硝酸繊維素,硝化綿ともいい,セルロースの硝酸エステルである。セルロース誘導体では最も早く1833年に合成された。綿火薬として実用化され,60年代にニトロセルロースの精製安定法が見つかり,無煙火薬の製造につながった。68年J.W.ハイアットはニトロセルロースにショウノウを混合することによって,初めて合成樹脂すなわちセルロイドをつくった。ニトロセルロースから繊維をつくる研究は80年代にいくつか行われ,C.H.B.deシャルドンネの絹はかなりの量で生産された最初の人造絹糸である。この製法では,燃えやすいニトロセルロースは紡糸後に脱ニトロ化され,再生セルロースへ変えられて安全に使用された。
現在,ニトロセルロースは世界の数ヵ国で工業的に生産されている。最大の用途はラッカー塗料であり,続いて火薬,推進剤である。ニトロセルロースはフィルム強度が高く溶媒の速乾性に優れており,また,可塑剤,樹脂,顔料などの添加で改質することができる。セルロイドは眼鏡フレーム,装飾板,玩具などに使われている。
ニトロセルロースは木材パルプやコットンリンター(C6H7O2(OH)3)nを硝酸と硫酸の混合物でニトロ化してつくられる。水酸基-OHが全部ニトロ化されると14.14%窒素を含有するはずであるが,工業的に製造されているのは,ラッカー塗料に使用される平均12%の窒素を含有するもの,11.5%窒素含有のもの,およびフレキソ印刷インキや紙の熱密封ラッカーに使われる11%窒素含有のニトロセルロースである。
執筆者:瓜生 敏之
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セルロースエステルの一つ。一般的には硝酸繊維素、硝酸セルロースといわれているが、塗料、セルロイドあるいはコロジオン用の場合には硝化綿、火薬・爆薬用の場合には綿薬または綿火薬とよばれてきた。
精製乾燥したセルロースを、硝酸、硫酸、水の3成分からなる混酸に常温付近において浸して得られる。混酸の組成により種々の窒素量のニトロセルロースが得られ、窒素量によって強綿薬、弱綿薬および脆綿(ぜいめん)薬に分けられる。理論的にはセルロースの単位構造当り3個の硝酸基が入り、窒素量14.14%となりうるが、実際には14%以上の製品を得ることはむずかしい。強綿薬は無煙火薬、弱綿薬はダイナマイト、ラッカー、人工レザー、脆綿薬はセルロイドの原料として用いられる。
[吉田忠雄・伊達新吾]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…綿のような安価なセルロース系天然繊維から高級な絹に似た人工繊維(人造絹糸,略して人絹ともいう)を作ろうという努力が始まった。ニトロセルロースがフランスのブラコネH.Braconnetによって1832年セルロースと硝酸から合成されたので,スイスのC.F.シェーンバインが46年にこれをエーテルとアルコールに溶かして糸に引いたのが始まりである。85年にC.H.B.deシャルドンネはニトロセルロースを紡糸後に脱ニトロ化してシャルドンネの絹と呼ばれる最初の実用になるレーヨンを作り,一時期広く使用された。…
※「ニトロセルロース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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