翻訳|baboon
サハラ砂漠以南のアフリカ大陸と,アラビア半島の南端部に生息する霊長目オナガザル科のヒヒ属Papioとゲラダヒヒ属Theropithecusに属する旧世界ザルの総称。バブーンともいう。エチオピア,ソマリアからアラビア半島にかけてのサバンナに生息するマントヒヒ,マントヒヒよりもさらに高地の,エチオピア高原の荒地に生息するゲラダヒヒ,コンゴ民主共和国西部からナイジェリアにかけての熱帯降雨林に生息するマンドリルおよびドリル,サハラ以南の広大な地域に生息するサバンナヒヒの4群に大別される。このうち,サバンナヒヒはキイロヒヒ,ギニアヒヒ,チャクマヒヒ,ドグエラヒヒの4亜種からなるが,これらを独立した4種として扱う場合もある。ゲラダヒヒは,ヒヒ類の中でもっとも高地の亜高山帯に生息しており,根茎などの堅い食物に適応した歯の形態などにより,他のヒヒ類とは別の属に分けられている。
ヒヒ類は一般に地上生活者で,植物食を主とする雑食者である。雄と雌の体格差は著しく,雄の体重は雌の2倍近くに達する。体色や形態は種によって大きく異なり,マントヒヒの雄のマント状の長い毛や,マンドリルの雄の極彩色の顔などは特徴的である。ヒヒ類の多くは,他のオナガザル科のサルと同様に,成長した雄が集団を移籍する母系的社会構造をもつが,マントヒヒやゲラダヒヒは,さらに複雑な重層的社会構造を発達させている。ヒヒ類の特徴の一つとして,自然状態でも種間雑種ができやすいという点をあげることができる。エチオピア南部には,ドグエラヒヒとマントヒヒの自然の混血集団が形成されており,人為的交配によれば,多くの種間で繁殖能力をもった雑種をつくり出すことができる。また,アジアからアフリカにかけて生息するマカック属Macacaのサルとの間の雑種ができる例も知られている。これらの点は,種分化の過程での性的隔離の問題を考えるうえで重要である。
執筆者:古市 剛史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科のうち、サハラ砂漠以南のアフリカ全域とアラビア半島の一部に分布するヒヒ属とゲラダヒヒ属に含まれる動物の総称。日本語の狒々は年を経た大きなサルを意味する語で、のちにアフリカ産のヒヒにあてられたものであろう。ヒヒ属Papioのうち、ギニアヒヒP. papio、ドグエラヒヒP. anubis、キイロヒヒP. cynocephalus、チャクマヒヒP. ursinusの4種はサバナ(サバンナ)性で、森林地帯を除く全域を四分して分布し、森林性のマンドリルP. sphinxとドリルP. leucophaeusはカメルーン、ガボン、コンゴの多雨林に、マントヒヒP. hamadryasはエチオピアとアラビア半島の半砂漠に、ゲラダヒヒ属TheropithecusのゲラダヒヒT. geladaはエチオピアの高地草原にすんでいる。サバンナ性の4種を一括してサバンナヒヒとよんで1種P. cynocephalusとする考えや、森林性の2種をマンドリル属Mandrillusとしてヒヒ属から独立させる考え方もある。
オナガザル科のなかでは大形のサルで、雄は体長70~80センチメートル、体重20~30キログラムに達し、がっしりとした体格をもつが、性差が著しく、雌は小形である。森林性の2種の尾は短く、10センチメートル程度であるが、他は体長の80%程度の尾をもつ。いずれも鼻口部が突出し、独特の顔つきをもつ。地上性の傾向が強く、とくにサバンナ性の種の生態は、初期人類の生活を考える場合重要視される。ヒトの進化において、サバンナへの適応が重要な意味をもつと考えられるからである。またマントヒヒとゲラダヒヒは、基本的社会単位の上位、下位にも集団構造が認められ、ヒト以外の霊長類ではまれな重層社会をもつ点で注目される。
[川中健二]
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