翻訳|vector
医学分野において、病原体を媒介する動物や、組換えDNA実験で遺伝子の運び手をさすことば。
病原体を媒介する動物(媒介動物)としては、ダニなどの節足動物のほか、ハエ、カなどの昆虫、シャーガス病を媒介するサシガメ、ノミなどの吸血虫やダニなどの中間宿主(しゅくしゅ)が含まれる。病原体に属するものには、ウイルス、リケッチア、バクテリアなどのほか、マラリア原虫のような原生動物および線虫や蠕虫(ぜんちゅう)などの寄生虫が含まれ、ベクターによってほかの動物へ媒介される。
ほかに、生物学的に病原体を伝播(でんぱ)させるものという意味合いで媒介者と訳されることもある。病原体の伝播メカニズムとして、病原体がベクターの体表に付いて運ばれ伝播する機械的伝播と、病原体がベクターの体内で増殖や有性生殖あるいは変異することによりヒトに感染するようになり、さらにヒトからヒトへ感染するようになる生物学的伝播があり、生物学的伝播を媒介するものを媒介者とよぶ。
また、組換えDNA実験においては、宿主細胞または核内に、ほかの生物などから外来性のDNA(デオキシリボ核酸)を運び入れる役割を果たすDNA分子(断片)をさす。ウイルス、プラスミド、ファージ(バクテリオファージ)などが用いられ、こうしたベクターは宿主細胞内において複製することが可能である。
[編集部 2016年5月19日]
遺伝子工学で用いるDNAの運搬体.プラスミドDNAやファージDNAを改変し,利用しやすくしたものが多い.外来遺伝子はそのままでは大腸菌などに入れても増えないので,宿主内で複製が可能なプラスミドの一部に組み込んで導入し,増幅する.遺伝子工学的にタンパク質を生産する場合も同様で,目的の遺伝子を適当な発現ベクターに組み込んで,宿主内で,複製・転写・翻訳が進むようにデザインする必要がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…レプリコンとは,その分子内に複製に必要な構造(DNA複製酵素が認識して複製を開始する部位)を持っているもので,例えば細菌の環状DNAはレプリコンである。ファージDNAやプラスミドDNAもレプリコンであり(ファージDNAによる形質転換を特にトランスフェクションtransfectionという),遺伝子工学において供与DNAを運ぶために使われるベクターvectorもほとんどの場合レプリコンである。もっとも,ある細胞でレプリコンであるものが別の細胞においてもレプリコンであるとは限らない。…
… 遺伝子工学では,試験管内DNA組換えという方法が用いられる。これは,プラスミドやバクテリオファージなどの自律的に増殖できるDNA(ベクターvectorという)に,例えば高等生物からとった増やしたいDNA断片を試験管内で挿入することである。この場合,DNAを切るには種々の制限酵素,つなぐにはDNAリガーゼという酵素を用いる。…
※「ベクター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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