の意味への問いかけをこめ、風刺とユーモアに富む文体で描いた。小説「退屈な話」「曠野こうや」「六号室」、戯曲「かもめ」「ワーニャ伯父さん」「三人姉妹」「桜の園」など。

チェーホフ(Chekhov/Чехов)

ロシア連邦サハリン州(樺太)南部の町。ユジノサハリンスクの北約130キロメートル、間宮海峡に面する。1945年(昭和20)以前の日本領時代には野田とよばれ、漁業と炭鉱業が行われていた。

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精選版 日本国語大辞典 「チェーホフ」の意味・読み・例文・類語

チェーホフ

  1. ( Anton Pavlovič Čjehov アントン=パブロビチ━ ) ロシアの小説家、劇作家。帝政期に、ユーモアと風刺に富む短・中編小説を数多く残す。簡潔な表現で日常生活をさりげなく描きながら、人間の俗物性を批判する、ヒューマニズムに貫かれた作風をもつ。代表作、小説「六号室」、戯曲「桜の園」「三人姉妹」「ワーニャ伯父さん」「かもめ」など。(一八六〇‐一九〇四

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改訂新版 世界大百科事典 「チェーホフ」の意味・わかりやすい解説

チェーホフ
Anton Pavlovich Chekhov
生没年:1860-1904

ロシアの小説家,劇作家。アゾフ海に面する港町タガンログで,雑貨商の三男として生まれた。祖父は農奴身分であったが,自由の権利を地主から買いとった。父が破産してモスクワに夜逃げした後,彼はひとり故郷に残り自活して中学を卒業した。モスクワ大学医学部に入学して医学を学ぶかたわら,ユーモラスな小品を雑誌,新聞に書きまくり家族を養った。医者となった後,かつてドストエフスキーを文壇に送り出した老作家D.V.グリゴロービチの忠告を受け入れ,より真剣に文学に身を捧げる決心をした。グリゴロービチを通して有力な保守派の新聞《新時代》の社主スボーリンと知り合い,彼の新聞に寄稿するようになってから経済的余裕も生まれ,よく練り上げられたチェーホフ独自の作風が育っていった。1887年の戯曲《イワーノフ》の上演は,劇作家としてのチェーホフの地位を不動のものとした。90年結核の身をおしてサハリン(樺太)に旅行,《サハリン島》(1893-94)と題するルポルタージュを書いた。92年モスクワ州メーリホボに別荘を求めて住んだ。この地で飢饉の救済やコレラ防疫,学校の建設などの社会事業に参加しつつ,中編《六号室》(1892),《わが人生》(1896),戯曲《かもめ》(1896),《ワーニャ伯父さん》(1897)などの傑作を書いたが,99年病気療養のためクリミアヤルタに移った。晩年はもっぱら戯曲の革新のために捧げられたが,モスクワ芸術座とのつながりの中で,一座の女優オリガ・クニッペルと1901年5月に結婚した。04年病状が悪化し,南ドイツのバーデンワイラーに転地,その地で死んだ。

 チェーホフは世紀末の〈灰色〉の時代の〈たそがれ歌い手〉〈絶望の詩人〉といわれてきた。平凡な人々の日常の行為を通して,人間のおかしさ,愚かさ,無意味さを描いたが,チェーホフその人の本質は南国生れの健康人の快活さとユーモアである。科学的で冷静な観察者であると同時に,未来を信ずるヒューマニストであったが,これは医者としての立場をよく反映している特質である。1886年から90年にかけてのトルストイ主義に共鳴した時代を除けば,同時代の支配的な潮流には荷担せず,そのため〈主義や原則をもたない〉作家という非難を浴びたが,このことはチェーホフが農民出の商人の家の出身で,ロシア文壇の主流であったインテリゲンチャの伝統と無縁であったこととつながりがある。チェーホフが世界的な名声を得たのは,まず短編の名手として,次いで雰囲気劇,静劇,〈間(ま)〉を巧みに用いた抒情的な劇の作者としてであった。《かもめ》,《ワーニャ伯父さん》,《三人姉妹》(1900-01),《桜の園》(1903-04)の四大劇が世界の近代劇に及ぼした影響ははかりしれない。チェーホフの作品は,明治の末に瀬沼夏葉によって紹介されて以来,ロング・ガーネットなどの英訳を通して日本に根づき,正宗白鳥,広津和郎,井伏鱒二などに大きな影響を与えた。演劇も築地小劇場以来,日本新劇のレパートリーの根幹をなしている。
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チェーホフ
Mikhail Aleksandrovich Chekhov
生没年:1891-1955

ロシアの俳優。作家A.P.チェーホフの甥。1913年モスクワ芸術座入団。スタニスラフスキーの指導のもとに《十二夜》のマリボリオ(1917),《検察官》のフレスタコフ(1921),ハムレット(1924)などで希代の名演技を見せたが,社会主義体制への反感から28年に亡命。ヨーロッパ,アメリカで舞台,映画に出演したが,祖国でのような成功作はない。晩年には俳優の養成を仕事とした。
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百科事典マイペディア 「チェーホフ」の意味・わかりやすい解説

チェーホフ

ロシアの作家。南ロシアのタガンログの商人の家に生まれる。モスクワ大学医学部を卒業し,医師としても活動した。学生時代からアントーシャ・チェホンテの名でユーモア短編を多作,やがて本格的な文学を志して,《曠野》《わびしい話》などの作品で1880年代末に短編小説の名手としての地位を確立。1890年にはサハリンに旅行,以後,作品に社会的な幅と深みも加わって,《六号室》《中二階のある家》《箱に入った男》《可愛い女》《犬を連れた奥さん》などの名作を書いた。晩年にはモスクワ芸術座と緊密な関係を結び,《かもめ》(1896年),《ワーニャ伯父さん》《三人姉妹》《桜の園》などの戯曲を発表,近代劇に一紀元を画した。絶望の時代を描いた作品にただよう虚無的な憂愁の底には人間と未来への確信がみられる。
→関連項目エフレーモフカザコフカーバーククルイニクスイ自由劇場神西清スタニスラフスキータガンログネミロビチ・ダンチェンコ昇曙夢俳優座ピトエフ

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旺文社世界史事典 三訂版 「チェーホフ」の解説

チェーホフ
Anton Pavlovich Chekhov

1860〜1904
ロシアの小説家・劇作家
ロシア文学の写実主義(リアリズム)の伝統の上に立って多くの短編小説と戯曲を書いたが,ロシア社会のさまざまな暗い面を仮借なく描き,同時につねに未来への明るい希望を失わなかった。代表作は『桜の園』『ワーニャ伯父さん』など。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「チェーホフ」の解説

チェーホフ
Anton Pavlovich Chekhov

1860~1904

ロシアの作家,劇作家。医師として働きながら,最初はユーモア小説家として出発したが,しだいにロシア社会の現実を鋭く暖かく描くようになり,小説『六号室』,ルポ『サハリン島』,戯曲『かもめ』『三人姉妹』『桜の園』などを生んだ。

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世界大百科事典(旧版)内のチェーホフの言及

【近代劇】より

…だが〈近代劇〉にいたるもう一つの重要な過程はロシア演劇の流れである。エカチェリナ女帝治下のD.I.フォンビージン,19世紀初めのA.S.グリボエードフをへてゴーゴリの《検察官》(1836初演)で一つの頂点を形づくる社会風刺劇の伝統は,つねに為政者の圧迫の下にあったが,それはA.N.オストロフスキーの中産階級劇,ツルゲーネフの有閑知識人劇,トルストイの農民劇等の既成劇場にすぐには受け入れられないリアリズム劇をとおってチェーホフ劇に流れ込んでいる。 ところで,リアリズム劇が舞台上のリアリズムを要求するのはいうまでもないが,古典劇の朗唱風演技を排して自然な演技を重視しだすのは18世紀後半である。…

【桜の園】より

…ロシアの作家チェーホフの4幕戯曲。1903年作。…

【悲喜劇】より

…彼の喜劇《ミンナ・フォン・バルンヘルム》はその理想に近づいている。近代劇でもF.C.ヘッベルの《シシリアの悲劇》,H.イプセンの《野鴨》,G.ハウプトマンの《ねずみ》,F.ウェーデキントの《カイト侯爵》のような悲喜劇的な作品が出ているし,またA.チェーホフ,B.ショー,L.ピランデロ,J.B.プリーストリー,T.ワイルダーにも悲喜劇的といえる作品がある。とくにチェーホフが,《桜の園》や《かもめ》のような伝統的な分類でいえば色濃く悲劇的要素を含んだ作品の副題に,わざわざ〈喜劇〉とことわっていることは有名である。…

【モノローグ劇】より

…これはモノドラマmonodramaと呼ばれるが,モノローグ劇という言葉は一般にもう少しまとまった一幕劇ないし一回の演目として十分な長さの劇を指すようである。例えばチェーホフの《タバコの害について》やコクトーの《声》はそういう一幕物だが,前者は登場人物が観客に向かって語りかけるというかたちを,後者は人物の電話でのやりとりを観客が聞くというかたちをとっている。後者のやり方の一種として,俳優やせりふによってそこにいるはずの見えない人物の存在を暗示したりすることもある。…

※「チェーホフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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